52.あと2日
今日から再開です。
目標だった年内完結は厳しいので、無理のないペースで更新しようと思います。
とにかく仕事が忙しい……!
恵の見舞いを終えた俺は、孝太さんが運転するレガシィで関西に戻った。
先程まで夕焼けが見えていたのが一転、帰り道は台風の影響で強風が吹き付けている。
車内にも激しい音が響いていたが、疲れていた俺は何時の間にか爆睡していた。
ホテルに戻れたのは2時くらい。
正直、かなり飛ばしていたと思う。秋名の下り最速は豆腐屋らしいが、東名の下り最速はシスコンかもしれない。
お陰で十分な睡眠が取れたので、俺も見て見ぬフリを決め込むけれども。
そして迎えた8月20日、関西は朝から大嵐に包まれていた。
ちょうど台風が直撃しているのだろうか。外に出るのすら困難なくらい強風と大雨に包まれている。
とても野球の試合が行えるとは思えない。ここまで酷いなら普通に順延してくれ、と思ってしまう。
「おはようございます」
「おはよう。昨日はだいぶ無理したな?」
「全然っすよ。自分は殆ど寝てたんで」
少し遅めに起床した俺は、指導者2人が泊まる部屋を訪れていた。
理由は他でもない。本日の方針を伝える為である。
昨日は何も話せなかったので、朝方に作戦会議を行うに至った。
「雨凄いぞ。本当に今日やるのか?」
「やりますよ。未来人の自分が言うんだから間違いないっす」
「流石の阪神園芸もこれはきついと思うんだが……」
「ほぉ~。本当に何でも分かるんだなぁ」
未だ疑心暗鬼の畦上監督、すっかり感心している与田先生。
まぁ転生なんて非科学的だから仕方ない。それよりも、早く本題を済ませてしまおう。
「で、今日の試合っすけど……スタメンはバッテリー含め昨日と同じでお願いします」
「うーん、今日は堂上でもいいんじゃないか?」
「相手にも未来を知ってる奴が居ますからね。ここは万全を期した方がいいっすよ」
「それもどこまで影響あるんだか。まぁ確かに1度負けてる相手ではあるが……」
俺と畦上監督はそんな言葉を交わしていく。
やはりというべきか、畦上監督は登板回避を提案してきたな。
それが肘の状態を疑っているのか、単純に連投を嫌っているのかは分からない。
ただ、俺に投げさせたくないのは確かだった。
「本当に肩とか肘とか大丈夫なのか?」
「余裕っすよ。十分に休めたお陰でむしろ軽いっす」
「……そうか」
畦上監督は釈然としない返事をすると、それ以上は聞いてこなかった。
疑われる要素は2試合分の登板回避だけ。他に肘の不安を匂わす要素は出していない。
試合中に不自然な仕草を見せなければ、もう疑われる事もないだろう。
あと2試合、たった2試合でいい。
それだけ凌げれば悔いのない高校生活になる筈だ。
今はそう信じながら、俺は夕方の試合に向けて備えた。
※
台風は昼過ぎに収まり、関西にも真夏の暑さが戻ってきた。
まさに台風一過とでも言うべきか。先程までの大嵐が嘘のように、青い空から激しい陽射しが降り注いでいる。
この分だと、水捌けの良い甲子園ならコンディションも回復しそうだ。
第1試合は14時30分開始と発表。
昨日の時点では14時だったが、更に30分ほど後ろ倒しになった。
第2試合は試合開始からナイターかもしれない。ここまで遅いのは東山大菅尾戦以来ではないだろうか。
「おー、竜也じゃん」
「おう。頑張れよ」
球場に辿り着くと、グラウンドインを控えた周平たちと遭遇した。
第1試合は関越一高と大阪王蔭の一戦。どちらが勝っても可笑しく無いが、ここまで来たら決勝は東京対決といきたいものだ。
「柏原ァ! 決勝で待ってるぜェ!」
「それ言う人……だいたい先に負ける気がする……」
「うるせぇぞ女ァ!」
相変わらずクソ煩いのは土村。
正史では慣れた光景とはいえ、性別で呼ばれる棚橋は不憫でならない。
10年後なら大問題だぞ、と言いたくなってしまう。
「まぁ俺らなら問題ないYO。最高にホップな連中が集まったからナ!」
「僕のストレートもホップアップしてるしね。柏原くん、"上"で待ってるよ」
「もうお前ら先に負けてしまえ」
「あァ!?」
「(今更だけどコイツ本当ならこっちに居たんだよな……そう思うと損失デカすぎだろ……)」
そんな感じで、暫くは関越一高の面々に絡まれた。
東京勢が揃って残るのは稀な事。共に終盤まで生き残れば、ほぼ同地区としての仲間意識も芽生えるもの。
最終的には敵になるけど、それまでは同じ東京として応援したいと思う。
「……んじゃ、行ってくる」
「ああ。絶対勝てよ」
願わくば、明日も同じように顔を合わせたい。
そう思いながら、俺達は周平達の背中を見届けた。




