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14.大荒れ

富士谷0=0

愛電名=0

【富】堂上―駒崎

【愛】有馬―藤沢

「ボールフォア!」


 1回裏、愛電大名古屋の攻撃。

 堂上は最速148キロを記録するも、先頭打者の木村にフォアボールを出してしまった。


「ナイセン!!」

「よーし、いいバッターだ!!」


 先程とは一転、愛知大名古屋のベンチが押せ押せムードになっている。

 ただ、ここから先は恐らくバント連打。勝手にアウト2つ献上してくれるので、此方としては全く問題ない四球である。

 懸念事項は堂上の乱れ方だ。元々、それなりに四死球は出す投手だけど、これが続くとスクイズを使われてしまう。


「(サインは……うん、何時も通りだな!)」


 続く打者は愛知大会11犠打の川合。

 迫力のあるSEE OFFの音色が響く中、右打席でバットを構える。

 今の所バットを立てている……が、恐らくセーフティ気味のバントだろう。


「(バントさせていいっすよ。二死三塁で弟さんを敬遠して、二死一三塁で鳥飼と勝負しましょ)」


 駒崎の真ん中あたりミットを構えた。

 バスターや盗塁も警戒せず楽に送らせる算段。今日の堂上は制球が怪しいので、落ち着かせる意味でもコレで良い。


 一球目、堂上はセットポジションから腕を振り下ろす。

 その瞬間――川合はバットを寝かせると、即座に引いて見逃してきた。


「ボール!!」


 147キロの直球は高めに外れてボール。

 やはり堂上の立ち上がりが良くない。堂上直将の存在に加え、バントの揺さぶりも効いている気がする。

 これは……展開次第では俺の登板も辞さなくなってくるな。


「……ボール、フォア!!」

「(ふむ……体が重いな。走り込み過ぎたか)」


 結局、川合には3ボール1ストライクから四球を与えてしまった。

 ここで一旦タイムが取られる。マウンドに集まる様子を、俺はライトの定位置から見守り続けた。


「(はいはいバントバント。ま、荒れてるし初球は見てみるかな)」


 やがて内野陣が散ると、3番打者の本村が左打席に入った。

 高校通算11本塁打のパンチ力を誇る打者。ただ、この打席は初めからバントの構えを見せている。


「(ストレートが浮きがちっすね。変化ならどうですか?)」

「(ふむ、承知した)」


 一球目、堂上はセットポジションから腕を振り下ろした。

 放たれた球は――バックドアのナックルカーブ。

 本村はバットを引くも、白球は外角真ん中に吸い込まれていった。


「ットライーク!」


 これは枠内に入ってストライク。

 ようやくストライクが先行したな。これで落ち着けると良いのだが……。


「(変化の方が入りますね。んじゃ、次はシュート試しましょう)」


 駒崎の要求は外のシュート。

 堂上は秒で頷くと、本村は再びバントの構えを見せてきた。


 二球目、堂上は速い球を振り下ろしていく。

 本村はバットを寝かせたまま。手慣れた動きで当てにいくと、やや強めの打球は三塁線寄りに転がっていった。

 

「(やべっ……強すぎたか……!?)」


 それは――フォースアウトなら三塁もギリギリで間に合いそうな打球だった。

 しかし、タイミングは際どいしリスクを伴う。もう一つ、直将とは四球前提の勝負になるので、無理して三塁アウトを取るべき場面ではない。

 ただ、堂上はそう思わなかったようで、白球を拾い上げると三塁に送球していった。


「えええ!?」

「わあああああああああああああああああああ!!」

 

 送球がハーフバウンドになり、悲鳴交じりの歓声が沸き上がる。

 これは――と思った時には、京田が見事なグラブ捌きで白球を掴んでいた。


「アウトォ!」

「おお~……」

「良く捕ったサード!」


 無事に三塁はフォースアウト。

 一塁には投げられず、進塁を阻止する形で一死一二塁となった。 

  

「すまない、助けられた」

「低い分にはオッケーだぜ」

「チビ過ぎて高い球は届きませんからね」

「うるせぇ津上!」


 なんとか1アウト奪えたが……堂上の乱調には困ったものだな。

 もう一つ、直将との勝負も避けられなくなった。リスクの割にメリットの少ないプレーだったと言える。


『4番 ショート 堂上くん。背番号6』


 一死一二塁、先制のピンチ。

 堂上直将が右打席に入ると、スタンドからは「アフリカンシンフォニー」の音色が聞こえてきた。

 愛電大名古屋のチャンテと言えば「スモークオンザウォーター」の印象があったけど……この時代は違ったかな。


「(兄上には申し訳ないけど……対決する事になった以上、僕も負けられないし手加減はできない。今日も全打席出塁で完全勝利を飾らせて頂くよ)」


 堂上直将はリラックスした表情と仕草でバットを構える。

 一方、堂上剛士は無表情ながらも、闘志を燃やしているように見えた。


「(変化は狙われるかもっす。もう1回ストレート試しましょ)」


 駒崎の要求は外のストレート。

 ストレートが枠に入らない中、変化球でストライクを2つ取ったので、絞られている可能性を懸念しての配球だ。

 最悪、直将は四死球でもよい。実に合理的な入り方と言える。


「(……直将には1本も打たせん)」

 

 一球目、堂上はセットポジションから腕を振り下ろした。

 放たれた球は――外のストレート。白球はミットに吸い込まれていくと、直将は悠々と見送っていった。


「ボール!!」

「おお~……」

 

 ボール2個分ほど外に外れてボール。

 枠内には入らなかったものの、150キロ超の豪速球に球場全体が響いている。


「(今のは悪くないっすよ。今度はナックルカーブで入れにいきましょう)」


 続けて駒崎のサインはフロントドアのナックルカーブ。

 外から内へと揺さぶりながら、一つストライクを取りに行く算段だ。


 二球目、堂上はセットポジションから腕を振り下ろしていく。

 白球は直将の体に向かっていくと、そこから弧を描いて懐に入っていった。


「ボール、ツー!!」

「(……今のは高校野球なら取って欲しかったですね)」


 直将は再び見送ってボール。

 ボール1~2個分くらい内側に入り過ぎたか。駒崎もフレーミングで誤魔化そうとしたが、球審は惑わされずにボールを宣告した。


「おいおい、またボール先行かよ」

「柏原温存してる場合か~?」


 スタンドからは不安の声が漏れてきている。

 無理もない。バント失敗こそ挟んだものの、連続四球からのボール先行だ。

 遠くから見ている観客からすると、堂上の乱調っぷりは目に余るのだろう。


 ただ、今までの四球と直将へのボール球は似て非なる物だ。

 木村や川合には逆球や抜け球が目立った一方、直将への投球は構えた付近には球が来ている。

 つまるところ「立ち上がりの乱調」は抜け出している可能性が高かった。


 恐らく……直将へのボール球は気持ちの問題である。

 絶対に勝つという負けん気、幼少期から負け続けたが故の恐怖心、そして――実力を評価しているからこその警戒心。

 これらの刷り込まれた感情が混ざり合った結果、より際どいコースを攻めようとして外れているのだ。

 

「……ボール、スリー!!」

「富士谷これ負けるんじゃね……?」

「打たせろ打たせろ~」


 三球目、低めのチェンジアップも外れると、球場の響きはより大きくなった。

 投げている球は決して悪く無い……が、やはり堂上は際どい所を攻め過ぎている。

 相変わらず無表情ではあるけど、その対抗心が悪い意味で投球に出る形となった。

 

「ボール、フォア!!」

「(……一応、一打席目は僕の勝ちですね。次は必ず打たせて頂きますよ)」

富士谷0=0

愛電名=0

【富】堂上―駒崎

【愛】有馬―藤沢

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