23.けんぜんっ
選手達はホテルに戻ると、風呂に入ってから各部屋に散っていった。
試合の日は練習を休むに限る。過密日程ともなれば尚更だ。
という事で、俺は自室で寛ぎながら、海北と鳴島の試合を見届けていた。
「結局、家は弟が継ぐん?」
「そうなるだろうな。ま、直将もプロを目指すだろうし、当分は先の話になるだろう」
テレビを見ながら、同室の堂上と言葉を交わす。
今年は堂上との二人部屋。津上は同期との親睦を深めた方が良いと思い、断腸の思いで監視下から外すに至った。
「しっかし、あそこで告白は博打過ぎんだろ。シチュエーションとか拘る女ならアウトだぜ?」
「ふむ……そういうものか」
「てか何で交際を飛び越えてプロポーズなんだよ」
「恋愛で遊びなど不要だ。交際するなら結婚を前提にするのが当然だろう」
「そうですか……」
堂上は相変わらず自信満々に言い切っている。
育ちが良いが故に遊びという感覚がないのだろうか。
いや俺も琴穂とは結婚するつもりでいるけれども。
「何はともあれ、俺の方は全て片付いた。後は柏原だけだな」
ふと、堂上は唐突に爆弾を落としてきた。
まるで俺が問題を抱えていると言わんばかりの言い草。もしかしたら、夏美経由で転生事情が洩れているのかもしれないが……動揺する事はない。
余計な事を喋ると自爆するし、毅然とした態度を貫こう。
「ん、俺は別に何もねぇよ」
「ふむ……そうくるか。まぁいい、俺だってずっと黙っていた。一方的に詮索をするのも無粋だろう。ただ――」
堂上はそこまで語ると、腰を上げて立ち上がる。
そして――。
「全て片付いた後、もし気が向いたら教えてくれ」
そんな言葉を残してから、自室のドアノブに手を掛けた。
また走り込みにでも行くのだろうか。堂上の練習好きには頭が下がる。
全てが片付いた後……か。
どのみち夏美経由でバレそうではあるし、口止めの意味でも堂上には教えて良いかもな。
尤も、堂上の性格を考えると、タイムリープしたなんて信じてくれなさそうではあるが。
「えへへ、来ちゃったっ」
と、そんな事を思っていると、俺の天使こと琴穂が部屋に入ってきた。
今日は半袖とショートパンツの部屋着。太腿の露出面積が広くて凄まじく癒される。
「何してるの?」
「試合観てる。もう終わりそうだけど」
「このピッチャーイケメンだね。竜也の次くらいにっ」
「よせよ」
「ふふっ」
琴穂は俺の横に腰を掛けると、ニコニコを笑みを浮かべながら煽ててきた。
ちなみに、画面に映っている海北のエース・大北は、大会屈指のイケメンとして注目されているらしい。
「ねねっ、暇なら当てっこしよっ」
ふと、琴穂は悪戯っぽい笑みで勝負を持ちかけてきた。
このシチュエーションで当てっこ……というと、試合の勝敗予想でもするのだろうか。
「試合の予想でもすんの?」
「違うっ! えっとね、今どのーえ出てったじゃん」
「うん」
「でね、今こっちの部屋はなっちゃん一人なのっ」
「ほう」
琴穂はそこまで語ると、少しだけ頬を赤くした。
そして恥ずかし気な表情を浮かべると――。
「その……えっと……私は絶対お楽しみだと思うっ!」
「ねぇよ」
そんな事を言い出したので、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
まだ付き合って2時間くらいだぞ。いや、鈴木とか恵ならありえるけど、堂上×夏美でそれは絶対にナシだろう。
「えー、絶対するよぉ」
「堂上はまだしも夏美だからな。体触られた時点で警察に通報するまである」
「なっちゃんの事バカにし過ぎ……。てかさっ、じゃあ竜也は何してると思うの?」
「そりゃ堂上は自主トレだろ。夏美は一人で試合でも見てんじゃね」
「どのーえ、階段とは逆方向に向かってったよ……?」
「ほう……」
そこまで言葉を交わすと、少し雲行きが怪しくなってきた。
女子マネの部屋は階段とは逆方向。そして堂上は絶対にエレベーターを使わない男である。
となると、やはり夏美の元へ向かった可能性が高い訳だが――。
「じゃあオセロでもしてるんじゃね」
「やっぱバカにしてる……」
やっぱ夏美は体を許さないだろうという部分で、ついボケてしまった。
東京代表御用達のホテルだから尚更だ。もし事が発覚してしまったら、悪い意味で歴史に名を刻む事になる。
その辺は夏美も堂上も理解しているだろう。
「ねねっ。私達も二人っきりだよ……?」
「流石にここではな。琴穂は派手に汚すし」
「竜也が全部飲めばいいっ」
「腹が破裂するわ」
「そ、そんなにいっぱい出ないよっ!」
「いや出てる。水力発電に使えるまであるわ」
「もぉ~、やめてよぉっ」
琴穂は甘えた声で寄り掛かってきたが……宿舎で昼間っから交わるほど性獣じゃない。
正直に言えば今すぐ抱き着きたいけど、ここは主将として何とか理性を保った。
「琴穂はおませさんだなぁ」
「……って言うけど、竜也だって隙あらばスカートの中覗こうとするし、今日もずっと足ばっか見てるじゃんっ」
「琴穂が好き過ぎるからつい見ちゃうんだよ」
「私も竜也が好き過ぎるだけだしっ」
「よせよ」
「えへへっ」
とまぁ、そんな感じで、2人で体を寄せ合いながら、俺は琴穂との頭を撫でた。
こういうのも悪く無いかもしれない。大人の交流こそ自制したが、久々に健全なスキンシップを堪能した。
【7日目】
(西東京)富士谷13-5愛電大名古屋(愛知)
(南北海道)海北4-2鳴島(徳島)
(熊本)熊井工業2-5市都大乗鞍(長野)
(鳥取)鳥取領北3-4瀧川二(兵庫)




