邂逅1
「……なんか、ここの空気は嫌な感じがするな」
夜中の巡回中、俺は公園にきていた。痕跡もなにもないけど、嫌な気配を感じる。
ここ数日の妖魔狩りには遭遇しない、とは言ったがそれまでの空気のひりつき方が違う。少しでも油断したら首をもっていかれそうな……そんな気配がする。
……それにしても、よりにもよってこの場所というのは、腹の底から黒いものが込み上げてくる。
この公園は、母さんが命を落とした場所だ。
あの時のことは今でも夢に見るくらいに俺の中にこびりついている。
と、ここまで考えた時に鼻の頭に滴が落ちてくる。それから次第に連続して滴が間隔を短くして雨が降り始めた。
「おいおい……今日は一日中晴れの予報だったろうに」
気分が否応なしに下げられていく。
けれども、と考える。こういう日にこそ案外ツキが回ってくるかもしれない。そう思うと少しだけ前向きになれる。
雨に打たれながら周囲を見渡す。風に吹かれながら古びたブランコが軋み、滑り台の終点先には徐々に水たまりが溜まっていく。
――そう思考しているときに背後から悪寒が走った。
全力で足に力を入れその場から離れ、すぐに方向転換をして視点を変える。
視界に映った先には白髪の女がいた。どこの誰だかわからないが、だけど俺の本能がこの女を知っていると訴えている。
「あらら……そんなに怯えなくてもいいのに」
「なんだ、てめぇ。人じゃねえだろ」
「おお、よくおわかりですね。これでもこの姿には自信があったのですが……あっさり看破するとは。血の匂いでも残していましたね?」
「血の匂いなんざこの雨風でわからねえよ」
けどその言葉で堅気でないのは間違いないわけだ。俺の返答に至極感心したように女はうなずき「これがカマをかけるということですか」と呟いた。
「そんなつもりはなかったんだけどな。で、お前は妖魔か?」
「そこまでわかっているのですか。警察、という治安組織でも私たちのことはわかっていないようでしたが……君こそ何者です?」
質問に質問で返すなよ、と言いたいのを堪えながらいつでも零式を纏えるように準備だけはしておく。
「俺は鳳龍臥。個人的な理由で妖魔狩りをしている男さ」
へぇ、と呟いた瞬間から女の空気が変わった。その様子はまるで楽しそうで、子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。
「妖魔狩り、君個人でか」
「悪いか?」
「まさか! 私は素晴らしい行為だと思いますよ!」
「そりゃ意外だな。お前からすれば同胞殺しだぜ?」
「弱き者は淘汰される、それが自然の摂理だろう。加えて私は強い人間や勇気ある人間は非常に好ましいですからね」
アハハ、と楽しそうに笑う女。
……人型の妖魔である以上、もう疑いの余地もないだろう。
「次はお前の名前を教えろよ。白髪妖魔」
「これは失礼を。私は天叢雲」
「そいじゃ天叢雲。ついでだ、もう二つほど質問に答えてもらおうか」
「ええ、いいですよ。わかることであればお答えしましょう」
「それじゃ一つ目。お前はここ最近で忍者の女を妖魔にしたか? 具体的に言うならサソリの妖魔に、だ」
「ああ、彼女のこともご存知ですか。それは私ですね。彼女の執念はなかなかに……極上ものでしたから。人間であることを捨てる覚悟も好印象でした」