59.こういう日もある
都大二21=3
富士谷11=2
(二)折坂―小西
(富)柏原―近藤
2回の攻防は、お互いに1点を追加する形となった。
先ずは都大二高。
先頭の坂元さんが出会い頭の二塁打を放つと、ポテンヒットと犠牲フライで1点を追加。
下位でも長打が出るあたり、地力の高さが窺える。
一方で富士谷。
先頭の鈴木がライト前ヒットで出塁すると、続く近藤はセカンドの失策で無死一三塁。
阿藤さんはショートへの併殺打となったが、その間に1点を返した。
3回表、都大二高の攻撃は、3番の大嶋さんから。
170cm80kgの右打者で、セカンドとは思えないほど体に厚みがある。
先程はバントだったが、決して侮れる打者ではない。
ここまで被安打の殆どは直球だ。
という事で、この選手はバックドアとフロントドアを使って慎重に追い込みたい。
そう思って投じた初球――フロントドアのスライダーは、懐でしっかりと振り切られた。
ショート正面への痛烈な当たり。渡辺は体で止めるも投げられず、強襲安打となった。
くそ、さっきから随分と思いきりがいいな。
それでいて、ボール球になる変化球は振らないので非常にやり辛い。
ある程度は想定内とはいえ、ここまで簡単に打ち返されると流石にキツいものがある。
そして、なにより気になるのが守備だ。
今日は何時にもまして酷い気がする。馴れない人工芝に加え、精神的な疲れが溜まっているのだろうか。
中4日で体力は万全に近いとはいえ、勝ち上がる度に精神的なプレッシャーは増えていく。
大舞台に慣れていない富士谷ナインにとって、神宮というステージは荷が重いのかもしれない。
無死一塁、続く打者は左の新田さん。
先程は外の球を読まれていた。踏み込んでくるのなら、内角の球には反応できない筈だ。
内で威嚇した後、枠に入るスプリットを解禁して併殺を狙う。序盤はあまり使いたく無かったが……そうも言ってる場合ではない。
初球、内のストレート。
案の定、新田さんは踏み込んできたが――。
「……デットボォ!」
肘に当たって死球となってしまった。
避けてねぇだろ、という喉まで出かかった叫びを必死に飲み込んだ。
「タァイム!」
無死一二塁となった所で、主審からタイムが告げられた。
ベンチ要員の島井さんは、此方――ではなく、主審の元へと駆け付ける。
畦上先生は堂上の名前を叫ぶと、手首をクルクルと回した。
投手交代だ。
2回0/3を6安打1死球3失点、半分は守備のミスとはいえ、この内容では降板も仕方がない。
悔しい、けど想定内でもある。遅い球を使える堂上も試したかったし、妥当な判断と言えるだろう。
グラブを交換すると、レフトから堂上が走ってきた。
「俺のランナーは返してもいいから、一個ずつな」
俺はそう言って、堂上にボールを手渡す。
「案ずるな、最初からそのつもりだ。自責にならない走者など興味はない」
「前言撤回、やっぱ少しくらいは返さないよう善処してくれ……」
呆れながら言葉を漏らすと、堂上は無表情で「冗談に決まっているだろう」と言葉を返した。
無死一二塁、俺はレフトの守備位置について試合が再開された。
右打席には5番の市川さん。初球のストレートを打ち返すと、この当たりがセカンドへの併殺崩れとなり、一死一三塁となった。
続く打者は背番号10の大野さん。
170cm70kgと上背はないが、投手も兼任している右打者だ。
最速136キロの速球を投げるだけあって、力には自信があるのだろう。
初球、堂上は渾身のストレートを放った。
空振りしてストライク。その瞬間、球場が少しだけ響動めいた。
「こ、こいつも1年だろ?」
「はっや……本当に都立かよ……」
バックスクリーンを見上げると、画面には140キロと表示されていた。
同じ都立高校に、MAX140キロ超の1年生が二人もいる。
このインパクトは非常に大きい。恵の女神ゴッコがなければ、ここまでロマンのある都立高校は誕生しなかっただろう。
堂上は緩急を使って追い込んでいった。
そして迎えたツーツーからの五球目、チェンジアップからのストレート。
少し内に入った球を、大野さんは迷わず振り抜いた。
大きな当たりが左中間へと飛んできた。
追い付けるか際どい当たり。処理に手間を取れば5点目が入り、6点目の走者が三塁まで到達する恐れがある。
乱打戦において、明暗を分けるのは打力よりも守備走塁だ。
効率よく走者を返した高校が勝利し、拙攻に悩んだ高校が涙を飲む。
だから――正史の都大二高は準々決勝で破れ去った。
回り込む野本に対して、俺は最短で打球を追った。
白球は段々と此方に近付き、その姿が大きくなっていく。
やがて間近に迫ると、左手のグラブを突き出した。
白球の行方は――。
「……アウトォッ!!」
地面スレスレに出したグラブに、しっかりと収まっていた。
「おおおおおおおおお!!」
「守備もうめぇ! すげー1年だな!!」
スタンドから大歓声が沸き起こる。
三塁走者は悠々とホームに帰ったが、長打コースの当たりをアウトにした。
これで二死一塁。俺の自責点は増えたものの、最小失点で二つ目のアウトを奪った。
堂上は後続を三振に切って、この回も1失点で切り抜けた。
試合はまだ始まったばかり。そう簡単にビッグイニングは与えられない。
都大二211=4
富士谷11=2
(二)折坂―小西
(富)柏原、堂上―近藤