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113.グラブ破壊打法

富士谷000 000 0=0

都大三000 000 1=1

【富】柏原―近藤

【都】堂前、宇治原―木更津  


「やべぇ……ボールが抜けねぇ!」

「はぁ!?」


 振り返った京田がそう叫ぶと、俺は思わず顔を歪めてしまった。

 なんてことはない。大島の放った痛烈な打球は、グラブの隙間に挟まり固定されてしまったのだ。


「もうグラブごと投げろ!」

「お、おう!」

「(あれ……これチャンスちゃうか……!?)」


 俺が咄嗟に叫ぶ中、宇治原は大きめにオーバーランしている。

 京田はボールが挟まったグラブを内野に投擲。しかし――投げ慣れてない物であるが故に、ぜんぜん距離が足りていない……!


「宇治原ゴー!」

「(ラッキーラッキー! 神様も俺らの味方や!)」


 その瞬間――宇治原はスタートを切ると、津上は慌ててグラブを拾いにいった。

 想定外の珍プレーでまさかの進塁。タイミング的には刺せそうだが、グラブごと送球されると考えると、どう考えても間に合いそうにない。


「津上、キープでいい!」

「うっす」


 三塁カバーに入った俺は両手でバツを作り、大島の進塁を警戒するよう指示した。

 宇治原は悠々と三塁に到達。大島は一塁に帰塁し、一死一三塁とピンチが拡大してしまった。


 一死一二塁と一死一三塁では守り易さが天と地ほど変わってくる。

 それくらい不運過ぎる打球だった。神にも見放されたとしか言いようがない。


「タイムで」

「タァイム!!」


 取り敢えず、俺は球審にタイムを要求した。

 運も含めて試合の流れは最悪。それに京田のグラブを補修ないし交換する時間も要する。

 全員で落ち着く為にも、ここは間を置きたい場面だった。


「グラブ大丈夫か?」

「とりあえず紐は切れてねーっぽいけど何か違和感あるわ」

「夏樹あたりと交換しといた方がいいっすよ。一度隙間が空くと嵌り易くなるんで」

「アイツちゃんと型作ってんの? 俺、意外とそういうとこ拘ってるぜ?」

「夏樹とか戸田のなら大丈夫っすよ。大川のはペチャンコなんでヤベーっすけど」

「よし、じゃあ夏樹だな! 本職外野は信用ならん!」


 集まった内野陣とそんな言葉を交わしていく。

 珍プレーの後だからか、思ってたほど雰囲気は悪くない。


 ただ、次の1点が致命傷なのも事実だ。

 それも一死一三塁なのでノーヒットで点が入る。

 正直、絶体絶命と言っても過言ではないだろう。


「監督から。内野はホーム優先、確実にゲッツー取れそうな時だけ二塁だって。あと宇治原と大島でディレードはないだろうから打者集中で」

「だろうな……」

「肉おじめ……分かり切った事を……」


 続けて、伝令の夏樹から指示を聞くと、俺達は思わず顔を歪めてしまった。

 此方としてはホームで刺しに行くしかない。大島は鈍足だけど、続く雨宮は俊足強打の左打ちなので、併殺狙い一点張りはリスキーだ。


「……何か秋と流れが似てるよね」


 ふと、そう言葉を溢したのは渡辺だった。

 確かに昨秋と流れが似ている。拮抗している中で、富士谷が絶好のチャンスを逃し、その直後に連打連打で大量失点を浴びてしまった。


「それは言うなよ……」

「あの時も陽ちゃんがやらかしてから崩れたっすよね」

「今回はやらかしじゃねぇし! 強襲安打だし!」

「俺ならグラブ飛ばさなかったっすよ」

「こいつ……!」


 選手達はそんな言葉を交わしている。

 昨秋の敗戦に酷似した悪い流れ。しかし、実は少しだけ異なる部分もある。

 それは――。


「いや、今回は少し違うな。まだお前らに余裕がありそうだから」


 選手達の表情が死んでない、という所である。

 昨秋は全員が絶望してテンパっていた。それに比べると、まだ心に余裕がある……と。


「陽ちゃんの面白プレーのせいで気が抜けた感はありますね」

「俺のお陰か? もっと褒めていいぞ」

「そもそも捕ってたら悪い流れ絶ち切れたけどね……」


 そんな感じで、守備のタイムの時間は過ぎていった。

 取り敢えず内野守備は問題なさそうだ。後は俺が抑えられるか、という部分である。


「お、救急車」

「くそ暑いしな〜。誰か倒れたんじゃね〜」


 ふと、救急車のサイレン音が聞こえてきた。

 だんだん音が遠退いていくので此処ではない……が、思わず冷や汗が出てしまう。

 未来を知っているが故に、つい恵が倒れたのかと思ってしまった。


 この試合は文字通り命が懸かった一戦だ。

 絶対に負けられないし、負けたら「悔しい」程度では済まされない。

 他の高校生とは背負っているモノが違う。その自覚を持って戦おう。


「……絶対に抑えよう。自分達の為にも、応援してくれてる皆の為にも」

「うぇい!」

「しゃー!」


 最後に無難な言葉で締めると、内野陣は守備位置に散っていった。

 もうバットにすら当てさせない。二者連続三振で絶対絶命のピンチを切り抜ける……!


富士谷000 000 0=0

都大三000 000 1=1

【富】柏原―近藤

【都】堂前、宇治原―木更津  

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