62.変わった歴史
都大二211 0=4
富士谷112 =4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上―近藤
一塁側、富士谷高校の応援スタンドで、私――瀬川恵は、ただただ言葉を失っていた。
『都東大学 第二高校 選手の交代をお知らせ致します。
先程、代打致しました、横田くんに代わりまして、横山くんが、ピッチャーに入ります。
8番 ピッチャー 横山くん。背番号 1』
投球練習の最中、そんなアナウンスが流れてきた。
マウンドで投げ込んでいるのは、5回戦で負傷した筈の西東京No.1右腕、横山達平。
かっしーや堂上よりも速そうな直球を、次から次へと放っている。
「うわっ……相手のピッチャー、すごく強そう」
「先生、あんまり野球は詳しくはないけど、この投手は知ってるぞ。164キロを出せるらしい」
「え! そんな速いの!?」
私の横で、琴ちゃんと与田先生が言葉を交わしていた。
普段なら「146だよ」と指摘するんだけど、今の私にそんな余裕はなかった。
ありえない……信じられない。
ここまで、富士谷が干渉した試合を除けば、全てが正史通りに展開されていた。
それなのに――怪我をした筈の横山さんは、準々決勝のマウンドに現れた。
富士谷が快進撃を起こした事で、歴史に僅かな変化が生じたのだろうか。
私は高校野球の速報・結果サイトを開いて、都大二高の5回戦を再確認する。
早田実業010 002 0=3
都大二高201 011 5=10
【早】服部(5)、八代(1.1)、北村(0.1)―長谷川
【二】横山(4.1)、折坂(1.2)、大野(1)―小西
本塁打=大嶋、市川(二)、大宮(早)
小数点以下はアウトの数、つまり横山さんは4回1/3を投げた事になる。
続いて、正史ノートと見比べる。
早田010 002 0=3
二高201 015 1=10←6~7回逆かも
横山(5回と中まで)→折坂(6回終まで?)→大野
※横山 肉ばなれによる負しょう交代
曖昧な部分や記憶違いはあるけれど、大きな変化は見られない。
この試合も、正史通りの展開だったと考えるのが無難だ。
全然だめ……全くわからない。
怪我をした上で無理に登板させたのだろうか。
だとしたら隙はあるのだけれど――。
「ットライーク! バッターアウッ!」
気付けば、富士谷の攻撃は三者三振で終わっていた。
最後は144キロのストレート。どう見ても怪我しているようには思えない。
「あっ……」
その瞬間、私は一つだけ可能性を閃いた。
それは今更確認できないし、あくまで「仮に」の話になるけれど――。
今回の横山さんは、5回戦で4回1/3を投げた。
私達の記憶だと、正史でも5回途中まで投げている。
その5回途中というのが、実際は4回2/3だとしたら――。
この投手は、肉離れを起こす運命を知って、意図的に怪我を回避した……?
都大二211 0=4
富士谷112 0=4
(二)折坂、横山―小西
(富)柏原、堂上―近藤