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38.分業最強論

「おっす」

「……どうも」


 本部に行こうとした瞬間、背の高い大男に声を掛けられた。

 前橋英徳のエース・高成光秀。190cm93kgの巨体は、近くで見ると迫力を感じられる。

 自分自身、180cmはある人間なので、物理的に見下されるのも珍しい。


 何か用だろうか。

 正直、試合前に無駄口は叩きたくないのだが……。


「今日はよろしく」

「え、ああ。うん」


 高成はそう言って右手を差し出してきた。

 わざわざ挨拶しに来たのか。随分と律儀だな。

 こう……変な絡み方をする相手が多かっただけに、つい違和感を感じてしまう。


「……硬いね。よくバットを振り込んでる手だ」

「そりゃな。4番だし」

「投球に影響ない?」

「んー、気にした事ないな。手の平で投げる訳じゃないしさ」


 高成とそんな言葉を交わしていく。

 ここまでは普通の会話。特筆すべき点も特にない。

 しかし、次の瞬間――。


「俺は影響あると思う」


 わざわざ聞いてきた事を全力で否定してきた。

 じゃあ聞くなよ。喧嘩売ってんのかコイツ。


「ストライクゾーンって凄く狭いじゃん。繊細なコントロールを要求されるし、僅かな違和感でも狂いが生じると思うんだよね」


 高成は聞いてもいないのに淡々と語り始める。

 まぁ……言いたい事は分からないでもない。ボールを握る以上、手の形状の変化が投球に出るというのも一理あるだろう。


「それにバットを振れば腕に疲れが溜まるし、出塁したら走った分だけ消耗する。バントの構え数回分……下手したら十数回分も走らされる。これって結構な負担だと思わない?」

「……そうかもな」


 1試合に十数回のスイングは兎も角、出塁が負担になるのも一理あるかもしれない。

 投手が残塁した後はチャンスだとも言われているし、わざわざバントの構えで走らせてくる打者も居るくらいだ。

 そう考えると、投手の出塁は少なからずリスクのあるのは間違いない。


「それなのに、わざわざバッティングも頑張るピッチャーってさ、きっと完封する自信がないからなんだよね。だからリスクを負ってでも弱い自分を自分で援護しようとする。小野寺とかいう奴もそうだったし」


 高成はそこまで語ると、鼻で笑ってきた。

 これは……彼が正史でも唱え続けていた「分業最強論」である。

 プロ野球では投手と打者は分業が基本だ。長い歴史を見ても、二刀流の選手は数える程しかいない。

 だからこそ「高校野球でも投手を極めるなら専念すべき」というのが彼の持論だった。


「で、もう1回聞くけど……バッティングって投球に影響ない?」


 高成はニヤリと笑みを浮かべながら問い掛けてくる。

 噂には聞いていたけど傲慢な奴だな。ただ、我の強さなら此方も負けていない。

 俺は笑みを浮かべ返すと――。


「ねぇな。他の投手は知らないけど、俺はその程度じゃ疲れないし」


 俺はそう言い放った。

 こっちは2周目の4番でエースだ。酷使に過労死も経験しているし、たかが4~5打席程度の攻撃では疲れない。

 そして負担にならない以上、打撃でも貢献した方がお得だろう。

 

 高校野球は投手も打ってこそだ。

 4番でエースの代表……という訳ではないけれど、投打でドラフト候補の威厳を見せ付けよう。

 

「……ふーん、やっぱおもしれー奴。今日は事実上の決勝戦になるね。良い試合をしよう」

「おうよ」

 

 高成は背を向けると、右手を上げながら去っていった。

 世代No.1の二刀流vs世代No.1の投手専任。前代未聞の代理戦争が、いま幕を開けようとしていた

海北高校001 012 000=4

聖輝学院311 230 10x=11

【海】大北、熊谷、大北-川村

【聖】森久保、野崎-大松



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