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51.意味のある無駄足

「じゃ、俺はここで待ってるから」

「うっす」


 やがて病院に辿り着くと、俺は孝太さんを残して病室に入った。

 時刻は既に18時。空はすっかり夕焼けに染まり、病室も程良く薄暗くなっている。

 この病院は20時まで面会できるらしいが、病室には俺くらいしか来ていない。


「……」


 他の患者に無言で会釈して、窓際にある恵のベッドの前に立つ。

 どうやらカーテンを閉め切っているようで、彼女が居るかどうかも分からない状態だった。


「恵」


 締め切られたカーテンに向かって呼び掛けてみる。

 すると、何やらモゾモゾと動く音が聞こえた気がした。

 

「かっしー……?」


 恵の声を聞いて、一先ずは安堵の息を漏らす。

 まぁ……来ることは伝えていたし、居るのは分かっていたけれど。


「ああ、俺だ」

「来て大丈夫なの? 明日も試合なのに」

「夕方からだしな。今日も早く終わったし」

「けど完投して疲れてるでしょ」

「余裕だわ。まだ実質1試合目だぞ」

「堂上に任せっきりだったもんね。私の命が懸ってるのにさ~」

「仕方ねえだろ。てか、カーテン開けてもいいか?」


 そんな感じで、カーテン越しでの会話が始まった。

 これだと電話するのと何も変わらない。せっかくだし、顔を合わせて会話したいところ。

 しかし――。


「……あんまり見られたくないかも」

「そうか」


 恵が小さな声で呟くと、俺は諦めて腰を掛けた。

 これは仕方がないのかもしれない。彼女は闘病中の身であり、見た目も中身も日に日に弱っている。

 かつて学校イチの美少女だった身としては、今の姿を見せたくないのだろう。


 前回の面会は4日前。

 たった4日だけど、彼女にとっては残された6日の内の4日間だった。

 それだけ病状が進行しているに違いない。


「瞳さん達は?」

「皆ご飯食べにいったよ。涼ちゃんはさっき帰った」

「あいつは"達"に含めたつもりなかったんだが……」

「あはは、けど毎日来てるからさ。私にとっては家族と同じくらいイツメンだよ~」


 そんな感じで、暫くは他愛もない雑談が続いていった。

 相沢が毎日来ているのは地味に初耳。間違った情報を与えてしまったので、その罪滅ぼしもあるのだろうか。

 いつも入れ違いになっているけど、瀬川一家も毎日来ているらしい。


「そういや瀬川徹平って来た事あんの?」

「ううん、来てない」

「あいつ……俺を薄情呼ばわりした癖に……」

「それね~。まぁ聖輝学院じゃ抜け出せないんだろうけどさ」

「まぁな」


 ちなみに、瀬川徹平は来ていない様子だった。

 彼は転生者といえど名門校の生徒。富士谷と違って、そう簡単には自由に動けないのだろう。


 ただ、瀬川徹平も無策という訳ではない。

 聖輝学院は正史と少しだけレギュラーが入れ代わっている。これには瀬川徹平が1枚噛んでいる筈だ。

 もう1つ、東北の強豪校は交流会を行っていたと記事で見た。此方も彼が関わっているに違いない。


「……さて、そろそろ帰るか」

「ばいばい。もう来ちゃ駄目だよ」

「ああ。次会う時は優勝した後だな」


 気付けば、面会時間の30分が終わろうとしていた。

 明日も試合だし急いで帰らなくては。と、そう思ったその時――。


「かっしー……無理しなくていいからね。優勝しても助かるとは限らないし……」


 恵は消え入りそうな声でポツリと呟いた。

 彼女も肘の状態に勘付いているのか。それとも、心の何処かで諦めているのか。

 分からない。分からないけど――唐突に後ろ髪を引いてきた。


「無理してねぇって。三高も居ないしサクッと優勝したるわ」

「そっか」


 恵に嘘を吐くのは何度目になるだろうか。

 俺は強気な言葉を残して、夕日が差し込む病室を後にした。





「終わりましたよ」

「どうだった?」

「普通に話せたっすね。カーテン越しでしたけど」


 面会を終えた俺は、再び孝太さんと合流した。

 報告する事は特にない。ほぼ他愛のない雑談だったし、電話でも事足りるような内容だった。

 ただ、来た意味はあったと思う。少なくとも俺はそう思いたい。


「どうする? 今日はこっちに泊まって明日向かう?」

「いや、戻りましょう。一応指定の宿に泊まるのがルールなんで」

「変な所で真面目だね……」

「こういう所ちゃんとしないと勝利の女神に逃げられますから」

「そうかもね。じゃ、飯だけ食ってこ」

「方南町の家系ラーメンがいいっす」

「何でそんな微妙な場所の……」

「ここが一番美味いんですよ」


 そんな感じで、俺達はラーメンだけ食って戻る事にした。

 ここから先は車での長旅になる。全力で飛ばしても日付が変わるのは間違いない。

 という事で、10年後には潰れてしまう名店で腹ごしらえをしてから、まだ完成したばかりの新東名を爆走した。

活動報告にも書いたのですが、12月10日に資格試験を控えているため執筆が滞っております。

筆記試験に合格して残すは実技という状況もあり、ちゃんと対策して一発で受かりたいので、本当に申し訳ないのですが試験が終わるまでは断筆&休載致します。

次回の更新は12月15日頃を予定しています。ご理解とご協力の程、よろしくお願い致します。。

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[一言] 実技試験頑張ってください!
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