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99.ボール1個分の異変

富士谷000 0=0

都大三000 0=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

「……タイムお願いします」

「タァイム!」


 5回表、二死一塁。

 鈴木にポテンヒットを打たれた所で、俺――木更津健人は堂前の元へ駆け寄った。


「どうした? ボール1個分だけ高かったぞ」


 俺は口元にミットを当てながら言葉を零す。

 間を取った理由は他でもない。初ヒットを打たれたから……ではなく、堂前の制球が僅かに狂ったからだ。

 ヒット自体は気にする事のない出会い頭。ただ、俺は堂前の僅かな変化を見逃さなかった。


「悪い。手汗のせいで少し狂ったかも」

「ロジン付けとけよ。今日は過去イチ暑いからな」

「ああ……」


 堂前は鬱陶しいそうに汗を拭っている。

 無理もない。公式戦でここまで汗をかくのは初めての事だ。

 繊細なコントロールを扱うが故に、些細な変化が影響してしまうのだろう。


「……実際のところどうよ」

「こんなに神経擦り減らしたの初めてかも」

「だろうな。キツそうなら9分割でいいぞ。それでも十分に規格外だからな」

「大丈夫。後ろには宇治原もいるし全力でやり切るよ」

「そうかよ」


 やる気を見せる堂前に、俺は諦めたように言葉を返した。

 正直、堂前の制球力は多少は手を抜いても異次元クラスだ。

 俺が受ければ良さも引き立つし、出来れば力配分して完投する展開が望ましい。


 ただ、そのペース配分を操作できないのが堂前の弱点。

 ガサツで打たれ強い宇治原とは違い、堂前は繊細な投手なので、強引に言い聞かせると投球に影響が出る恐れがある。

 故に俺は堂前に逆らえない。多少は捕手として引っ張るけど、繊細な彼の意向は基本的に通すしかないのだ。


「キツくなったら直ぐに言えよ。お前なら制球や球威を落としても全然通用するから、いざとなればその前提で組み立てる」

「うい」


 最後に堂前の肩を叩くと、俺は持ち場に戻っていった。

 この分だと9回持つか怪しいな。後半になれば球威と制球は少なからず落ちる。

 有象無象は問題ないとしても、3番から6番の並びはそう甘くない。


 あとは宇治原に託すか、そうなる前に点を取るか。

 理想的なのは後者だが――今日は柏原の調子が頗る良い。

 元々スペックの高い投手ではあるが、今日は実力以上のモノが出ている感じすらある。


 誰かが言った。弱いチームでも3割は勝てると。

 もし、富士谷がその3割を引き当てるとしたら、今日のような試合展開なのだろう。


 勿論、そうはさせないのが俺の役目。

 投手陣を完璧にリードして、3番打者として得点に繋げる。

 その仕事さえこなせば、スミ1で完封勝利できるのだから。


「アウト!」

「ああ〜……」

「初ランナーだったのに」


 中橋はレフトへのファールフライに打ち取り、5回表も無失点で切り抜けた。

 しかし、柏原も尻上がりに調子を上げている。5回裏は三者三振で此方も無得点。

 0対0のイーブンのまま、5回終了のグラウンド整備へと突入した。

富士谷000 00=0

都大三000 00=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

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