64.希望と絶望
都大二211 001=5
富士谷112 00=4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上―近藤
6回裏、先頭の堂上は、143キロの速球を打ち返した。
三遊間を貫いてレフト前ヒット。勝ち越された直後に、無死の走者を出すことができた。
『6番 ファースト 鈴木くん。背番号 3』
スタンドから流れるSEE OFFと共に、鈴木が右打席に入った。
後続を考えたら、進塁打だけで得点できる状況を作りたい。
最低でも無死一二塁、或は一死三塁。
となると、鈴木の出塁はマストとなる。堂上はそれなりには走れるが、登板中に盗塁させるのも酷だろう。
初球、渾身のストレートから。
空振りしてストライク。鈴木の空振りも珍しいが、注目すべきは球速だ。
バックスクリーンの表示は147キロ。恐らく、要所でギアを上げているのだろう。
二球目、再びストレート。
145キロを見送ってボール。球速もそうだが、球筋も非常に良い。
糸を引くようなストレートは敵ながら惚れ惚れする。
「(やっべー……ぜんぜん打てる気しねーわ……)」
鈴木が舌を出して苦笑いしていた。
打てないって顔に出すなよ、相手の思うツボだぞ。
続く三球目は縦スライダー。
空振りしてストライク。やっぱ振るよな、この球を見逃すのは容易ではない。
追い込まれた。
恐らく、縦スラを続けて空振り三振を狙ってくる。
見逃す勇気が問われる四球目――予想通りの落ちる球。
どうしても甘く見える球に、鈴木はバットを出してしまった。
しかし、
「おおっ!」
姿勢を崩しながらも当てた打球は、三遊間へと飛んでいった。
ポテンヒットになるか際どい当たり。抜ければ絶好の好機となるが――。
「「あぁー……」」
ショートの八谷さんが好捕すると、一塁側スタンドから溜め息が漏れた。
惜しかった。ただ、これで3番から6番までは、ヒットが見込める事がわかった。
順当にいけば8回は3番の孝太さんから。この回で勝負を仕掛けられる。
そんな事を思ったのも束の間、後続の二人は連続三振を喫した。
それもストレートは140キロ前後。完全に手を抜かれている。
本当に、この投手から点を取れるのだろうか。
そんな不安が、選手達の間に過っている気がした。
7回表、都大二高の攻撃は4番の新田さんから。
これ以上の失点は致命傷になる。先頭は絶対に抑えたかったのだが――。
カキーンッ!
「「わああああああああああ!」」
三球目を捉えた当たりは、ライト線への二塁打となった。
これで無死二塁。更に代走が起用され、背番号6番の高梨さんが二塁へ向かった。
ここで当たっている4番を下げた。
6点目のリスクは高まったものの、これで都大二高は角落ちという事になる。
吉と出るか凶と出るか、この回の守備次第だな。
続く打者は右の市川さん。
粘った末に打ち損じた当たりは、サード正面のゴロになった。
京田は軽快な動きで一塁に放る。しかし――これが大きく逸れてしまい、鈴木の足がベースから離れた。
「……セーフ!!」
塁審のコールと共にスタンドが響動めいた。
送球間に走者も進塁。これで無死一三塁となり、守備のタイムが取られた。
守備の上手い京田にミスが出た。
あと1点もやれない、というプレッシャーが、選手達を気負わせているのだろうか。
無死一三塁の得点率は80%超。
こうなってくると、無失点で切り抜けるのは非常に難しい。
それなら――あと何点は許せるのか逆算して、内野陣を励ますしかない。
8回裏、3番から6番の連打が続けば最大で4点入る。
とは言っても、それは中距離打者の鈴木が本塁打を放つ前提であり、ヒットで繋いだ場合は3点が上限になる。
後続の進塁打は……まあ、加味しないほうがいいだろう。
つまり、3点差までなら同点、もとい延長に持ち込める可能性が出てくる。
だから後2点まで。最悪、今の走者は全員返してもいいので、大量失点だけは避けなくてはならない。
「打者集中! ランナー返していいよー!!」
俺はそう叫んでみたが、どこまで響いているかはわからない。
野手の声なんてものは、8割以上が義務的に出している鳴き声で、それはお互いに感じている事だ。
こういう時、外野手は無力だと実感する。
続く6番、大野さんも変化球を打ち損じた。
三遊間への弱い当たり。ホームは厳しい――と思ったその瞬間、捕った渡辺はホームに放った。
「セーフ……!!」
フィルダースチョイスでオールセーフ。
思わず苦虫を噛み締める。結果論かもしれないが、ここは一塁に放って欲しかった。
これで2点ビハインド、状況は無死一二塁。
絶対に返せない走者が一塁に出てしまった。
富士谷が9回までに返せるのは、どう足掻いても7点目まで。
この一塁走者をホームに返したら――試合が決まる……!
都大二211 001 1=6
富士谷112 000 =4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上―近藤