表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
534/699

97.フルスイング戦法

富士谷000 0=0

都大三000=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

 4回裏、二死無塁。

 町田と木更津を順調に抑えたが、木田にはセンター前ヒットを許してしまった。

 やはり彼だけは別格だ。箱根駅伝で言う黒人選手のようなモノなので、敗北前提の区間として諦めるしかない。


 続く宇治原はライトフライ。

 外の高速スライダーに対して、長い腕を伸ばして強引に当ててきた。

 勝負所では内角攻め方が良いかもな。窮屈な打撃を強いる事ができる。


「堂上、フルスイングでいいぞ。カットとか考えなくていいからな」

「うむ。最初からそのつもりだ」


 5回表の攻撃は堂上から。

 攻撃前の円陣に加われない彼に対して、俺は一つだけ指示を与えておいた。

 どうせ好き勝手に打つのは分かっている。今のは意思確認みたいなものだ。


「津上もカットとか狙わなくていいからな」

「えっ、俺もっすか。作戦的には球数稼いだ方がいいんじゃ?」

「こういう展開だと一発ある方が怖い。中軸は力で堂前に圧を掛けに行こう」

「うっす」


 続けて、津上にも同じ指示を出していく。

 ロースコアゲームで怖いのは一発だ。万が一が起きれば一気に試合の主導権を握れる。

 中途半端に球数を稼ぐよりは、その方がプレッシャーにもなるだろう。


 正直、ここまで手も足も出ないとは思わなかった。

 こうなってくると、藁にも縋る思い……と言うよりは、もはやガチャ感覚。

 俺、堂上、津上の誰かでSSR、もとい一発を引く。堂前からの得点パターンはそれしかない。


「アウト!」

「(ふむ……またしても打たされてしまったな)」


 堂上はセンターフライでワンアウト。

 詰まった当たりではあったが、他の打者とは違い外野には運べている。

 彼に長打が出るかどうかが一つの鍵。もし塁に残るようなら、俺にも堂上を返す打撃が求められる。


『5番 ピッチャー 柏原くん。背番号1』


 一死無塁、相変わらず完全試合ペースが続く中、俺の二打席目を迎えた。

 狙いは左中間のスタンド。この打席は何も考えず、打てそうな球をフルスイングする事だけに集中する。


「(柏原は分かり易いからな。取り敢えず外で釣ってみて、あとは反応見て決める)」

「(了解)」 


 一球目、堂前はセットポジションから腕を振り抜いた。

 放たれた球は――外角低めの速い球。俺はフルスイングでバットを振り抜くも、白球は鋭く外へ曲がっていった。


「ットライーク!!」


 外へ逃げるスライダーを空振ってストライク。

 これでいい。中途半端なスイングをするよりは、この方が遥かに可能性はある。


「(本気で当てにいってたしブラフじゃねぇな。これじゃ変化球にクルックルだろうし全く怖くねぇよ)」


 捕手の木更津は鼻で笑っている。

 確かに、冷静で分析力に優れた木更津に対して、何も考えていないバカ丸出しのフルスイングは悪手。

 圧にも全く動じないだろうし、彼としては組み立て易くなったに違いない。

 しかし――。


「(……こっわ。当たったら間違いなくホームランだな)」


 堂前は唾を飲み込み、強張った表情で汗を拭っていた。

 俺達の狙いは最初から堂前。彼なら少なからず怖さを感じてくれる筈だ。


 球数を稼ぐのは絶望的。ならば一球一球の重みを上げていく。

 より高い緊張感の中で投げさせて、少しでも体力を削れたら幸いだ。


「ボール!」

「(流石に振らねぇか。そろそろインも使うかな)」


 二球目の外のスライダーはバットを止めてボール。

 勿論、見れる球は少しでも見て行く。なんでも振ると思われたら怖さも半減だ。


「(インにストレート。たぶん振り切れないぞ)」

「(先生がそう言うなら)」


 そして迎えた三球目、堂前はセットポジションから白球を放った。

 内角低めのギリギリのストレート。俺はバットを振り抜くと――。


「ファール!!」

「おおー!」


 掠った打球は後ろに飛んで、バックネットに直撃した。

 球速表示は147キロ。タイミングは良かっただけに、客席も少しだけ騒めいている。


 後は芯に合わせるだけ。

 しかし、それが難しいのが木更津堂前バッテリーの真価だ。

 

 外スラか、チェンジアップか、それとも意表を突いた一球か。

 読んでも無駄だし仕方がない。俺は来た球を全力で振り抜くだけだ。


 四球目、堂前はセットポジションから腕を振り抜いていく。

 放たれた球は……高めに浮いた変化球。これは――と思った時には、無意識の内にフルスイングしていた。


「ットライーク、バッターアウト!」


 抜けスラ風に浮かせたスライダーで空振り三振。

 くそ、堂前にはコレもあったな。集中し過ぎて完全に忘れていた。


「(ふぅ~……怖かった。後は鈴木さえ抑えりゃ暫く楽できるな)」


 堂前は安堵の息を吐きながら汗を拭っている。

 三振で終わったがプレッシャーは与えられた。後は後半になって効いてくる事を祈るのみである。

 

 

富士谷000 0=0

都大三000 0=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ