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罵り

「ふむ、なかなか耐えましたがこれでしばらくは立てないでしょうね」


 ヒュン、と空気を切り裂き鋏を消して視線をうつす。

 零式の装甲はところどころ破壊され、意識が絶たれた様子の龍臥を見て天叢雲は頷く。

 そういえば、彼の母親と戦ったのは何時ごろだっただろうかと思考を遡る。彼女がとても強かったというのは覚えている。

 今のように人間の姿にこそなれず本来の姿で刃を交えたのだがその頃には人の言葉を理解し喋ることができた。


(とは言っても拙い片言のような喋りだと思いますが)


 それでも、それでも彼女は真剣に殺気を乗せて天叢雲を殺そうとした。アレは今思い出してもゾクゾクとする高揚感があった。

 そんな宿敵とも呼べる存在の子どもと合間見えることになるとは……妖魔の身といえど運命的なものを感じると思える。

 当時の実力は天叢雲の方が僅かに劣っていた。実際にもう少しで死ぬところだったところであり、龍臥というイレギュラーがあの場に現れたからこそ紙一重の勝利だった。

 では、今ならばどうだろうか? とふと考える。龍臥は当時よりもずいぶんと大きく見えるのでそこそこの年月が経っているはずだ。

 妖魔である天叢雲には時間の感覚はよくわからない。少しだけ考えこむが、まぁいいやと考えるのをやめた。今するべきなのはかつての宿敵の息子を喰らうことだけだ。

 宿敵を食べることは当時できなかったが、息子も味はよかろうと確信している。


「では、いただきましょう」


 胸が躍る、という言葉があるが妖魔である天叢雲もそれは例外ではなくそれほど龍臥という人間を食べるのを楽しみにしている。

 一歩、一歩と近づいていく。

 涎が止まらない。どんな味がするか、どんな食べ方をしようか。そう考えた時だった。


「!?」


 何かが飛んでくる気配を感じ、腕を振いソレを弾く。


「これはクナイ……!?」


 弾いたのはクナイ。そしてその先には縄に火がついた爆弾のようなものがついていた。

 直後に強い光が天叢雲の視界を奪った。


(あの女忍者か? ですが彼を助けるような仲ではないと思うのですが……)


 頭の中に炎のことが思い浮かぶ。だがその考えは違うということをすぐに思い知らされた。

 連続して身体に衝撃が走る。ダメージこそ大したものではないが、気配も感じなかったことに素直に感心する。

 しかし誰がこんな芸当をできるのか?

 天叢雲は知らない。この街には炎や小山たち以外に忍者がいたことを。

 忍者でありながら他人のために命がけで戦うことを嫌がっている抜忍がいたということを。


『貴様……よくも主人様に怪我を負わせたな』


 視界が回復しはじめた時、幼さの中に殺意を込めた声が聞こえ、オオカミのようなシルエットが見えた。


「は、あははは。今宵は心が躍ることがこんなにもあるとは! さあさあ何者でしょうか!?」

『名乗る気は、ない』


 再びクナイが数本放たれる。ただし狙いは天叢雲にではなく中間距離である地面に突き刺さり、大量の煙が噴出される。


「なんと!? 煙幕!」


 周囲は視界がきかないほどに煙幕に覆われ、声の主も見えなくなり気配も感じられない。

 追撃のために身構えるが、なにもこない。

 煙幕が晴れた頃には、周囲には誰もいなかった。気絶していた龍臥すらも。


「……あははは! 感慨にふけずにさっさと食べてしまえばよかったですね!」


 高い笑いを上げつつ、近くに生えていた木へと無造作に腕を振う。瞬間、木には切筋が入りそのまま崩れ落ちた。


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