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139.俺の居場所は西東京(ここ)だった

富士谷000 000 002 000 0=2

都大三000 000 101 000 0=2

【富】柏原―近藤、駒崎

【都】堂前、宇治原―木更津

 空が薄っすらと赤く染まりつつある中、明治神宮野球場には「さくらんぼ」の音色が響いていた。

 14回表、無死二塁、1ボール2ストライク。一打勝ち越しのチャンスに、両校のスタンドは大いに盛り上がっている。 


 このスタンドにも、今日は多くの西東京球児が集った。

 試合前に見かけた面々は勿論、都立青瀬や佼呈学園、駒川大高など、弱小都立から強豪私立まで、色んな高校の選手が見に来ている。

 それだけ、富士谷は期待されていた。でなければ、圧勝が約束された今年の三高の試合で、神宮球場が満員になる事は無かっただろう。


「……プレイ!」

『只今のバッターは 5番 柏原くん』


 俺が右打席に戻ると、球審からも試合再開が告げられた。

 結局、狙いは何も定まっていない。けど、覚悟と背負う物は見つかった。

 俺は西東京の球児を代表して、世代最強バッテリーに立ち向かう。


「(どんなに考えても無駄だわ。定石通り勝負したけど、こっちは最悪フォアでもいいからな。ここから先は全部インチキミットずらしありきの配球、打てる球なんて1球も来ねぇよ)」

「(俺は先生に従うだけや。甘くならんようにだけ気を付けるで)」


 バッテリーのサイン交換は秒で終わった。

 宇治原はセットポジションの構えに入る。長めにボールを持つと、俺はバットを強く握りしめた。


 細かい見極めはしない。バットが届く範囲なら打ち返す。

 そんな覚悟を胸にテイクバックを取ると、宇治原は左足を上げて投球モーションに入った。


「(高低内外、どっちかでいいから要求通りに頼む。見逃せばストライク、振れば届かないコースで三振だ)」

「(ほな終わりにするで。俺にはこの球しかないんや……!)」


 四球目、宇治原はオーバーハンドから腕を振り降ろしていく。

 高いリリースから白球が放たれると、豪速球は外角低めに吸い込まれていった。


 それは――先程よりも更にボール半個分ほど遠い、プロなら間違いなくボールのストレートだった。

 しかし、俺は無意識的にバットを出している。打ち気が全面に出ていた事で、届きそうなボールに反射で反応してしまった。


 止められそうにない以上、何とか当てて振り切るしかない。

 自分と仲間の為に、チームを支えるマネージャーの為に、そして夢破れた西東京球児の為に。

 ラスボスのウイニングショットを弾き返して、俺を救ってくれた西東京に恩を返す……!


「(なっ……!)」

「(嘘やろ!?)」


 俺は外角低めにバットを出すと、両腕に捉えた感覚が伝わってきた。

 そのまま打球を流すように振り抜いていく。コンパクトなフォロースルーでバットを投げ捨てると、恐ろしく速いゴロは一塁線に飛んでいった。

 そして――。


「フェア!!」

「わあああああああああああああああああ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 あっと言う間に一塁線を貫くと、超満員のスタンドからは大歓声が沸き上がった。

 この時点でシングルヒットは確定の当たり。それもライン際に転がっているので、雨宮が追い付くまでにロスが生じる打球だ。


 無死だし無理する場面じゃない……なんて弱気になってる場合じゃない。

 定位置から遠いライン際の打球、二塁走者の堂上も鈍足ではないし、ここで取るべき選択は唯1つしかない! 


「ゴー!!」


 三塁コーチャーの中道が右腕を回すと、堂上は迷わず三塁を蹴っていった。

 この打球ならホームインは余裕。雨宮の強肩と守備範囲を差し引いても、ホームで刺せるようなタイミングではない筈だ。


「(くっそホームは無理だ……!)」

「あまみー二つ!!」


 雨宮は打球に追い付くも、既にバックホームは諦めている。

 迷わず町田に球を放ると、オーバーランしていた俺は一塁へ引き返した。


「わああああああああああああああああああああ!!」

「勝ち越しだあああああああああああ!!」

「富士谷勝てるぞ!!」


 それと同時に堂上もホームイン。

 三塁側ベンチ、そして一塁側を除く全てのスタンドからは、今日一番を更新する大歓声が沸き上がった。


「ふむ……不服だな。シングルの柏原ではなく、ツーベースの俺に打点が付くべきだろう」

「細かすぎっしょ~! けどナイバッチ!!」

「どっちも神!!」


 堂上は相変わらず無表情だが、仲間達から手厚い祝福を受けている。

 一方、俺も一塁ベースを踏みして、静かに右腕でガッツポーズを掲げた。


 長かった。本当に長かった。

 延長14回、時間にして16時30分頃、ようやく富士谷が二度目のリードを奪った。

 延長戦は三高ペースが続いただけに、踏ん張り続けた甲斐があったと思わされる。


 後はこの1点を守り切れるか、或は追加点を挙げて突き放せるか。

 9回裏みたいな不甲斐ないピッチングはできない。今度こそ0点で抑えて、転生者の役目と運命に終止符を打つ……!

富士谷000 000 002 000 01=3

都大三000 000 101 000 0=2

【富】柏原―近藤、駒崎

【都】堂前、宇治原―木更津

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