68.繋げたい男
聖輝学000 004 00=4
富士谷111 100 01=5
【聖】歳川―大松
【富】柏原、堂上、中橋、柏原―近藤
9回表、一死一塁、1ストライク2ボール。
枠内にスプリットを放った所で、大泉は合わせるようにバットを出してきた。
「わああああああああああああああ!!」
「抜けるか!?」
歓声が沸き上がる中、強めの打球は一二塁間へ飛んでいる。
間を抜けるか際どい当たり。外野は少し深め、かつ走者は1番の八百坂なので、抜けると一三塁になる打球だ。
「(ナベちゃん捕ってくれ~)」
「(これは流石に……!)」
早々に諦める鈴木、頭から滑り込む渡辺。
しかし――。
「抜けたああああああああああああ!」
「回れ回れ!」
打球はグラブの先を抜けていくと、ライト前に転がっていった。
大泉は余裕を持って一塁へ。もう1つ、一塁走者の八百坂も迷わず二塁を蹴っている……!
「セーフ!!」
「っしゃあああ!!」
堂上はダイレクトで送球した……が、少し逸れてしまいタッチできず。
三塁はセーフで一死一三塁。大泉の一打で痛恨のピンチを招いてしまった。
この一死一三塁は非常に手痛い。
ディレードスチール、犠牲フライ、スクイズ、ゲッツー崩れと、ノーヒットでも得点できる方法が多彩にある。
盗塁を決めれば一打逆転だし、よりによって迎える打者はアイツだ。
考えられる限り最悪の場面に違いない。
『3番 ショート 瀬川くん。背番号6』
1点リードで迎えた9回表、一死一三塁。
一打同点という場面で、瀬川徹平の打席を迎えてしまった。
やはりコイツとの勝負は避けられない。そういう運命だったのだろう。
「(一気に逆転なんて考えねぇ。俺は後ろを信じて確実に繋げるぞ)」
男の勲章の音色が響く中、瀬川は右打席でバットを構える。
聖輝学院の主将にして最後の転生者。そして命日が迫る恵の親戚でもある。
この勝負は負けられない。富士谷の主将として、転生者の代表として、俺が引導を渡してやる。
「ボール!」
取り敢えず一球は様子見。一塁走者の大泉に動く気配はなかった。
二三塁にはしないという判断か。一塁が空いたら勝負を避けてもよかったのだが。
「(低めに集める感じでいいよな? こっち裏だし1点は仕方なしで)」
仕切り直して二球目、近藤は外角低めにストレートを要求してきた。
ここで絶対に避けたいのは外野を越える長打。そうなってくると、一気に逆転まで見えてきてしまう。
逆に同点止まりなら富士谷優位は変わらない。此方は裏の攻撃を残している。
二球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いた。
白球は外角低め、構えた所に吸い込まれていく。
その瞬間、瀬川もバットを出してくるが――。
「ファール!!」
「うわぁ!」
「あぶねっ」
これは一塁側ベンチに飛び込むファールとなった。
流し方向に迷いの無いスイング。この一球だけ見ると、コツコツ繋いでいこうという姿勢が窺える。
ただ……初回もそうだったが、油断させておいて一発を狙ってくるのが瀬川という男だ。
此方の攻め方は変わらない。徹底的に低めに集めて、長打を防ぎつつ併殺を狙っていこう。
「(インローのツーシームで)」
「(違う)」
「(え、対角のインハイ攻めるのか?)」
「(違う。コースじゃねぇって)」
「(サークルチェンジとか?)」
「(そう)」
近藤のサインに首を振ると、サークルチェンジを要求してきた所で頷いた。
完全に対角にならない分、緩急も使って追い込みたい。内角はポイントが前になるので、見極める時間も少なくなる筈だ。
「(さてと……四球覚悟でスプリット連投されたら流石にキツイな。追い込まれる前に決めてやんぜ)」
瀬川はバットを構え直している。
東北勢初優勝に命を懸けた男の瞳。それは何処となく覚悟を感じさせる瞳だった。
「(……高校野球100年の歴史で優勝できなかった地方は東北だけ。その歴史も明日終わる……いや俺達で終わらせる!)」
テイクバックを取る瀬川、投球モーションに入る俺。
そのまま腕を振り抜いていく。白球は真ん中に吸い込まれると、瀬川も迷わずバットを出してきた。
初動だと甘いストレートに見えそうな一球。
しかし――ブレーキの掛かったサークルチェンジは、緩やかに内角低めへと沈んでいく。
瀬川も不意を突かれたのか、初動はタイミングを崩されたように見えた。
後は空振るか、打ち損じるかと言ったところ。
そう思った次の瞬間――。
「(ッチ、ここで打てなきゃ人生やり直した……夢を優先した意味がねぇ!)」
瀬川は強引に合わせると、崩されながらも芯に当ててきた。
聖輝学000 004 00=4
富士谷111 100 01=5
【聖】歳川―大松
【富】柏原、堂上、中橋、柏原―近藤




