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55.夜闇のセミファイナル

全国高等学校野球選手権 準決勝

2012年8月20日(月) 阪神甲子園球場 第2試合

(西東京)都立富士谷高校-聖輝学院高校(福島)


スターティングメンバー


先攻

中 ⑧八百坂(3年/右左/179/72/いわき)

二 ④大泉(3年/右左/172/68/武蔵野)

遊 ⑥瀬川(3年/右右/172/70/西東京)

右 ⑨栗城(3年/右右/180/78/仙台)

一 ③小手森(3年/右右/183/86/南会津)

左 ⑰鎌倉(2年/右右/178/86/枚方)

捕 ②大松(3年/右右/177/76/磐梯)

投 ①歳川(3年/右右/180/85/尼崎)

三 ⑤平野(3年/右左/167/63/猪苗代)


後攻 富士谷

中 ⑧野本(3年/右左/180/75/日野)

二 ④渡辺(3年/右右/176/72/武蔵野)

遊 ⑥津上(2年/右右/181/80/八王子)

投 ①柏原(3年/右右/180/79/府中)

右 ⑨堂上(3年/右右/182/83/新宿)

一 ③鈴木(3年/右右/180/77/武蔵野)

左 ⑦中橋(2年/左左/170/63/八王子)

捕 ②近藤(3年/右右/171/76/府中)

三 ⑤京田(3年/右右/168/63/八王子)

 第1試合を終えた阪神甲子園球場は、薄暗い空と照明の光に包まれていた。

 時刻は既に18時前。ナイターゲームが確定的になった中で、俺達は急ぎ足でグラウンドに入場する。

 するとそこでは、一足先に勝利した関越一高の面々が、得意気な表情で此方を見てきた。


「お先失礼」

「柏原ァ! 決勝で待ってるぜェ!!」

「そっちも絶対勝てYO!」


 渋川、土村、大越らが激励してくる。

 続けて、周平がニヤリと笑みを溢してきた。


「ここまで来たら竜也の連投を止める……なんて野暮な事は言わねぇ。決勝でガチンコ勝負しようぜ」

「ああ。すぐ行くから待ってろ」


 交わした言葉は一言だけ。

 俺達はアップへ向かい、関越一高の面々はグラウンドから退場していった。


 勝てば決勝は東京対決……か。

 それも相手は古巣の関越一高。神様の悪戯もここまで来ると、作為的な物を感じてしまう。


 いや、シンプルに関越一高が強かっただけか。

 元から地力は十分にあった。正史ではシャツのボタンを掛け違えただけ。

 だから最後まで生き残り、俺達の前に立ちはだかってきた。



 さて、その前に先ずは準決勝だ。

 相手は瀬川徹平を擁する聖輝学院。彼は恵の親戚であり、転生の全てを知る男でもある。

 直近の対決でも負けているので、此方も因縁の相手なのは間違いない。


「キャプテンがクール気取ってるんでぇ! わたくし京田が盛り上げていきまぁす!」

「うぇ〜い!」

「チビうぜぇ」


 段々と空が黒くなる中、選手達は元気よくアップを進めていった。

 最後に対決したのは去年の春。直近では負けているけど、お互いに1つ前の世代だった。

 選手達に気負う素振りは無い。その点は頼もしく思う。


「いいか、東北に深紅の優勝旗を持ち帰れるのは未来永劫俺達しかいねぇ。負けたら東北が沈むぞ。命掛けて戦えよ。俺達、負けたら死ぬんだぞ。わかってんのか!」

「っしゃあぁ!!」


 聖輝学院の気合の入り方も尋常じゃない。

 東北勢は春夏合わせて優勝0回。少なくとも、瀬川や俺が知る2020年まではそうだった。

 そんな未来を変えてやろう、という強い意志が覗える。


 アップが全て終わったのは18時半。

 全ての照明が点灯する中で、少しばかりの静寂が訪れる。

 やがて球審が集合の合図を掛けると、選手達はホームを挟んで集合した。


「これより、都立富士谷高校と、聖輝学院高校の試合を始める。礼!」

「おっしゃあす!!」


 18時30分ちょうど。

 試合開始が告げられて、富士谷の選手達は守備に散っていった。

 俺は1回表のマウンドに上がる。ホームの向こう側に近藤を座らせて、投球練習を開始した。


「今日もいい球来てるぜ」

「……ああ」


 正直に言うと、肘の痛みは昨日よりも強い。

 ただ、それを隠しながら、何事も無いかのように腕を振るっていく。

 幸い、投げられない程じゃない。早めに点差を付けて外野に下がりたい所だ。


『1回表 聖輝学院高校の攻撃は 1番 センター 八百坂くん。背番号 8』


 1回表、聖輝学院の攻撃は八百坂から。

 長身細身の好打者が左打席でバットを構えた。


「(さーてと、監督からサインが出ない限りは徹平くんの指示通りに動きますよっと)」


 この八百坂は典型的な身体能力タイプだ。

 入学時は華形の本格派投手。俊足巧打で長打力もあり、地肩が強くファインプレーでも魅せれる。

 その一方で、ボール球に手が出がちで雑なミスも多い。

 また、投手時代に一度イップスを患っていて、送球に関してはアテにならないのが現状だ。


「(初球はボールから入るか?)」


 近藤の要求は外のスクリュー。

 バットを振りたがりという部分で、ボールになる変化球で誘い出す算段だ。


 一球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いていく。

 白球は弧を描きながら外へ逃げていくと――八百坂は悠々と見送ってきた。


「ボール!」


 外へ逃げるスクリューはボール。

 随分と余裕を持って見送ったな。安直かつ初歩的な「特長と逆の動き」という指示が出ているかもしれない。

 となると、ボール先行は相手の思う壺。まだ試合は序盤だし、ストライク先行で攻めてみよう。


「ットライーク!」

「ットライーク、ツー!」


 二球目、バックドアのスライダーは見逃されてストライク。

 三球目は内のストレート。これも手が出せずにストライクとなった。


 やはり振ってこないな。

 このまま正史と逆の動きをするだけなら、此方も対策を立て易いが……果たして、瀬川がそんな安直な作戦を立てるだろうか。


 相沢1年時みたいな奇襲なら兎も角、今回はお互いの素性が割れている。

 その中で、転生者の1枚裏を突く作戦は、どうも違和感を拭えなかった。


「ットライーク! バッターアウト!」

「(軌道独特だなぁ。これは簡単には打てませんよっと)」


 結局、少しだけ粘られたものの、7球目のスプリットで空振り三振。

 先ずは幸先良く、先頭バッターの八百坂を仕留めた。

聖輝学=0

富士谷=0

【聖】歳川―大松

【富】柏原―近藤


年内最終更新です。

皆様良いお年を。

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