表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/699

【遅すぎるハロウィン特別回】ぎぶあんどていくっ!

これはハロウィンに便乗した特別回です。2章は夏休みから始まります。

また、本筋には全く関係のない話になるので、読まなくても全く問題ありません。


 2010年11月1日。練習のない月曜日という事もあり、俺は自宅で優雅な一時を過ごしていた。

 ちなみに、世間では昨日――10月31日がハロウィンだったらしいが、特に何も起きずに終わっている。


 当たり前だ。渋谷に繰り出るつもりもなければ、近所の子供に与える慈悲もない。

 数あるイベントの中でも、これほど高校球児に無縁なイベントはないだろう。


ピンポーン!


 そんな事を考えていると、インターホンが音を奏でた。

 特に荷物が来るとも聞いていないし……まさか、一日遅れで子供達が攻め込んで来たのだろうか。


 両親は仕事。弟と妹は部活がある為、今は俺しか家にいない。

 ここは転生者として、プロ注目右腕として、手ぶらのまま追い返してやろう。


 部屋を出て、階段を下りると、そのまま扉に手を掛ける。

 そして扉を開けると、そこにいたのは――。


「ぎぶ あんど ていくっ!」


 と叫ぶ、制服姿の琴穂だった。


 前言撤回、追い返すなんてとんでもない。

 琴穂が俺の家に来たのだから、俺の総力を上げて歓迎するしかないだろう。


 ただ、一つ気になる点がある。一体、彼女は何をしに来たのだろうか。

 ギブアンドテイクとか言ってるけど……目的が全く見えてこない。


「お菓子ちょうだい!」

「もしかしてハロウィン?」

「うんっ! どう見てもそうでしょ!」


 なるほど、合点がいった。

 トリックオアトリート「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」という暴論ではなく、ギブアンドテイク「何か貰ったら何か与える」という言葉を選んだのは、彼女が対等な関係を望んでいたからだろう。

 さすが琴穂、優しさに溢れている。彼女を天使と呼ばないならば、誰を天使と呼ぶのだろうか。


「ちなみにコスプレは……?」

「女子高生っ!」


 いつも通りじゃねえか、とは言わなかった。

 女子高生とは、制服が一番完成された姿であり、原点にして頂点なのである。

 さすが琴穂、よく分かっている。断じて際どいコスプレも見たかったとか、そんな事は思っていない。


「あっ……」


 琴穂はハッとした表情を見せると、一瞬だけ携帯をチラ見した。


「と、とりっくあーとっ!」

「美術館かな」


 突然どうした。

 これは一緒に行きたいという暗示と捉えていいのだろうか。


「と、とにかく! お菓子くれないと悪戯するよっ」

「ああ、好きに悪戯してくれていいよ」

「いやお菓子ちょうだい」

「はい」


 とまあ、そんなやりとりをしてから、自宅に琴穂を招き入れる事となった。





 俺が買い貯めている菓子は二つある。

 一つはザッ○ルのベーコンペッパー味。俺はこの菓子が好きだったが、数年後には生産が終了してしまうので、可能な限り買い貯めている。

 そして、もう一つは――。


「あ、わたあめ作るやつだ!」


 家庭用の綿菓子機とザラメである。

 なんてことはない、クラスの自己紹介で琴穂が「好きな食べ物はわたあめ」と答えたのを聞いて、いつでも歓迎できるように用意していたのだ。


「すぐ出せる菓子はないけど、これなら用意できるよ」

「わーいっ! 一緒に作ろっ!」


 琴穂は目を輝かせながら、台所に上半身を乗り出した。

 初めての共同作業か。控え目に言っても素晴らしい提案だと思うが、残念ながらそれは叶わない。

 何故なら――。


「制服めっちゃ汚れるけど大丈夫?」

「あっ……そっか。じゃあ待ってるっ!」


 素人のわたあめ作りは、割りと大惨事になる事がある。

 俺はスウェットだし自宅だから問題ないが、制服がベタベタになるのは大変困るだろう。


 うん、我ながら気を使えたな。

 そう思った次の瞬間「エプロンを使わせれば良かったのでは?」という選択が頭を過った。

 盛大にやらかした。エプロン姿の琴穂と横に並ぶ千載一遇のチャンスを、俺は棒に振ってしまったのだ。


 心では泣きながら、琴穂に視線を向けてみた。

 琴穂は小走りでソファーに向かっている。そのまま俯せ向きに飛び込むと、紺色のスカートがふわっと捲れた。


 ……ちょっと背伸びしたピンク色だった。

 下半身に着ける布切れなんて、一周目の結婚生活でクソほど見慣れた筈なのに、何だか自然と惹かれて、凄くドキドキしてしまった。


 まあ俺も男なので仕方がない。

 そんな事を思いながら凝視していると、琴穂は左手でスカートを抑え、此方に視線を向けてきた。


「大丈夫、何も見てない」

「かっしー……私そこまでバカじゃないよ……」

「ごめん……」


 琴穂のジト目が心に突き刺さる。

 やってしまった。これは嫌われたかもしれない。

 そんな不安が全身を過ったが――。


「えへへ……まあいいけどねっ」


 琴穂は少し恥じらいながら笑みを溢した。

 こんな穢れている俺を許してくれるのか。やっぱ琴穂は天使だな、彼女の慈悲深さに感謝しなくてはならない。


「……っと、こんなもんでいいか」


 俺は雑念を振り払うように、特大の綿菓子を作り上げた。

 やがてソファーまで持っていくと、琴穂は嬉しそうに受け取った。


「やった! かっしー、ありがとっ!」


 琴穂はそう言って綿菓子に口を付けた。

 笑顔で綿菓子に夢中になる姿は、控え目に言っても超かわいい。

 この姿が見れたのだから、見返りは十分すぎるほど受けたと言っていいだろう。


「ギブアンドテイクだな……」

「なにが!?」


 ハロウィンも悪くないな。

 そんな事を思いながら、束の間の休日は過ぎていった。

よく教室でザックルを食べてました。

過去に戻れるなら買いだめしたいですね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ