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66/699

66.事実上の頂上決戦

都大二211 001 2=7

富士谷112 000 =4

(二)折坂、横山―小西

(富)柏原、堂上、柏原―近藤

 7回表、二死満塁。

 ブラスバンドが奏でる怪盗少女と共に、相沢は左打席に入った。

 171cm64kgと平凡な体格。特筆すべき肩書きもなく、構えもシンプルに見える。


「(久しぶりだね、柏原くん。尤も――君は俺を知らないだろうけどね)」


 相沢はニコニコと笑顔を浮かべていた。

 その爽やかな表情は、どこか腹黒そうな印象を受ける。


 俺達が覚えていなかった、得体の知れない1年生。

 まだ不可解な事も多いが、この試合の黒幕は彼であり、彼もまた()()なのだろう。


 尤も、本当にそうだったとしても、選手としては此方に分がある。

 参謀としては完敗したが、正史では無名だった以上、実力はその程度でしかない筈だ。


 勿論――だからと言って手を抜くつもりは無い。

 実力が未知数な事に変わりはない。ここは全力で捩じ伏せる。


 セットボジションから一球目、サークルチェンジを放った。


「ットライーク!」


 少し甘く入ったが、見逃されてストライク。

 先ずは、正史では投げなかった球から入る。少し怖かったが、この打者にはそれでいい。


「(どうやら、()()()()じゃない事には気付いたみたいだね)」


 相沢は相変わらずニコニコしている。

 何を狙っていて、どこまで飛ばせるのか。未知数なだけに不安は拭えない。

 

 二球目、内のツーシーム。

 これも正史では投げなかった球だが――相沢はバットを振り切った。


「っ……!」


 鋭い打球がライト線に飛んでいった。

 白球は白線の近くで弾むと、一塁審が両手を広げる。


「……ファール!」


 ライト線、僅かに切れてファール。

 一塁側から安堵の息が漏れる。分かってはいたが、付け焼刃の球だけでは抑えられそうにない。


 三球目、本来はあまり使わない高めの釣り球。


「……ボール!」


 相沢はピタリとバットを止める。

 近藤が主審にスイングの判定を求めたが、三塁審は両手を横に広げた。

 

 憎たらしいくらい落ち着いている。

 正史では無名の選手といったが、1年夏からベンチ入りするだけあって只者ではない。

 やはり――最後はこの球で決めるしかないな。

 

 近藤のサインに頷くと、俺はボールを挟み込んだ。

 上級生の強打者達にも、頭のおかしい木田哲人にも、この球だけは打たれていない。

 未だ被安打率0割の決め球・スプリット。この球で決める。

 

 外いっぱい、低めギリギリを狙って腕を振り抜いた。

 放たれた白球は、近藤の構えた所に吸い込まれていく。


 その瞬間――サァーっと血の気が引いていく感覚に襲われた。


 それは決して甘く入った訳ではなく、今日一番と言っていい程、完璧なコースに落ちていった。

 見逃せばストライク、それでいて打ち返すのは難しい。そう言っても過言ではないくらい完璧な球だった。


 それにも関わらず――相沢は迷わずバットをだして、完璧に捉えて振り抜いた。


「う……嘘だろ……」


 現実の出来事だとは思えなかった。

 プロ注目打者の小野田さんも、6割打者の菅野さんも、あの木田哲人ですらも、この球だけは打てなかった。

 それなのに――。


「……()()見ても良い球だね。君と同じ二周目だったら、その球は打てなかったよ」


 バックスクリーンに叩き込んだ相沢は、口元をニヤリと歪ませて、右腕を掲げた。

都大二211 001 6=11

富士谷112 000 =4

(二)折坂、横山―小西

(富)柏原、堂上、柏原―近藤

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ただの強くてニューゲームの繰り返しか。 せっかくの弱点の多いチームで未来の知識を駆使しながら強豪校に挑んでいくストーリーが急にアホくさくなってきたぞ。 なんだ二周目だったら勝てなかっ…
[一言] これで3年間、甲子園にいくことは無理になりましな。普通に考えて強豪校とは総合力でかなり負けていて、未来知識という強力なアドバンテージがなくなった今勝てる可能性は限りなくゼロに近い。将来性とし…
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