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61.嫌な予感

都大二211=4

富士谷112=4

(二)折坂―小西

(富)柏原、堂上―近藤



 同点で迎えた4回表、都大二高の攻撃。

 先頭は先発投手の折坂だったが――ここで代打が告げられて、背番号9の横田さんが左打席に入った。


 次の回から投手が代わる。

 レフトから程近い三塁側ブルペンには、緩い球を投げる横山さんと、急ピッチで肩を作る大野さんの姿があった。

 恐らく、次の投手は大野さんになるだろう。


 マウンドの堂上は、代打と9番打者を連続三振で打ち取っていった。

 140キロに迫る荒れ球に加え、チェンジアップとの緩急が上手く決まっている。

 俺が使わない遅い球が、結果として意表を突く形となったのだろうか。


 打順は1番に戻って菅野さんを迎えた。

 厄介な打者だが、二死無塁なら気楽に勝負できるだろう。


 初球、ナックルカーブから入った。

 見送られてストライク。俺が投げない球から入る、いい判断だと思う。


 続いてストレート。

 これも見送られてストライク。ズドンッと重そうなミットの音が響いた。


 追い込んだ所で、堂上は一度汗を拭った。

 守備が長くなりがちな乱打戦で、三者凡退のイニングというのは、流れを引き寄せる起点となりやすい。


 堂上はワインドアップから左足を上げる。

 その瞬間――銃声のような激しい音が、三塁側ブルペンから聞こえてきた。


「………………はぁ!?」


 思わず脇見した俺は、驚きのあまり叫んでしまった。

 背番号10の大野さんは、右手にボールを握ったまま、プレートから足を外している。

 その横では、背番号1を着けた選手――横山さんが、右腕を振り下ろしていた。


 にわかには信じられない光景だった。

 正史の横山さんは、5回戦の中盤辺りで負傷交代し、準々決勝では野手としてすら出れなかった。

 それは今回も変わらない。その筈なのに、横山さんは渾身のストレートを放った。


「(まさか……歴史が変わったのか……?)」


 一瞬、バタフライ効果という可能性が頭を過る。

 富士谷が快進撃を起こした結果、5回戦の選手起用や選手のプレーに影響を及ぼし、横山さんの怪我が回避されたという説だ。


 ただ、この可能性は限りなく低い。

 何故なら5回戦は、富士谷と都大二高は同じ時間に行われていて、都大二高のほうが先に勝利している。

 正史の東山大菅尾vs都大三高にせよ、今回の富士谷vs都大三高にせよ、前評判では都大三高が勝っているので、都大二高は都大三高の勝利を想定していた筈だ。


 そして事実として、横山さんは好投していたにも関わらず、4回1/3という中途半端な所で降板している。

 恵の正史ノートを見ても、正史と今回で試合展開に違いは見られなかったので、都大二高の5回戦は正史通りだと考えるのが無難だ。

 となると、これも威嚇の一種なのだろうか。それにしては本気の直球に見えたが――。

 

「レフト!!」


 ブルペンに気を取られてると、そんな叫び声が聞こえてきた。

 いつの間にか、ライナー性の打球が飛んできている。

 ヒット性の当たりだ。俺はバウンドを合わせて白球を捕らえた。


 待望の三者凡退とはならなかった。

 ただそれよりも、今はブルペンが気になって仕方がない。


 この威嚇は、正史でもあったのだろうか。

 今のストレートは、実際には何キロ出ていたのだろうか。

 わからない。わからないけど――何だか嫌な予感がする。


「ットライーク! バッターアウッ!」


 続く八谷さんは見逃し三振となり、この回はゼロに抑えた。

 今日は投手堂上がハマっている。俺がボコスカ打たれたのが嘘のようだ。


 これに関しても謎が多いが――段々と答えが見えてきた気がする。

 近藤は投手の好みを優先してリードするタイプだ。それに加えて、堂上には要求通りに投げ分けるだけの制球力がない。

 恐らくだが、登板機会の多く、制球力も高い俺の配球だけが読まれていたのだろう。


 まあ、そんな事はどうでもいい。

 いま最も気にすべき事は、都大二高の二番手が誰になるかだ。


 俺はベンチに戻ると、マウンドに視線を向ける。

 注目の攻守交代。三塁側ブルペンから出ていったのは――。


 背番号1の大柄な選手、横山さんだった。

都大二211 0=4

富士谷112 =4

(二)折坂―小西

(富)柏原、堂上―近藤



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