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96.その男、キャプテンにつき

富士谷002 010 010=4

関越一000 000 02=2

【富】柏原-近藤

【関】池田、仲村、松岡-土村  


 真夏の阪神甲子園球場は、相変わらず炎天下に包まれていた。

 雲一つ無い青空。空席が見当たらないスタンド。銀傘の影は少しだけ伸びている。

 この景色も見納めだと思うと、何だか少し名残惜しい。


 遂に球児生活最後のマウンドに立ってしまった。

 厳密に言えば、まだU-18世界大会や国体が残っているけど、富士谷の一員として全国制覇を目指すのは今日が最後。

 あと1イニング、たったアウト3つ取るだけで、俺の高校球児生活は終わる。


『9回裏 関越第一高校の攻撃は 9番 レフト 伊藤くん。背番号15』


 9回裏、関越一高の攻撃は途中出場の伊藤から。

 177cm78kg、中軸候補の2年生が右打席でバットを構えた。


「(周平さん繋ぐ……絶対に繋ぐ!)」


 伊藤との対決は2回目。先程の打席ではスプリットで空振り三振している。

 他の打者に比べて球は見れていない。少しだけで強気に攻められる。


 一球目、俺は真ん中やや内寄りに向かって腕を振り抜いた。

 放った球は……外へ逃げていく高速スライダー。

 伊藤は迷わずバットを振り抜くが――。


「ットライーク!」


 金属バットは空を切ってストライク。

 まだタイミングが微塵も合っていないな。続けても良いかもしれない。


「ボール!」


 二球目、今度は外角から外れていくスライダー。

 伊藤はバットを出し掛けるも、何とか止めてボールになった。


 結果的に見逃された……が、まだ勝負の主導権は握れている。

 伊藤は見るので精一杯と言った様子。スプリットも脳裏にあるだろうし、追い込まれたくはないだろう。


 三球目、俺はインコースにツーシームを投げ込んでいく。

 伊藤は迷わずバットを出していくが――。


「フェア!」

「おっけい!!」


 芯を外した平凡なゴロは、サード京田の真正面に転がっていった。

 後は無難に裁けるかどうかプレッシャーもあるかと思われたが、京田は無難に一塁へ送った。


「アウトォ!」

「しゃあ!!」


 一塁審の右腕が上がってワンアウト。

 頭から滑り込んだ伊藤は、悔しそうに一塁ベースを叩いた。


 選手達の精神面は問題なし。俺も今のところは腕を振れている。

 この調子で後アウト2つ。たった2つだけアウトを取れれば――。


『1番 ライト 岸川くん。背番号 17』


 一死無塁、続く打者は1番の岸川。

 あとアウト2つで勝利とはいえ、ここから打順は上位に戻る。

 スタンドからは「紅」の前奏が響いていた。


 1人出せば大越、2人出せば周平、そして3人出せばサヨナラの走者を置いて土村に回る。

 ここまで来ると観客も相手を味方するだろうし、やはり9回裏は3人で切りたい。


「(セーフティあるよな?)」

「(フツーに内野安打怖いっすね)」


 内野陣は少し前。岸川の足を警戒している。

 ただ、内野の頭を超すだけの力はあるし、前に出過ぎは厳禁だ。


 一球目、俺はセットポジションから投球モーションに入る。

 その瞬間――。


「(俺には……これしかないッ……!)」


 岸川は唐突にバットを寝かせてきた。

 想定にあってセーフティバント。俺は迷わずストレートを放っていく。

 別にやらせて問題ない。そう思われた次の瞬間だった。


「(押し込むッ……!)」

「(……!?)」


 岸川はバットを前に出して、プッシュバントを敢行してきたのだ。


「わああああああああああああああ!!」

「面白いぞ!?」


 打球は俺の頭上に舞っている。

 もし頭を超えれば内野安打は確実。いくら津上が強肩とはいえ、これだけロスすると岸川の足には勝てない。


「くそっ……!」


 俺は前に出る足を咄嗟に止めると、慌てて後方に舵を切る。

 捕れるか捕れないか際どい当たり。打球を追い掛ける暇もなく、俺は直ぐさま白球に飛び付いた。


「あぶねっ……!」

「捕ったか!?」


 慌てて俺を躱す津上。

 咄嗟のダイビングだったので、変な姿勢で地面に叩き付けられた気がする。

 ただ、それでも俺は――。


「アウト! アウト!!」

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ナイキャッチ!!」


 最後までボールを離さなかった。

 白球はグラブの先ギリギリ。一塁を駆け抜けていた岸川は、その場でガックリと項垂れた。


 あとアウト1つ。早ければ後1球。

 そう思いながら起き上がろうとした……が、俺は思わずフラ付いてしまった。

 今ので疲労がドッと来た気がする。ここまで耐えてくれた右肘も一段と重い。


 ゴールは目前なのに。

 それなのに、ここにきて限界が近付いている。


 9回裏、二死無塁、そして俺の疲労も限界。

 お互いに追い詰められた、この土壇場で迎える打者は――。


「2番 ショート 渋川くん。背番号 6」

「(……)」


 関越一高の主将・渋川憲心が右打席に入った。


富士谷002 010 010=4

関越一000 000 02=2

【富】柏原-近藤

【関】池田、仲村、松岡-土村  


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