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124.竜也の1ミリ

富士谷000 000 00=0

都大三000 000 10=1

【富】柏原―近藤、駒崎

【都】堂前、宇治原―木更津

「わああああああああああああ!!」

「おおおおおおおおおおおおお!?」

「切れるか!?」


 ライナー性の打球はレフト線、サードを守る木田の頭上に飛んでいった。

 手応えは十分に感じられた当たり。スタンドからは大歓声が沸き上がっている。


「(僕のファインプレーで締める……!)」


 木田はジャンピングキャッチを試みる……が、打球はグラブの上を通過していった。

 後はラインを割るかどうか。俺は一塁に向かいながら祈る事しか出来ない。


 正直、今の決め打ちは奇跡に近かった。

 絶対に二度目はない。だからこそ、この一球に懸ける思いは特別だった。


「(き、切れるやろ……!)」


 宇治原が目を丸める中、打球は僅かに曲がりながらラインに迫っていく。

 ぱっと見だとギリギリで切れそうなコース。それでも俺は、一筋の望みに懸けて走り続ける。


「(くそっ、駄目か!?)」


 やがて白球は地面に迫ると、レフト線の外側ギリギリでワンバウンドした。

 ボールの2/3以上はファールゾーンに出てた当たり。それは――遠くから見た限りだと、ファールにしか見えない打球だった。

 

「(いや、これは――)」


 木更津はマスクを投げ捨てている。

 1ミリでも白線に触れていれば判定はフェア。諦めるにはまだ早い。

 果たして、三塁審の瞳にはどう映ったのか。運命の判定は――。


「(――入ってやがる!)」

「フェア!!」

「わああああああああああああああああああああ!!」


 その瞬間、三塁審はフェアの判定を下すと、グラウンドが揺れそうな程の大歓声が沸き上がった。

 ほんの僅かに白線に触れたという判定。ギリギリの打球だっただけに、白球はファールゾーンに転がっている。


「や、やった……!」

「うぇ〜い!」

「よっしゃああああああ!! さすが俺達の柏原!!」


 二塁走者の野本は悠々とホームイン。

 これで首の皮一枚繋がった。後は一塁走者の津上が何処まで進むかだが――。


「津上、ストッ……!」

「(二死二三塁だと鈴木さんは敬遠される。ここはホームまで突っ込むしかない!)」


 三塁コーチャーの中道は止めるも、津上は無視してホームに突っ込んでいった。

 二死からの長打コースとはいえ外野の頭は越えていない。高山の強肩も加味すると、非常に際どくなりそうなタイミングだった。


「(ダイレクトで刺してやる……!!)」


 レフトの高山は完璧な遠投を披露している。

 彼は遠投120メートル、投手としても最速144キロだ。このスペックなら深い位置からでも一人で刺しに行ける。

 7回表と同様、木更津のタッチと津上の勝負になるだろう。


「(最短でタッチすりゃギリで間に合う。逆転は絶対に許さねぇよ)」

「(去年の堂上さんみたいに……って思ったけど、俺がやっても読まれるだろうな。正攻法の避けスラでギリギリを狙うしかねぇ)」


 絶妙なバックホームは、非常に際どいタイミングでホームに帰ってきた。

 木更津は無駄のない鮮やかな動きでタッチしにいく。一方、津上は大袈裟に避けながら滑り込むと、腕を精一杯伸ばしてホームベースを触りに行った。


「どっちだ!?」

「セーフだ!!」

「いや届いてない!」


 選手と観客達が見守る中、ホームの付近には赤土の砂塵が舞っている。

 津上はタッチを躱したように見えた……が、ホームベースにも触れていないように見えたプレー。

 ただ近くで見ていないから分からない。果たして、球審の判定は如何なるものか――。


「セ、セーフ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「っしゃあああああああああああああああああああ!!」

「逆転だあああああああああああああああああああ!!」


 その瞬間――今日一番の大歓声が沸き上がると、俺は二塁ベース上で右腕を掲げた。

 長かった……本当に長かった。正直、綺麗なヒットは殆ど出なかったが……それでも最後は、俺の逆転タイムリーツーベースで試合をひっくり返した。


「えー、ファールじゃないの??」

「ホーム触ってないだろぉ! 審判ちゃんとやれぇ!」


 一塁側スタンドからはOBであろう中年男性から野次が飛んでいる。

 確かに、俺も届いていないと思っていた。けど、一番近くで見ていた球審はセーフと判定した。 

 その事実は変わらない。それに――。


「(クソッ……指先がギリギリで入ってやがった。フェア判定に続いてこんな事ってあんのかよ……)」


 誰よりも目の良い木更津が、異論を唱えずに無言で俯いていた。

 彼から見てセーフなら間違いない。俺の打球は紛れもなくフェアで、津上は確かにホームに触れていたのだ。


 これで2対1。一転して主導権は富士谷に移り変わった。

 後1イニング、たった3アウトを取るだけで……都大三高の春夏連覇を阻止できる……!


富士谷000 000 002=2

都大三000 000 10=1

【富】柏原―近藤、駒崎

【都】堂前、宇治原―木更津

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