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21.錆びた名将対決

秋季東京大会ブロック予選

第9ブロックB代表決定戦

2010年9月25日(土) 都大二高G 第2試合

都立富士谷高校―都立阿立西高校

スターティングメンバー

(ブロック予選は選手名簿が発行されない為、身長体重出身地は無し)


先攻 富士谷

中 ⑧野本(1年/右左)

遊 ⑥渡辺(1年/右右)

一 ③鈴木(1年/右右)

投 ①柏原(1年/右右)

右 ⑨堂上(1年/右右)

二 ④阿藤(2年/右右)

捕 ②近藤(1年/右右)

左 ⑦島井(2年/右右)

三 ⑤京田(1年/右右)


後攻 阿立西

三 ⑤後藤(1年/右右)

右 ⑰阿川(1年/右左)

遊 ⑥四谷(1年/右左)

投 ①小畑(2年/右右)

一 ③広田(2年/右右)

捕 ②尾形(2年/右右)

左 ⑨飯田(2年/右左)

中 ⑧西村(2年/右右)

二 ⑭石見(1年/右両)

 ブロック大会代表決定戦、阿立西戦の当日を迎えた。

 舞台は都大二高グラウンド。一試合目の勝者・都大二高と入れ替わって、俺達は三塁側のベンチに入った。


 キャッチボールやトスバッティング等、恒例のアップを終わらせると、阿立西のシートノックを見届ける。

 選手達は、強豪私学に負けじと機敏な動きを見せていて、レベルの高さが窺えた。


 阿立西には二人の軸がいる。

 一人は4番でエースの小畑さん。171cm76kgくらいのパワーピッチャーで、最速130キロ台中盤の直球と緩いカーブを投げる。

 所謂、都立レベルでの好投手だが、この投手は関越一高時代に滅多打ちにした。

 所詮はその程度であり、富士谷でも4点は取れるだろう。


 ただ、相沢や文化祭のせいで忘れかけていたが、この試合は4点では足りないのだ。

 田村さんの入部条件はコールド勝ち。俺が完封したとしても、8回までに7点は必要になる。


 そして阿立西にはもう一人、特徴的な人物がいる。

 それが――。


「なぁーんでそれが取れねぇーんだよぉ! やる気あんのかぁ!! あぁ!?」


 怒鳴りながらノックを打つおっさん――有間監督である。


 とにかく勝てないと言われる都立高校だが、夏は東西合わせて4度ほど甲子園に出た事がある。

 その内2回は瀬川監督、1回は故人、そして残りの1回は、この有間監督だった。


 典型的なスパルタ監督で、試合中も暴言スレスレの罵声を叫び散らす事で有名だ。

 ただ、手は絶対に出さないので、意外にも問題になった事は一度もない。


 有間監督はこのやり方で、今まで数々の都立高校を強くしてきたが、最近は求心力が落ちている。

 時代に合っていないのだろう。阿立西は実力校ながらも、選手17人という数字が現実を物語っている。


 同じ甲子園経験者ながら、対極に位置する瀬川監督と有間監督。

 都立の名将対決は、予定通り12時30分に試合開始が告げられた。



 1回表、富士谷の攻撃。

 先頭の野本は三球目を捉えるも、深めのセンターフライで打ち取られた。

 野本は俊足だが、走り打ちやセーフティを嫌い、バットを振り切る傾向にある。

 長期的に見たら悪くない打ち方だが、この試合は出塁を優先して欲しい所だ。


 そんな期待に答えるように、続く渡辺はセンター前ヒットを放った。

 鈴木もそうだが、武蔵境シニア出身者は、レベルスイングでライナーを放つのが上手い。

 ここの後輩は来年も欲しい。確実に下位打線より打てるだろう。


 3番の鈴木はセカンドへの進塁ゴロ。

 これで二死二塁となり、俺の打席が回ってきた。


 閑散とした雰囲気で、選手達の掛け声だけが飛び交っている。

 俺は淡々と右打席に入ると、マウンドの小畑さんと視線を交わした。


 この投手は正史の本大会で攻略している。

 特別な事を考える必要は無い。得意のストレートに合わせてバットを振り抜くだけだ。

 そうすれば――。


「よっしゃー、ナイバッチ柏原!」

「ナベちゃんホーム!!」


 外野の頭は簡単に越えられる。

 レフトオーバーの当たりは、先制のタイムリーツーベースとなった。


 まだ気は早いが、勝つだけなら問題なさそうに思える。

 ただ、今回のノルマはコールド勝ち。先制くらいで喜んでいる場合ではない。


 続く堂上は四球を選ぶも、阿藤さんはセカンドライナーで倒れて1点止まりとなった。

 阿藤さんは並レベルの投手であれば、それなりに打つ事ができる。

 実際、正史でも1本は打っているので、この試合は期待して良いだろう。



 1回裏、阿立西の攻撃。

 1番・後藤はスライダーで空振り三振。

 2番・阿川はサークルチェンジでピッチャーゴロ。

 3番・四谷にはライト前を許したが――。


「ットライーク! バッターアウッ!」


 4番でエース、小畑さんをストレートで空振り三振に仕留めた。

 相手打線の編成は富士谷に似ていて、下位打線は非力な打者が多く、中軸の3人は強豪私学の選手と遜色ない。

 この中軸さえ切り抜けられれば、失点する事は無いだろう。



 2回表、富士谷の攻撃。

 問題の下位打線だが、課題にも個性がある。


 先ずは7番の近藤から。

 近藤は力だけはあるので、球威のあるストレートにも振り負けない。

 が、とにかくバットに当てるのが下手で、ボール球にも手が出やすい。

 この打席はカーブで空振り三振。瀬川監督は7番にしたがるが、個人的には9番で良いくらだ。


 続く打者は島井さん。

 島井さんは阿藤さんと同じで、レベルの低い投手であれば、それなりに打つ事ができる。

 しかし、阿藤さんよりも精度は低い。典型的な弱小都立の主力選手と言った感じだ。

 この打席はライトフライ。近藤よりは期待できる。


 ラストバッターは京田。

 ある意味、彼が一番特殊であり、改善点がハッキリしている。

 先ず、京田はバントだけは非常に上手い。思った所にバットを出す、という能力には長けているのだ。


 そんな彼が自動アウトである由縁は、その非力さにある。

 力のある球に振り負けるのは勿論、バットに振らされているので、狙った所にスイング出来ていない。

 この打席も弱々しいサードフライ。冬場の増量は必要不可欠だろう。


 2回を終えて1得点か。あまり良いとは言えないペースだな。

 下位打線は期待できない。やはりというべきか、上位中軸でビッグイニングを作るしかないだろう。

富士谷10=1

阿立西0=0

(富)柏原―近藤

(阿)小畑―尾形


NEXT→12月10日(木)20時頃

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