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奇変

 小山はクナイを投げつけ、炎はそれをたやすく弾き間合いを詰める。

 急接近からの回避不能と思えるほどに速い炎の一撃を紙一重でかわし、カウンター気味に足払いをかける。

 たいして動じる様子もなくひょい、と跳んで回避。お返しとばかりに腹に蹴りを打ち込み後退させて流れるようにクナイで小山の目をえぐるように狙う。

 すんでのところで顔をわずかに逸らし、なんとか頬を深く切るだけで済ませる。

 伸びきった炎の右腕を左腕で抑え、顎に向けて掌底を放つ。が、それに合わせるようにわずかに顎を引いて頭突きで迎撃する。

 わずかに苦悶の表情を浮かべる小山の隙を逃さず、緩んだ腕の拘束を解きクナイをそのまま背中に突き刺し、捻る。


「っがあぁ!?」

(わかってはいたけど、やはりこの小娘は馬鹿みたいに強い……!)


 また一つ隙ができた、と炎は頭突き。クナイから手を離し流れるように拳を浴びせる。

 鳩尾を始めた人中線を狙い、着実なダメージを与えていき、よろついた小山の右腕を掴み膝を使ってへし折る。

 鈍い音と小山の悲鳴が混ざるが、炎は気にした様子もなく止めに回し蹴りを浴びせて小山を後方へ飛ばした。


「がふ……げほ……!」


 そのまま何度か転げまわり、赤黒い血を吐きながらうずくまる。


「啖呵を切った割には、って感じだね。右腕以外は亀裂骨折とクナイの傷ってところか。血を吐いたようだから内臓もか? さて、まだやるかい?」


 冷えた声音で問いかける。


「は。は……やっぱり、『私』はこんなものか」


 だが炎に向けて言葉は言わずに、かわりに自嘲した笑いをこぼす。


 ――本当に笑ってしまうほどに、私は弱い。


 今まで積み上げたものが心で音を立てて崩れていく。小山は涙を流し、不気味に笑う。

 今の攻防は時間にしてみればほんの一分程度のもの。忍者としてのキャリアははるかに小山が長いにも関わらず、ほとんど一方的な敗北。炎はおそらく本気の五割も出していないだろう、それくらいには力の差を感じていた。

 それは小山の心が折れるには十分すぎるほどの現実だった。


「……調子が狂うな。ほんとにどうしたんだ、小山」


 だがそんなことはわかるはずもない炎は動揺と苛立ちが露になる。


「ああ、もう、いい……もういい!」


 キヒ、と壊れたように笑い、立ち上がりそのまま炎を見た。

 そして小山に起きている異変に気がついた。


「傷が……回復している?」


 へし折ったはずの腕が、既に機能し始めているありえない光景に。


(ありえない。小山からは目をそらしていないし、なにか仕掛ける素振りも見せなかった。強がりのカモフラージュさせる隙なんて与えていない)


 そもそも傷の程度を考えればもう戦闘は続行不可能であるほどの重傷だ。忍者がいくら常人よりも強かろうが、回復力があろうがほんのわずかな時間で回復できる傷ではない。


「もう、もうもうもうもうもうもうもうもう」


 壊れた時計のアラームのように小山は同じ言葉だけ呟く。

 もう何かが手遅れだということをハッキリとわかり、クナイを小山の頭に投げつける。

 狂いなく軌道は心臓に向かう。だが奇妙なことにクナイは小山の背後から現れた『何かに』弾かれた。


「なっ⁉︎」

「高垣炎……お前に勝つためなら私はもう『人間』でなくなっていい!」


 その叫びと共に、小山には黒いモヤがまとわりついていく。

 このモヤは炎たち忍者には見慣れたもの、すなわち妖魔が現れる際に出るものと同一だった。

 小山の腕にはサソリを思わせるハサミが、顔にも甲殻が、そして禍々しくトゲのついた尻尾が生えていた。


「これは……」

「これが、人間をやめて得た力ダ! ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

「人間が妖魔になるとは……いやはや、困ったものだ」


 腰から自身の鋼鉄兵器、蟒蛇を抜き出す。


「変転」


 蟒蛇が分解され装甲が炎に装備されていく。


「……第二ラウンド、行こうジャないカァ!」


 狂気じみた小山の声の元、炎は小太刀を構えた。


復讐心や怒りなどの負の感情はものすごく疲れる感情であると私は思いますし、時には虚しく感じることもあります。

しかしものすごく疲れるということは、それだけのエネルギーがあるわけですね。今回の小山は嫉妬や焦燥からこうなりました。

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