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2.新チーム始動

 西東京準決勝の裏側で、仲間との温度差に不安を覚えながらも、富士谷高校の新チームが始動した。

 先ずは、孝太さんも含めて全員でミーティングを行い、改めて別れの挨拶が告げられた。

 孝太さんは頻りに「みんなは悔いを残さないようにね」と語っていたけど、選手達にどこまで響いていたかは分からない。


 主将は唯一の控えだった島井さんに決まった。

 と言っても、これは前から決まっていた事なので、今さら任命式のような事を行った訳でもない。

 消極的な阿藤さんよりは適性があるだろうし、妥当な人選と言えるだろう。


 ミーティングを終えると、何時ものように練習が始まった。

 その中には孝太さんの姿もあり、グラウンドの光景は旧チームと変わらない。

 孝太さんは補助が中心だったけれど、混ざれる場面では今まで通り、精一杯のプレーを見せていた。


「やっぱ上でも続けるんですか?」


 休憩中、孝太さんにそう聞いてみた。


「うん。色々考えたけど、このままじゃ終われないよ」


 その言葉を聞いて、俺は安堵の息を漏らす。

 甲子園には連れて行けなかったけど、彼の人生を変える事はできた。

 今度こそ全国大会に出て、プロ野球選手になって、金城孝太という選手を世間に知らしめて欲しい。


「一応、行き先も決めてるんだ」

「どこです?」

「東山大学。大崎から誘われてね」


 東山大学は一部リーグに所属し、プロ野球選手を輩出した実績もある。

 かつて孝太さんが在籍していた東山大菅尾の選手もいるだろうし、最善の選択だと俺も思う。


「とりあえずセレクションから受けてみるよ。ダメだったら、一般入試で受けるから勉強もするけどね」

「他もセレクション受ければよくないっすか?」


 今の孝太さんなら、引き取り手は幾らでもある。

 いくら知り合いがいるとはいえ、そこまで東山大学に拘る必要もないだろう。


「いや、俺は東山大学でやりたいんだ。今度こそ皆と全国に行って……失った物を取り返したいからね」


 孝太さんは真剣な表情でそう言った。


「富士谷に来たことを後悔してるとか、そういうのじゃないからね」

「わかってますよ」

「俺は……竜也や琴穂と一緒にやれて本当に良かったよ。勿論、他の皆ともね。けど、次は菅尾の仲間達とやり直したいんだ」


 そう語る孝太さんの視線は、はっきりと前を向いている気がした。

 これは決して未練ではなく、次のステージへの希望なのだろう。

 少なくとも俺はそう捉えたい。


「じゃ、セレクションに受かる為にも、毎日練習しなきゃっすね」

「ああ、できる限り顔は出すよ」


 孝太さんはそう言って、少しだけ笑みを見せると、


「あっ……けど合宿は無理だなぁ。全額実費になるし……」


 と言葉を続けた。

 富士谷高校野球部では、明後日から合宿が行われる。

 雨天順延で日程がズレたとはいえ、明後日は西東京の決勝戦。日程が被っているが、都立ではよくある合宿の組み方らしい。


 この日程を知った当時は思わず戦慄してしまった。

 かつて名門にいた身としては、合宿といえば大会期間と被らないGWという印象があったからだ。

 公式戦と被ったり、甲子園出場が決まった場合は合宿を中止するらしいけど、敗北を前提に組まれた日程には違和感しかなかった。

 閑話休題。


「ま、そりゃ仕方がないんじゃないっすかね」

「本当は行きたかったんだけどね……凄く心配だし……」

「大丈夫ですよ。新チームも任せてください」


 不安を露にする孝太さんに、俺は得意気に言葉を返した。

 強いて言うなら、京田達との温度差は不安であり悩みだった。

 ただ彼らは「時間内であれば厳しくてもいい」と言っていたので、合宿という一点で言えば大きな問題は無いだろう。

 すると孝太さんは、


「いや琴穂が……」

「そっちかよ」


 なんて言うものだから、思わずタメ口が出てしまった。


「今までも修学旅行とかあったでしょう。何を今更……」

「いやー、6日間は今まで無かったからさ……」


 孝太さんはそう言葉を漏らすと、唐突に語り始めた。


「琴穂ってすっごく恐がりでさ、夜中のトイレも一人で行けないくらいなんだよ」


 かわいい、超かわいいな。

 けどそれは、琴穂からしたら秘密にして欲しかったんじゃないか?


「怖い夢を見ると、寝れないって言って、俺の布団に入ってくるんだよ」


 羨ましいな畜生。

 そろそろシスコンを取り締まる法律が必要まである。


「ああ、大丈夫かなぁ。不安で夜も寝れそうにないや……」


 寝れないのはアンタもじゃねーか。

 琴穂が絡むと死ぬほどダメだなこの人。


「大丈夫ですよ。恵も卯月も面倒見いいですし、いざとなれば俺が一緒に寝て……」

「竜也……」


 俺はそこまで言うと、孝太さんは言葉を溢した後、


「ちょっと調子のったな??」

「大変申し訳ございません……」


 と突っ込んできたので、俺は謝る事しかできなかった。

 彼をお義兄さんと呼ぶ日はまだまだ遠い。

▼西東京準決勝


都大亀002 200 134=12

佼呈学100 000 031=5

【亀】勝吉(7)、小高(2)―西田

【佼】梅田(3.1)、平澤(4.2)、前野(1)―中島


創_唖000 000=0

都大二200 125=10

【創】古川(5.1)、畑森(0)―小松

【二】横山(6)―小西

※6回コールドゲーム

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― 新着の感想 ―
[一言] 実名で書きますけど菅生から東海大って枠が少ないんですよね。だから結構よその大学に流れます。
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