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確かなる前進

「ぁ……あぁ……!?」

「文字通り手も足も、それどころか尻尾も消えちまったな」


 皮肉を込めた言葉を、嘲笑を交えて龍臥は呟いた。



「さて、さすがに頭だけになってもまだ意識あるのは想定外だな」

「主人様、お怪我のほどは……心配ご無用ですね」

「千代ォ……ぶぎっ!?」


 いかん、頭だけなのに動こうとしたので思わず地面に叩きつけてしまった。執念深い女だが、こうなっては長くないだろう。むしろすぐ消滅しなかっただけすごいんだろうが。

 だが地面にぶち当てられたにもかかわらずサソリ女は猛獣のように血走った目で俺たちを睨みつける。

 まぁ、だからどうしたとう話なのだが。


「お前はオカシイ……なぜ私ヲ見ても動じなイ!?」

「んなもん、お前みたいなやつが初めてじゃないだけだ」


 そう言った途端、サソリ女は目を見開き動揺する。

 本当ならさっさと消滅させて葉山の仇討ちを終わらせたいところだが……人間が妖魔になるというイレギュラーは無視するべきではない案件だろう。


「どうやって妖魔になった。ある朝目が覚めたら妖魔になっていました、なんていうわけじゃないだろ」


 素直に喋ってくれればいいのだが、そうしない場合は耳の穴に指を突っ込んで口を割らせるか……いや、それだと消滅速度が進むだけか。

 全貌とは言わないが、少しでも情報がわかればそれに越したことはない。


「言え。どうせ今から消えるしかないんだ。言えばすぐに楽にしてやる」


 少しだけサソリ女は口をつぐんだ後、諦めたかのように口を開いた。


「……千代を追ってここに来て間もナい時に喋ル妖魔に聞イた。少しずツ妖魔の一部を食べれバ力が手に入ルとね」

「! その喋る妖魔ってのはクワガタの姿をしていたか!?」


 そうだ、とサソリ女は肯定する。この情報は、予想以上の収穫だ。


「そいつは今どこにいる! 知っているなら教えろ!」

「知らなイわ……ただ、最初に見たときハ人の姿を……」


 そこまで言いかけてどんどんと頭が崩れていく。


「ここ、までネ……まァいいわ……どういう形デあれ高垣炎二勝てた」


 その言葉を最後に口が消滅し、俺の手からサソリ女は完全に消失した。

 まだ情報が欲しかったが、もうどうしようもない。最後に満足気に死なれたのは非常に業腹だが……。


「けど、これで当初の目標自体は果たせたか」


 葉山、満足な結果じゃないかもしれんが……これでお前を殺した奴はこの世からいなくなった。それだけでも、お前への供養とさせてくれ。


「主人様、見事なお手際でした」

「ありがとう。千代さんたちから見たらお粗末な点も多かったかもだけど」

「いえ、そのようなことはございません。現に炎姉様が敗れたのは事実です」

「そう言ってもらえたらありがたいかな」


 本心でそう思う。外傷が再生する驚異はあったといえど体力の方は違うというのが私見だ。

 サソリ女は先に炎さんによって根本的なダメージは蓄積されていて、再生にも体力が持っていかれているはずだ。

 俺のやったことは根本的には美味しいところを持って行っただけ、そう思っている。


「しかし主人様……先ほどの小山さんとの話を聞く限り人間の言葉を介する妖魔とは因縁がおありなのですか?」

「ああ、やっぱり気になる?」

「はい。不躾な質問であるとは重々承知しているのですが……」

「怒ってるわけじゃないよ。そうだね、いい機会だし話そうか」


 俺が今までやっていたことが大きく進展があったわけだし、そもそもなんで俺が妖魔狩りなんかしているのかっていう理由でもある。


「俺が妖魔を狩るのは母さんを殺した妖魔を探して復讐するため。そしてその妖魔は人の言葉を喋るんだ」

「なんですって!?」


 驚愕する千代さん。その反応から忍者の情報網でも今までそんな妖魔はいなかったのだろう。

 けれども俺はあの日、確かに見た。ヒーローのように強く、優しく、誰かを守るために戦っていた母さん。

 そんな自慢でかっこよかった母さんを、あの妖魔は殺した。

 だからこそ俺はあのサソリ女が人間の言葉を喋っていたことに驚くことはなかった。

 しいて驚くべき点をあげたらあの妖魔と違って人間の姿もあったこと。俺が見たあの野郎はでかいクワガタを模したものであり、通常の妖魔の範疇だ。


「まぁわかってくれたと思うけど、俺は常に私怨で動いているんだ。千代さんが忍者であろうとなかろうと、この根っこの部分は変わらないんだ」

「そういうことだったのですか……」

「そういうこと。で、俺の鋼鉄兵器……零式は母さんの形見なんだ」

「納得しました。主人様も辛い思いをされていたのですね……」


 千代さんは俺に近寄り、抱きしめる。そしてあやすように俺の頭を撫でてくれた。その手は柔らかく、そして暖かかった。


「……帰ろうか。あ、でも炎さんの方はどうしよう?」


 放っておくわけにもいかないしどうしたものか。千夜さんだけ先に帰ってもらって俺が交番にでも置いていくか……


「もう起きているから安心したまえよ」


 ニュッ、っと突然炎さんの顔が現れて変な声を出しかけた。


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