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 8月18日、大会11日目。

 甲子園で激戦が繰り広げられる中、富士谷の面々はミーティングを行っていた。


「高成は弱点とかねーの?」

「無い。制球や守備からも崩れないし、そういう意味では宇治原より厄介かもな」

「一つ挙げるなら力配分っすよね。ランナー居ない場面で一発ぶち込んでやりましょ」

「中軸には最初からフルスロットルで来ると思うけどな〜」


 話題は言うまでもなく次戦の前橋英徳。

 その中でも、ドラフト候補の右腕・高成に注目が集まっている。

 さて、この投手について、改めて振り返ってみよう。


 190cm93kgで右のオーバースロー。

 長身から振り下ろす最速152キロの直球に加え、落差のあるフォークでも空振りが取れる。

 カウントを稼げる変化球も多彩。更に制球力も抜群であり、バテている所も見た事がない。

 これでフィールディングも上手いのだから、世代No.1候補と呼ばれるのも納得だろう。 


「強いて言うなら何を狙う?」

「序盤は直球か逃げる変化だな。一巡目はフォークを出し惜しむ傾向にあるし」

「後半はフォークが来る低めに要注意っすね」

「ああ。ただ直球で見逃し三振してる打者も多いから、そこだけはしっかり見極めたい」


 ちなみに、高成は完投までのストーリーを組み立てるタイプである。

 だから場当たりで決め球を解禁したり、奇襲を仕掛けるような事は殆どない。

 予定通りの組み立てで捻じ伏せてくる。それが高成という男だった。


「……とまぁ、ここまで高成の良さを語ったけど、前橋英徳自体に隙が無い訳じゃないからな。打線は皆川以外そんなに打たないし、三高戦よりは綱渡りにならないと思う」

「野手は去年の方が良かったらしいなー」

「選抜も逃したしね」


 と、ここからは野手の話。

 前橋英徳は伝統的に守備力と機動力のチームであり、破壊力と言う部分では少し弱い。

 体格の良い選手が多いので一発はあるが、連打でビッグイニングを作るようなチームでは無いのは確かだ。


 注意したいのは4番の皆川くらい。

 彼だけは注目選手クラスの打力があるので、状況によっては勝負を避けても良い。

 後は如何にして高成から点を取るか。それに尽きる試合だった。


「ま、ここまで色々と語ったけど……次からは俺も投げられるから。起用は監督次第だけど、まぁ大船に乗ったつもりでいてくれ」

「ひゅ~。言うね~!」

「長いバカンスだったなー」


 最後は強気な一言で選手間のミーティングを締め括った。

 勿論、監督次第とは言ったけれど、オーダーの権限は俺にあるので先発は既に決まっている。

 俺が完封してしまえば負ける事は絶対にない。


「……」


 ただ、そうは思っていないのか、或は別の懸念があるのか。

 畦上監督だけは、最後まで釈然としない表情を浮かべていた。





「……4Bです」

『大阪王蔭は第4試合の三塁側になります』


 富士谷の面々が練習に取り掛かる中、甲子園球場ではベスト8の席が着々と埋まっていった。

 大阪王蔭は第4試合の三塁側。関越一高は第3試合の一塁側なので、ここは接触を免れた事になる。

 周平たちも安堵の息を漏らしているのではないだろうか。


 第3試合は都大蔵王(山形)と別所大豊明(大分)の試合。

 都大蔵王のエース庄司は、適度に荒れた最速147キロの直球とシュートが武器であり、今日も四死球を出しながらも抑え込んでいった。

 一方、別所大豊明は先発の京本が5回に炎上。今まで継投で勝ってきただけに、この続投失敗は"らしくない"誤算だったかもしれない。

 地道に反撃するも最後まで追いつけず。勝利した都大蔵王は関越一高と当たる事になった。



都大蔵王000 052 000=7

別所豊明010 010 101=4

【都】庄司-舟田

【別】京本、森山、郷原-鶴井



 最後の1枠は東山大韮崎(山梨)と明秀義塾(高知)が争った。

 今年の東山大韮崎はタレント軍団と名高く、左右で最速140キロ超の投手を揃えている。

 逆に明秀義塾はタレント不在。粘り強くしぶとい野球が持ち味であり、真逆のチーム同士の対決となった。


 試合は東山大韮崎が押し続けているように見える展開。

 ただ、要所での敬遠や好守などに阻まれ、なかなかビッグイニングに繋げられない。

 一方、明秀義塾は小技などで投手陣を揺さぶりながら、機動力を駆使して地道に加点していく。

 そんな展開が続いている内に、気付けば明秀義塾が同点のまま9回裏の攻撃を迎えていた。

 そして――。


「わあああああああああああああああああ!!」

「決まったああああああああああああ!!」

「さすが馬原……今日の采配も冴えてるわ」 


 最後は一死一三塁からのスクイズでサヨナラ勝ち。

 監督の采配が冴え渡った明秀義塾が、山梨が誇るタレント軍団を見事に下した。



東山韮崎100 020 010=4

明秀義塾101 001 101x=5

【東】松葉、榊原-兼田

【明】市川-川合



 これで甲子園ベスト8が出そろった。

 富士谷としては選抜8強、夏は16強が最高成績。ここから先はチームとしても初めて経験する領域になる。

 約4000の参加校から8校しか経験できない別世界。そんな異空間に備えて、俺達は早めに就寝した。

 

【準々決勝】

(南北海道)海北-聖輝学院(福島)

(西東京)富士谷-前橋英徳(群馬)

(東東京)関越一高-都大蔵王(山形)

(高知)明秀義塾-大阪王蔭(大阪)

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