表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
669/699

73.ギリギリ綱渡り

聖輝学000 004 001 0=5

富士谷111 100 010=5

【聖】歳川―大松

【富】柏原、堂上、中橋、柏原、堂上―近藤

 11回裏、富士谷の攻撃。

 なんとかピンチを凌いだ俺達だったが、流れが此方に傾くという事はなく、防戦一方の展開になりつつあった。


 中橋はフルカウントまで粘るも見逃し三振。

 近藤もセカンドフライに打ち取られ、大川は捉えた当たりをショート瀬川に好補された。

 サクサクと三者凡退へ12回表へ。こうなってくると、堂上に踏ん張ってもらう必要があるのだが――。


「ボール、フォア!」


 先頭打者の鎌倉に、フルカウントまで粘られた末に四球を出してしまった。

 やはり強襲打の影響が大きいのだろうか。

 球威は十分に見えるけど、抜けたボール球が露骨に増えている。


 続く大松はバントの構え。

 ここでも堂上は制球が定まらず、3ボール0ストライクとなってしまう。

 ただ、何とか4球目を枠内に収めると、5球目で無難に送りバントをさせた。


 一死二塁、一打負け越しという場面で、今日は当たっている歳川を迎える。

 投手としても11イニング投げている選手。握力も少なからず落ちているに違いない。

 と、そんな希望的観測をしていたが、結局フルカウントから四球を出してしまった。


「おいおい……大丈夫かよ……」

「柏原に戻さないと命取りになるぞ」


 これで2イニングで4四球。

 あまりの荒れっぷりに、一塁側スタンドからも困惑の声が漏れている。

 俺としても気が気でない……が、ここから失点しないのが堂上の持っているところ。

 平野をレフトフライ、八百坂を見逃し三振に打ち取り、この回も無失点で切り抜けた。


「さすが空前絶後の負けず嫌い!」

「ひゅ〜、魅せるねぇ〜」


 自作自演の堂上劇場に、仲間達も妙な盛り上がりを見せている。

 チームの状態は悪くない。俺以外は純粋に野球を楽しめている。

 後は流れに乗るだけなのだが、相手の気合も並々ならぬものだった。


「ットライーク! バッターアウト!」

「っしゃあ!(ここまで来たら退けないべ。ぜってぇ勝つ)」


 先頭打者の野本、スプリットを振らされて空振り三振。


「アウト!」

「おおおおおおおおお!」

「ナイス大泉!」


 巧打の渡辺はセカンドライナー。

 捉えた当たりだったものの、大泉のジャンピングキャッチに阻まれた。

 そして――。


「アウトォ!」

「惜しかった……」

「鎌倉もよく捕った!」


 津上はフェンス手前のレフトフライ。

 12回裏も三者凡退で終わり、試合は10年後ならタイブレークとなる13回へと突入した。


 これは……最悪の更に上をいく展開になってきたな。

 当時の延長戦は15回まで。この時点で決着が着かないと、翌日に再試合となってしまう。


 そうなってくると、逆に関越一高は明日が休養日。

 この試合の勝者は4連戦、対する関越一高は中1日と、絶望的な不利対面になってしまうのだ。


 綱渡り状態の堂上に加えて、絶望の再試合も刻一刻と迫っている状態。

 クソ、考えれば考えるほど焦りが出る。何とかしたいけど、投球に関しては堂上に任せるしかない。


 13回表、その堂上のピッチングだが、相変わらず荒れに荒れていた。

 先頭打者の大泉にはボール先行のピッチング。最後は何とかライトフライに抑えたものの、出塁と紙一重の内容が続いている。


 一死無塁となり、続く打者は瀬川徹平。

 むしろ彼だけは四球でもいい。下手に長打を打たれると苦しくなる。

 と、そう思った矢先――。


「(ッチ、フォア待ちじゃ埒が明かねぇ。こうなったら……!)」


 瀬川はファーストストライクの三球目を振り抜くと、捉えた打球は左中間に飛んでいった。

 久々に出た会心の当たり。弾道こそ低いものの、鋭いライナーが左中間を貫いていく。

 瀬川は悠々と二塁をオーバーランすると、右手を振り下ろすようにしてガッツポーズを見せた。


 一死二塁、一打負け越しのピンチ。それも打者は4番の栗城である。

 聖輝学院の実質No.1は瀬川とはいえ、相手にとって好打順なのは間違いない。


「ボール、フォア!!」


 その栗城はストレートのフォアボール。

 更にピンチが広がった……が、ここから抑えるのが今日の堂上である。

 しかし、続く小手森にもフルカウントから四球を出してしまい、一死満塁のピンチを招いてしまった。


『6番 レフト 鎌倉くん。背番号17』

「(先ずは見よう。話はそれからだ)」


 ここで迎える打者は鎌倉。選球眼が良く、今日も複数の四球を選んでいる。

 押し出しは流石に洒落にならない。守備のタイムを挟んだので、落ち着いてくれるのを願うばかりだ。


「(もうリードしようがねぇ)」

「(ふむ……真ん中でいいのか。異論はない、真っ向勝負だな)」


 一球目、堂上はセットポジションから腕を振り下ろす。

 白球はド真ん中に吸い込まれると――鎌倉は悠々と見逃してきた。


「ットライーク!!」


 運良く見逃してくれてストライク。

 正直、今の高さはライトから見ても普通に怖かった。

 相手の消極的な姿勢に感謝するしかない。


「ボール!」

「ボール、ツー!」


 二球目、三球目は変化球が外れてボール。

 バッティングカウントとなり、鎌倉の顔付きが少し変わった気がした。


「(相手としてはスリーボールにはしたくない。次は初球みたいに真ん中に入れてくるかもな)」

「(変化の後で緩急はある。ストレートで押し切るぞ)」

「(ふむ、承知した)」


 バットを力強く握る鎌倉、ミットを構える近藤。

 堂上は二つ返事で頷くと、セットポジションから投球モーションに入った。


 四球目、堂上は力強く腕を振り下ろしていく。

 放たれた球は――やや真ん中に寄った外角のストレート。

 その瞬間、鎌倉は迷わずバットを振り抜いてきた。


「(少し振り遅れた……けど!)」


 打球はライト方向、ちょうど此方に飛んできている。

 恐らく定位置やや後ろのフライになりそうな当たり。

 後は三塁走者の瀬川がスタートを切るか、俺がホームで刺せるかという所である。


「(並のライトなら余裕でいけるな。柏原だと普段ならきちぃかもしれねーけど――)」


 三塁ベースに張り付く瀬川。一方、俺は窮屈ながらも少し助走をつけていく。

 そして白球がグラブに収まると――。


「(いける!)」

「(刺す!)」


 その瞬間、瀬川がスタートを切ると共に、俺も渾身の力でホームにブン投げた。

 流石に瀬川は足も速い。ただ、此方が投げた推定150キロ超の送球も近藤の真正面に向かっている。


「おおおおおおおおおお!!」

「際どいぞ!!」


 どよめく両軍のスタンド。

 だんだんと歓声が大きくなる一方で、後は見守る事しか出来ない。

 やがて白球が近藤のミットに収まると、瀬川は躱すように足から滑り込んでいった。


「アウト!!」

「いやセーフだ!!」

「どっちだっ!?」


 ホームには砂塵が巻き上がっている。

 近藤は最短の動きでタッチして、瀬川も左手だけでホームを触りにいっていた。

 果たして、球審の判定は――。


「アウト! アウトォ!!」

「わあああああああああああああ!!」

「さすが柏原!!」


 その瞬間、一部側スタンドがドッと湧くと、俺も思わず握り拳を作ってしまった。

 絶体絶命、一死満塁のピンチを好返球で無失点。ホッとしたというよりも、目に見えない勢いに煽てられている感じがする。


 これは……流石に流れが味方してくれるのではないだろうか。

 幸い、13回裏は4番の俺から。自力で突破口を打開できる。

 これ以上、ギリギリの綱を渡らない為にも……次で絶対に終わらせる……!



聖輝学000 004 001 000=5

富士谷111 100 010 000=5

【聖】歳川―大松

【富】柏原、堂上、中橋、柏原、堂上―近藤

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ