28.迫り来る登板
2012年8月17日。大会10日目。
遂に3回戦を迎えた富士谷の一行は、ホテルのレストランで朝食を食べていた。
俺達の試合は第3試合。試合開始は午後になるので、余裕を持った起床で試合に臨める。
これが第1試合だと、起床が朝4〜5時になるので非常に辛い。
相手も同じ条件とは言えど、暑くても午後の試合が良い……と思う選手は少なくなかった。
さて、富士谷の選手が準備を進める一方で、甲子園では早くも第1試合が開始していた。
聖輝学院(福島)と常層学院(茨城)の一戦。この勝者とは次で当たる可能性もある為、此方としても脇見はしておきたい試合だ。
1回表、聖輝学院の攻撃から。常層学院はエースの菊田をマウンドに送り込んだ。
彼は最速144キロの本格右腕。体格も181cm83kgと申し分ない数字を持っている。
外角低めへのコントロールも良く、高校レベルでは非常に完成された投手だ。
ただ、東北初優勝を狙う聖輝学院の打線も負けていない。
先頭打者こそ三振で打ち取られるも、2番に抜擢された大泉がレフト線への二塁打を放った。
彼は正史だと代打での起用が多かった選手。恐らくだが、転生者の瀬川徹平が一枚噛んでいるのだろう。
その後、3番の瀬川徹平はセンター前タイムリーで走者を返し、聖輝学院は初回に1点を先制した。
攻守が入れ替わって1回裏、今度は常層学院の攻撃を迎える。マウンドには昨年から不動のエース・歳川が上がった。
歳川は富士谷とも対戦経験のある本格右腕。
180cm85kgの恵まれた体格から、最速145キロの直球と二種類のスプリットを投げ分ける。
此方もドラフト候補であり、そう簡単に失点するような投手ではない。
対する常層学院の打線は、スタメン全員が180cm超と迫力満点。
4番の内島はドラフト候補のスラッガーであり、初戦はソロアーチを含む3安打の大活躍を見せている。
この強力打線に歳川がどう挑むか。俺は移動しながらワンセグで見届ける事にした。
どこから一発が出ても可笑しくない。
そう予感させる180cm打線だが、歳川は圧巻の投球で三振とフライの山を築いていく。
5回を終えて無失点7奪三振。昨春よりも大幅に成長している様子が窺えた。
一方、常層学院の菊田も5回2失点と力投を続けている。
しかし、聖輝学院は既に9安打だ。いつ打線が繋がっても可笑しくはない。
防戦一方な展開に、某掲示板の茨城スレは早くも荒れ模様になっていた。
点差的にはまだ2点。次の1点がどちらに入るか、という部分が注目される。
そんな中、ターニングポイントで勝負強さを発揮したのは、やはり瀬川徹平だった。
2対0で迎えた7回表。走者を2人置いた所で、瀬川徹平は甘く入った変化球を打ち抜いていった。
打球はあっと言う間にレフトスタンドへ。東北初優勝に命を懸けた男の一打は、試合を決定付けるスリーランホームランとなった。
結局、この5点目で常層学院は万事休す。
終盤に長打攻勢で2点を返すも、反撃はここまでだった。
180cm打線が不発に終わり、茨城スレは大荒れだったのは言うまでもない。
後は聖輝学院がどこに入るか、という部分。
準々決勝は再抽選なので、この籤次第で対戦相手が変わる。
という事で、中継に耳を傾けていたのだが――。
『本日勝ちました聖輝学院ですが、第1試合の三塁側に入りました』
当たり前だが相手は決まらず。
一番乗りでベスト8に進出した聖輝学院は、第1試合で待ち構える事となった。
この抽選も非常に重要になってくる。
常層学院は既に負けたとはいえ、「A常層学院vs聖輝学院」「B前橋英徳vs都大高山」「D市都大乗鞍vs海北」では、Dブロックの勝者が明らかに一番弱い。
ここが相手なら、次も自信を持って堂上を先発に送り出せるだろう。
しかし、第1試合の籤は残り1つ。対して第2試合の籤は残り2つだ。
確率的に言えば、先に籤を引くBブロックの勝者は第2試合を引く可能性が高い。
こうなってくると、Aの勝者かBの勝者の二択になる。遂に腹を括る時が来る訳だ。
先ずは智殿和歌山なのは分かっているが……どうしても次の試合が気になるというもの。
俺達は球場で準備を進めながら、脇見で試合を眺める事にした。
聖輝学院100 100 300=5
常層学院000 000 020=2
【聖】歳川-大松
【常】菊田-内島




