66.事実上の頂上決戦
都大二211 001 2=7
富士谷112 000 =4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上、柏原―近藤
7回表、二死満塁。
ブラスバンドが奏でる怪盗少女と共に、相沢は左打席に入った。
171cm64kgと平凡な体格。特筆すべき肩書きもなく、構えもシンプルに見える。
「(久しぶりだね、柏原くん。尤も――君は俺を知らないだろうけどね)」
相沢はニコニコと笑顔を浮かべていた。
その爽やかな表情は、どこか腹黒そうな印象を受ける。
俺達が覚えていなかった、得体の知れない1年生。
まだ不可解な事も多いが、この試合の黒幕は彼であり、彼もまたアレなのだろう。
尤も、本当にそうだったとしても、選手としては此方に分がある。
参謀としては完敗したが、正史では無名だった以上、実力はその程度でしかない筈だ。
勿論――だからと言って手を抜くつもりは無い。
実力が未知数な事に変わりはない。ここは全力で捩じ伏せる。
セットボジションから一球目、サークルチェンジを放った。
「ットライーク!」
少し甘く入ったが、見逃されてストライク。
先ずは、正史では投げなかった球から入る。少し怖かったが、この打者にはそれでいい。
「(どうやら、自分だけじゃない事には気付いたみたいだね)」
相沢は相変わらずニコニコしている。
何を狙っていて、どこまで飛ばせるのか。未知数なだけに不安は拭えない。
二球目、内のツーシーム。
これも正史では投げなかった球だが――相沢はバットを振り切った。
「っ……!」
鋭い打球がライト線に飛んでいった。
白球は白線の近くで弾むと、一塁審が両手を広げる。
「……ファール!」
ライト線、僅かに切れてファール。
一塁側から安堵の息が漏れる。分かってはいたが、付け焼刃の球だけでは抑えられそうにない。
三球目、本来はあまり使わない高めの釣り球。
「……ボール!」
相沢はピタリとバットを止める。
近藤が主審にスイングの判定を求めたが、三塁審は両手を横に広げた。
憎たらしいくらい落ち着いている。
正史では無名の選手といったが、1年夏からベンチ入りするだけあって只者ではない。
やはり――最後はこの球で決めるしかないな。
近藤のサインに頷くと、俺はボールを挟み込んだ。
上級生の強打者達にも、頭のおかしい木田哲人にも、この球だけは打たれていない。
未だ被安打率0割の決め球・スプリット。この球で決める。
外いっぱい、低めギリギリを狙って腕を振り抜いた。
放たれた白球は、近藤の構えた所に吸い込まれていく。
その瞬間――サァーっと血の気が引いていく感覚に襲われた。
それは決して甘く入った訳ではなく、今日一番と言っていい程、完璧なコースに落ちていった。
見逃せばストライク、それでいて打ち返すのは難しい。そう言っても過言ではないくらい完璧な球だった。
それにも関わらず――相沢は迷わずバットをだして、完璧に捉えて振り抜いた。
「う……嘘だろ……」
現実の出来事だとは思えなかった。
プロ注目打者の小野田さんも、6割打者の菅野さんも、あの木田哲人ですらも、この球だけは打てなかった。
それなのに――。
「……何度見ても良い球だね。君と同じ二周目だったら、その球は打てなかったよ」
バックスクリーンに叩き込んだ相沢は、口元をニヤリと歪ませて、右腕を掲げた。
都大二211 001 6=11
富士谷112 000 =4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上、柏原―近藤