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18.女神と天使と文化祭

文化祭準備の話も書きたかったけど時間が無かった……。

 ブロック大会2回戦の前日、富士谷高校では文化祭が行われていた。

 厳密に言えは明日も文化祭だが、公式戦と被っている野球部には関係ない。

 我がクラス、1年2組の出し物は劇であり、明日参加できない俺や琴穂は小道具の準備係だった為、1日暇を持て余している所だった。


「なるほど、転生って周回できたんだね〜」


 そう言って俺の横を歩いているのは恵である。

 残念ながら、じゃあ琴穂と文化祭を回ろう、という流れにはならなかった。


 彼女はバスケ部仲間だった苗場と共に、文化祭を回る約束をしていたらしい。

 と言う事で、俺は相沢から貰った情報を、恵に流している所だった。


「確認だけど、お前は周回してないんだよな?」

「うん。ってか周回してたら、もっと早く相沢くんの存在に気付けたと思うよ」


 ごもっとも過ぎるな。

 相沢が何周しているかは知らないが、二周目以降は八玉学園でレギュラーになっている筈だ。

 八玉学園の主力が都大二高に入学していれば、高校野球博士の恵なら試合前に気付けただろう。


「じゃ、小難しい話はこの辺にしてさ、一緒に文化祭回ろうよ〜」


 恵はそう言って、俺の腕を引っ張ってきた。

 琴穂と回れない以上、断る理由も無かったので、その提案に従う事にした。


 人の多い学校の廊下を、180cm近いプロ注目右腕と、発育の良い美少女が歩いている。

 その姿は画になるのか、周りの人間から注目されているような気がした。


「かっしーってさ、ぶっちゃけ彼女かお嫁さんいたでしょ?」


 ふと、恵がそんな事を聞いてきた。


「なんだよ急に」

「琴ちゃん以外の女の子には全く動じないから、経験あるんだろうなーって」

「そうだな。一週間だけ付き合った子と、結婚した相手で計2人いる」


 もう隠しても仕方がないので、俺は正直に答えてしまった。

 ちなみに前者については、琴穂への未練を捨てきれず、相手を素直に愛せなくて別れるという、我ながらクソみたいな内容だった。


「そろそろ教えてよ、正史の事」

「今度な。今日はせっかく文化祭なんだし」

「あっ……それもそうだね。じゃ、今度は絶対教えてよ」


 そんな言葉を交わしていると、1年3組――恵のクラスに辿り着いた。


「よしっ、じゃあ此処から入ろうよ〜」

「お前のクラスか。何やってんの?」

「お化け屋敷」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はかつてないほど顔面を歪めてしまった。


「あっ、もしかして怖いの?」


 恵はニヤニヤしながら煽ってきたが、残念ながら微塵も怖くはない。

 何故なら――。


「恵、本当に怖いのはな、幽霊や妖怪よりも生きた人間なんだよ」

「悟り過ぎでしょ……」


 一度、地獄を見た俺は知っている。

 人を都合の良い道具としか思っていない方々に比べたら、幽霊など可愛い存在である事を。


 取り敢えず、俺達はお化け屋敷に入ってみた。

 そして改めて思うけど、素人が作ったお化け屋敷は悲しいくらいチープである。

 ビックリさせられる事はあれど、恐怖を感じる事は微塵もない。


「きゃー!」


 にも関わらず、恵は棒読みで叫び声を上げると、俺の右腕に抱き着いてきた。


「演技やめろ」

「あはは、バレちゃった?」

「そりゃあな。これで怖がる高校生は、世界中を見渡しても琴穂くらいだろ」

「それは言い過ぎでしょ……」


 その瞬間、お化け役の生徒達に睨まれた気がした。

 今のは俺が悪いけど、やはり怖いのは生きた人間だと実感する。


「けど本物の幽霊が出たら私も無理かな。おしっこ漏らしながら土下座する自信あるよ」

「逃げろや」

「足遅いから無理! 土下座して許してもらうか、かっしーに守ってもらうしかないね〜」

「俺がその場にいる前提かよ……」


 そんな感じで、下らない会話を続けていると、お化け屋敷も終わりを迎えていた。


 それから、幾つかの教室を回った後、俺達は1年2組――俺のクラスへと足を運んだ。


「かっしーのクラスは何やってるの?」

「劇だけど、今日の分は終わってるから、今は何もやってねーんじゃねーかな」


 そう言って扉を開けると、そこに居たのは――。


「あ、かっしーとめぐみんだっ!」


 ピンク色のクラスTシャツを着た琴穂と、同じクラスの苗場だった。


「……デート?」


 琴穂はキョトンとした表情で、不思議そうに首を傾げた。

 心無しか目が笑ってない気がする。俺は咄嗟に恵から離れると、


「いや、明日の試合に向けて打ち合わせしてたんだ」


 と、滅茶苦茶な言い訳でお茶を濁した。

 恵がジト目で睨んできたけど、こればっかりは仕方がない。

 琴穂に誤解される訳にはいかないからな。


「で、二人は此処で何してたんだよ」

「即席で輪投げ屋さんを作ったの。かっしーもやってく?」


 そう言って苗場が指差した先には、雑に作られた的が一本だけ立っていた。

 輪投げ舐め過ぎだろ。一個入れたらクリアじゃないか。


 俺は呆れながら目を細めていると、苗場は何か閃いたかのように、ハッとした表情を浮かべた。


「じゃあクリアしたら、私と琴穂の好きな所を一回だけ触っていいよ」


 その瞬間――俺は何も言わずに輪を握り締めた。


「(ほんと隠す気ないよね……)」

「(あ、やっぱそうなんだ……)」


 恵と苗場の視線が突き刺さったが、俺は気にせず腕を回した。

 琴穂は満更でも無さそうな表情でニコニコしている。


「勿論、私達も触られたくはないからね、邪魔はするよ」

「邪魔しちゃうよっ!」

「じゃあ私も邪魔しちゃおーっと」


 俺と的の間に女子3人が割って入った。

 これでは並の人間では的に入れられない。どうやら、輪投げを舐めている訳では無さそうだ。


 並びは左から苗場、琴穂、恵の順番。

 現役バスケ部であり、1年生で一番上手いらしい苗場の方向には投げたくない。

 と言うことで、ここは運動音痴の恵と、背の低い琴穂の頭上――右中間を通すのが得策だろう。


 俺は一度、左方向にフェイントを仕掛けると、恵がまんまと引っ掛かった。

 そのまま右中間へと輪を投げる。琴穂は輪を追って手を伸ばすがーー。


「むぐっ!?」


 恵の大きな胸に向かって、顔を埋めながら抱き付く形になった。


「さすが野球部のエースだね。的に入れるだけじゃなくて、間接セクハラまで決めるなんて」

「それは言い掛かりすぎねえ??」


 なんとでも言えばいい。

 輪は的に入った。これで合法的に琴穂を触る事ができる。


 俺は迷わず琴穂の前に立つと、琴穂は手を後ろに回して、上目遣いで見上げてきた。


「か、かっしーも男の子だもんねっ! 覚悟はできてるよっ!」


 琴穂はちょっと強がりながらも、顔を赤くして緊張している様子だった。

 可愛い、可愛すぎる。心無しか、彼女の鼓動まで聞こえている気がした。


 きっと堂上や鈴木だったら、躊躇なく胸や下半身に手を伸ばすのだろう。

 けど、そんな破廉恥なセクハラを仕掛けたら、きっと彼女は傷付くに違いない。

 だから俺は――最初から此処を触ると決めていた。


「ああ……柔らかい……」


 俺が差し出した右手の人差し指は、琴穂の頬に触れていた。

 ほっぺたがプニプニするって、都市伝説じゃ無かったんだな。

 そう思わされるくらい、彼女の頬は柔らかかった。


「かっしー……つっつきすぎだよぉ……」

「一回だけって言ったでしょ! これはレギュレーション違反だよ!」

「いや、お前らに触る分を琴穂に使っただけだから」

「そんなシステムないから!!」


 そんな感じで、文化祭の時間は過ぎていった。

12月から暫くは2〜3日に1話ペースの更新になります。

次回の投稿は12月4日(金)20時過ぎの予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほー、頭を撫でるとか安直なところには行きませんか 手を握るとかでもよかったんデスヨ?
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