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110.油断と慢心

富士谷000 000 0=0

都大三000 000=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前、宇治原―木更津

 日陰が増えた明治神宮野球場には、吹奏楽部が奏でる「ダンシングヒーロー」の音色が響いていた。

 7回裏、都大三高の攻撃は3番の木更津から。スイッチヒッターの彼は、迷うことなく左打席に入った。


「(ここまで俺にスプリットはなし。そろそろ解禁するだろうけど、ケチってる内に打っちまいてーな)」


 木更津は黙々とバットを構える。

 試合は既に7回裏。今まで球種を縛ってきたけれど、そろそろ全解禁で良いかもしれない。

 前の打席ではツーシームを捉えられたし、出し惜しみする余裕も無くなってきた。


 という事で、初球は低めのスプリット。

 ボールになっても良い。見せ球として機能すれば、他の球種も振り辛くなる筈だ。


 一球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いていく。

 放った球は――外角低めのスプリット。木更津はバットを出しかけるも、ギリギリでスイングを止めてきた。


「ボール!」

「(……スプリットきたか。ボールから入るのは予想通りだったけど)」


 近藤はスイング判定を求めるもボール。

 木更津は動じる事なく、淡々とバットを構え直している。


 さて……これでスプリットが脳裏に焼き付いた筈だ。

 次は内角低めのストレート。沈む残像が残っている内に、クロスして食い込む球で勝負する。


 二球目、俺は膝元ギリギリを目掛けて腕を振り抜いた。

 白球は近藤のミットに吸い込まれていく。すると次の瞬間――。


「(スプリットを見せ球にして低めのストレート……ほらな!)」


 木更津は迷わずバットを振り抜いてきた。

 鈍い打球の音が響き渡る。白球の行方は――。


「ファール!」


 バックネットに飛んでファールが宣告された。

 良いスイングだったので焦ったが……見せ球のスプリットが効いたみたいだな。

 まだ微妙に合ってない。例によって読み合いは無駄なので、ここから先もシンプルな組み立てで攻めていく。


「ファール!」

「ファール!」


 三球目は内角低めのサークルチェンジ。一塁線に切れてファール。

 四球目、外角低めのストレート。これは三塁線に切れてファールになった。


 三球目と四球目は何れも捉えたゴロ。

 最大緩急も楽にカットされ、投げる球が無くなってきている。

 カウントは1ボール2ストライク。まだボール球は使えるし――勝負に出るならココしかない。


「(読み合いは無駄なんだろ。スプリットでいこうぜ)」


 そして迎えた五球目、近藤は低めのスプリットを要求してきた。

 恐らくバレバレであろう球。それでも俺は、今まで信じてきたウイニングショットで勝負する。


「(はい表情に出過ぎ。カウントも投手有利だしスプリットで確定だな。まぁたぶんボールだろうけど、入りそうなら掬い上げるしかねぇ)」


 投球モーションに入る俺、テイクバックを取る木更津。

 やがて鋭く腕を振り抜くと――白球は真ん中やや低めに吸い込まれていった。


「(これは……入る!)」


 木更津は合わせたスイングで振り抜いていく。

 白球は手元で鋭く沈んでいくと、バットの下を潜っていった。

 白球の行方は――。


「ットライーク! バッターアウト!」


 近藤のミットに収まり空振り三振。

 先ずは先頭の木更津を打ち取り、俺は小さくガッツポーズを見せた。


「(……思ってたよりも深くて速かったな。振る球じゃなかったわ)」


 これで木更津は3打数0安打。本人も思わず肩を落としている。

 昨夏、昨秋と散々やられた打者なので、彼を抑え込めてるのは非常に大きい。


「さあ天才の打席だよ凡人の諸君! そろそろ僕の本気を魅せてあげるから期待しててね♪」


 続く打者は4番の木田哲人。

 彼は例によって四球か単打で良い。そう思いながらテンポよく投球モーションに入っていく。

 そして外のスクリューを放つと――その瞬間、思わず背筋が凍りついてしまった。


 どう見ても明らかにボールになる球。

 ただ、木田対策は一貫していたが故、つい単調になっていたのかもしれない。


「ワンパだよ柏堂くん。魅せるって言ったじゃん♪」


 木田は迷わず踏み込んで腕を伸ばすと、繊細かつ強引なスイングで白球を捉えた。

富士谷000 000 0=0

都大三000 000=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前、宇治原―木更津

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