95.背水の陣
富士谷002 010 01=4
関越一000 000 02=2
【富】柏原-近藤
【関】池田、仲村、松岡-土村
9回表、富士谷の攻撃が始まろうとした頃。
一塁側のブルペンでは、堂上と中橋が肩を作り始めていた。
最終回は何が起こるか分からない。そう言った部分で、万全を期しているのだろう。
「(俺のホームランで突き放してやんぜ!)」
一方、右打席には京田が立っている。
この回の攻撃は9番から。京田はアウトだとしても、一死で1番の野本に回ってくれる。
もしかしたら、追加点が望めるかもしれない。
と、そう思った次の瞬間――。
「タァイム!!」
唐突に一塁審からタイムが掛けられ、試合が中断された。
何事だ……と一瞬焦ったが、すぐに合点が行った。
堂上の投球練習が逸れてしまい、バックネット付近まで転がってきてしまったのだ。
「ットライーク!!」
「(これは打てん!!)」
仕切り直して一球目、京田は外低めのストレートを見逃した。
球速表示は139キロ。サイドスローという事も考えると、京田が打ち返すのは厳しいコースか。
変化球か、或は甘いストレートか。
どちらかに絞って振り抜けば、今の京田なら内野の頭を越える。
サイン交換が終わって二球目。周平が投球モーションに入ろうとすると――。
「タァイム!!」
またしても、堂上の投球がグラウンドに入り、試合が中断されてしまった。
この短時間で既に二球目。やはりと言うべきか、前日に強襲打を受けた影響があるのだろう。
「中橋大丈夫かよー」
「……わり」
そして……隣で投げ込んでいる中橋だが、此方も叩き付ける球や、高めに浮いた球が目立っていた。
前日、滅多打ちにされた直後だ。球威不足を痛感して、力んでしまっているに違いない。
「柏原」
「なんっすか」
「……ここまで来たら最後まで行くぞ」
「うっす」
そんな投球を見てか、畦上監督は低い声で囁いてきた。
堂上、中橋は共に怪しい。吉岡と芳賀はリスキー過ぎる。
改めて思うのは、今日は「俺しかいない」という事だった。
そう考えると、やはり1点でも多くのリードが欲しい。
俺も連投かつ故障持ちの身だ。最終回に捉まっても可笑しくないし、既に捉まりかけている。
「アウト!!」
「ああ〜……」
ただ、そんな思いも虚しく、先頭打者の京田はセカンドゴロに打ち取られた。
一死無塁、続く打者は野本。右サイドには有利な左打者である。
「(バックドアでカウント取ってくるよね。それを狙おうかな)」
吹奏楽部が奏でる「スマイリー」の音色が流れる中、野本は左打席でバットを構えた。
マウンドの周平は涼しい表情。リリーフなだけに、体力には余裕があるように見える。
「ボール!」
「ボール、ツー!!」
一球目と二球目はストレートが外れてボール。
外、内と際どいコースを攻めてきたが、野本は冷静に球を選べている。
そして迎えた三球目、周平はバックドアのスライダーを放った。
その瞬間、野本は迷わずバットを出していく。
白球を芯で捉えると、掬い上げるように振り抜いていった。
「おおおおお!!」
「大きい!!」
「え、入る!?」
大きな打球は右中間、ややセンター寄りに飛んでいく。
フェンス手前まで伸びそうな当たり。柵は越えなそうだけど、長打になりそうな強い打球だ。
「(無理だッ……!)」
「(これ以上の点やれないYO……!)」
ライトの岸川は早くも諦め気味。
一方、大越は落下点まで一直線に走っている。
もし処理がモタつけば三塁打になりそうだったが、大越の足取りに迷いはなかった。
「(俺なラ……とれル……!)」
落ちてくる白球に飛びつく大越。
その瞬間、ボールの姿が見えなくなり、岸川は慌てて周りを探し始めた。
果たして白球の行方は――。
「アウト! アウトォ!」
「わあああああああああああ!!」
「よく捕った!!」
大越のグラブに収まっており、二死無塁となってしまった。
必死なのは関越一も同じ。2点差のまま9回裏を迎えようと、選手一丸となって戦っている。
「(よし、少しでも竜也を休ませよう)」
ここで迎える打者は渡辺。
吹奏楽部が奏でる「Sunny Day Sunday」が流れる中、右打席でバットを構える。
三者凡退の流れが漂っている中での打席になった……が、渡辺は自慢のミート力で粘ってくれた。
ストライク先行で追い込まれたものの、そこから際どい球をカットしてファールを量産していく。
気付けばカウントはフルカウント。渡辺への投球は12球目を迎えた頃だった。
「ボール、フォア!!」
渡辺は四球を選んで二死一塁。
あと一人、津上が出塁できれば俺に回る。
時間も少し心配だけど、7回までノーノーペースだったお陰で問題ない。
と、そう思ったのだが――。
「ットライーク! バッターアウト!」
「しゃあ!!」
「(ッチ、ここで変化投げんのかよ……)」
津上はフルカウントまで粘るも、最後はスプリットを空振ってしまった。
9回表の攻撃は0で終了。2点差のまま、9回裏を迎える事となった。
泣いても笑っても最後の攻防。
あとアウト3つ取れるかどうかで、この転生を取り巻く物語のエンディングが変わる。
マウンドに向かう足取りは意外と軽く、肘は少しだけ重みを感じた。
富士谷002 010 010=4
関越一000 000 02=2
【富】柏原-近藤
【関】池田、仲村、松岡-土村




