表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
611/699

15.名古屋野球

富士谷0=0

愛電名=0

【富】堂上―駒崎

【愛】有馬―藤沢

「ボール、フォア!!」

「わあああああああああああああ!!」


 1回裏、一死一二塁。

 打者は堂上直将という場面で、堂上剛士はストレートの四球を出してしまった。

 ただ、投げている球は決して悪くない。それだけ直将の威圧感が凄かったのだろう。


「富士谷やばくね。柏原は投げられないの?」

「三高を倒して燃え尽きたか……」

「まぁ満塁って意外と点入らないからな。名古屋のチームは特に」


 スタンドからも不安の声が漏れ続けている。

 何せノーヒットで一死満塁だ。バント処理も怪しかったし、大量失点の雰囲気があるのも否めない。

 此方としては、もう1点までは仕方ないので、とにかくアウトカウントを増やしたい所である。


『5番 ファースト 鳥飼くん。背番号 3』

「(ここは犠牲フライでもいいし、デカいの打つぞ~)」


 ここで迎える打者は5番の鳥飼。春までは4番だった男が右打席に入った。

 ちなみに余談だが、鳥飼は親の都合で東京に住んでいた時期があり、その間は駒崎と同じチームに所属していたらしい。


「(鳥飼は直球に滅法強いっす。変化で攻めていきましょう)

「(ふむ……承知した)」


 サインを出す駒崎、相変わらず秒で頷く堂上。

 セットから投球モーションに入ると、力強いフォームから腕を振り下ろしていった。


 放たれた球は――フロントドアのナックルカーブ。

 白球は懐に曲がっていくと、鳥飼は中途半端なスイングで空振った。


「ットライーク!!」


 久々に良い球が決まってストライク。

 見逃されてもストライクのコースだったし、立ち上がりの制球難は脱している感じがする。

 後はシンプルに鳥飼に勝てるか。相手は中軸とはいえ2年生だし、プロ注目の威厳を見せ付けたい。


「(よし……ほぼ思惑通り。カーブに合ってないし続けましょう、但し今度はボールになる球で)」


 駒崎は先程よりも低くミットを構えた。

 ワンバウンドする変化球だろうか。ナックルカーブに合っていなかったし、恐らく変化で空振りを狙う算段だろう。

 

 一死満塁、相手は元4番の強打者、そして駒崎としては弱点を知る相手。

 だからこそ――バッテリーは攻略に夢中になっていて、肝心な事を忘れているようにも見えた。


 二球目、堂上はセットポジションから投球モーションに入っていく。

 その瞬間――。


「走った!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」


 走者は一斉にスタートを切ると、鳥飼はバットを寝かせてきた。

 愛電大名古屋お得意のバント攻撃。普通では考えられないタイミングだけど、ここでスクイズするのが愛電のバント野球である。


「(ふむ……やれるものならやってみるがいい)」 


 堂上は迷わず腕を振り切っていった。

 放った球は――ワンバウンドしそうな外のナックルカーブ。結果的に難しい球が駒崎のミットに放たれていく。


「(遠いなクソ!)」

「(鳥飼はそんな上手くないし前には転がらない筈……!)」


 鳥飼は腕を伸ばして当てにいく……が、白球はその下を潜り抜けていった。

 これは一つ儲けたかもしれない。と、そう思ったのも束の間――。


「わああああああああああああああああああああああああ!!」

「走れ走れ!」


 駒崎は白球を弾いてしまい、そのまま一塁側のベンチ付近まで転がっていった。

 

「っしゃい!!」

「ないすバント?」


 痛恨の捕逸により、三塁走者の河合は悠々とホームイン。

 そして――スタートを切っていた本村も迷わずホームに突っ込んでくる……!


「くそっ!」


 慌ててホームに送球する駒崎、ホームのカバーに入る堂上、足から滑り込む本村。

 タイミング的にはアウトだった……が、送球が逆球になってしまい、僅かならにタッチが遅れてしまった。


「セーフ! セーフ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「よっしゃあ!」


 本村のホームインも認められて一挙2点。

 その間に、一塁走者の堂上直将も三塁まで到達してしまった。


「……すいません、要求通りのボールだったのに」

「スクイズ空振りは見辛いし仕方がない、切り替えろ」


 駒崎は申し訳なさそうに謝り、堂上は肩を叩いてマウンドに戻っていく。

 ワンバウンドする外の変化球に対してスクイズ空振り。これは打者とバットが被さってくるので、捕手としても非常に捕り辛いボールだ。

 ただ、状況を考えたら前で止めたい一球でもある。体の付近にさえ止めていれば、少なくとも2点目は阻止できた。


「(ふぅ~……空振ったけどラッキーラッキー。打てのサインだし今度こそ決めるぞ~)」


 バッテリーの自滅で2失点。尚も一死三塁のピンチである。

 三塁側の愛電大名古屋スタンドも押せ押せムードだ。後1点は仕方がないにしても、そこで止まらないようだと俺の登板も辞さなくなってくる。

 しかし……ここでようやく目覚めてくれたのが、空前絶後の負けず嫌い・堂上剛士だった。


「ットライーク! バッターアウト!」

「(うわ、ストレートかと思ったのに)」


 鳥飼はチェンジアップで空振り三振。

 捕逸で2点を失ったものの、結果的に三球三振で打ち取った。

 そして――。


「ットライーク! バッターアウト!!」

「(はやっ。手が出なかったわ)」

 

 続く藤沢は152キロのストレートで見逃し三振。

 先程までの苦しい投球とは一転、バットにすら当てさせない完璧なピッチングで、愛電大名古屋の主力を手玉に取った。


「ナイピッチ!」

「ここから先は完封ペースっすね」

「当然だ。このまま無安打で完投しなくては示しがつかん」

「ノーヒットツーランやろうぜ~」


 富士谷の選手達にも活気が戻っている。

 一時はどうなるかと思ったが……取り敢えず、堂上直将以外の打者は何とかなりそうだ。

 後は直将との対決をどうするか。そして有馬と東山から点を取れるかである。


 幸い、打たせて取る系の投手なら、京田でも単打は期待できる。

 堂上の力も抜けたと思うので、早めに集中打を浴びせて逆転したい。

  

富士谷0=0

愛電名2=2

【富】堂上―駒崎

【愛】有馬―藤沢

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何しとんねん駒崎!しゃんとせんかい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ