表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
533/699

96.先生の2打席目

富士谷000 0=0

都大三000=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

 4回裏、先頭の町田をショートゴロに打ち取り、一死無塁で木更津の打席を迎えた。

 スイッチヒッターの彼は迷わず左打席に入る。スタンドからは、応援曲のダンシングヒーローが聞こえてきた。


「(前の打席はスライダー、チェンジ、ストレートで空振り三振。思いっきり振り遅れたから、今回も同じ攻め方で来るかもな)」


 木更津はベースを叩いてからバットを構える。

 前回の打席は三球三振。サークルチェンジからのストレートが決まり、見事に空振り三振で打ち取った。


 ただ、同じ手段が通用するとは限らない。

 木田の前に走者は出したくないので、配球に関しては慎重に考えたいところ。

 今回も緩急を意識しつつ、四つ目の球種も検討していく。


「(とりあえずボール球でいいんだよな?)」


 一球目、近藤の要求は外のサークルチェンジ。

 木更津の出方が分からないので、先ずは様子を見る算段だ。


 一球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いていく。

 放った球は――要求通りのサークルチェンジ。木更津はバットを止めると、悠々と見逃してきた。


「ボール!」


 判定は当然ながらボール。

 木更津は落ち着いた表情で球筋を確認し、一息吐いてからバットを構え直した。


「(定石通りなら内角のストレート。ただ、今日は結構スプリット使ってるんだよな。カウント勝ってるし様子見るか)」


 次の狙いを考えているのだろうか。

 その間、近藤は内角にミットを構え、ストレートの指示を出していた。


 さて、二球目だが……一打席目と同様、ストレートとの最大緩急で勝負したい。

 ありきたりだが定石の配球。読み合いでは勝てない以上、分かっていても打てない球でゴリ押すしかない。


「(……さっきより視線が内だな。内角なのは間違いねぇ)」


 投球モーションと同時に、木更津は右足を引いてテイクバックを取る。

 また振り遅れるか、それとも今度は当ててくるか。そんな事を思いながら、俺は内角低めに渾身のストレートを放った。

 しかし――。


「ットライーク!!」


 木更津は微動だにせず見逃して、ストライクが宣告された。

 ……流石に様子を見てきたか。カウントには余裕があるし、難しい球を打つ必要がないと。


 これでカウントは1ボール1ストライク。

 次はアウトローの変化球でカウントを整え、対角線のストレートで仕留めるのが理想的だ。


「(この辺でスプリット使いたいが……)」

「(いや、まだ早い。打ち合わせ通りで頼む)」

「(じゃあ逃げるツーシームか)」

「(そう)」


 近藤のサインに対して、俺は二つ目のサインに頷く。

 僅かに逃げるツーシーム。ファールは勿論、あわよくば打ち損じを狙いたい。


「(たぶん外使ってからのインハイだな。開き直ってコースは定石通り組んでやがる。あとは球種、変化球なのは間違いねえけど何で来るか。緩急を活かすならシンカー系だろうけど、確実にストライクを取るならスプリットもあるな)」


 バットを構える木更津、ミットを叩いて構える近藤。

 俺は投球モーションに入ると、右腕を鋭く振り抜いていった。


「(やべっ……!)」


 その瞬間――俺は思わず声が出そうになってしまった。

 狙い過ぎたのか、或いは指先の感覚が狂ったのか。

 失投と言うほどではないけれど、思ったよりも高めに投じてしまったのだ。


「(やっぱり外角だったな。そしてこれは沈む球……!)」


 木更津は迷わすバットを振り抜いていく。

 バットの心地よい音が響き渡ると、掬い流した打球はレフト方向に飛んでいった。


「おおおおおおおおおおおお!!」

「でかいぞ!!」


 大歓声に包まれながら、中橋は目線を切って後進していく。

 落ちれば二塁打は間違いない当たり。後は中橋が追い付くかどうか、と言った所である。


「(今日は一つでも相手に譲ったら負ける。これは絶対に捕りますよ……!)」


 打球は放物線を描いて落ちると、中橋は半身に切り替えた。

 走りながら右手のグラブを差し出していく。そして白球が見えなくなると、中橋は勢いそのままクッションで受け身を取った。

 果たして白球の行方は――。


「ア、アウト!!」

「わあああああああああああああああ!」

「おお、よく捕った!!」


 中橋はグラブを掲げてアピールし、ノーバウンドの判定が下された。


「あっぶな。正面に回り込めや」

「あん? 無理に決まってんだろ!」


 中橋は津上に煽られながら返球している。

 今のは守備に助けられたな。前日、散々ミス出来ないと発破を掛けた甲斐があった。


「(……ツーシームか。シングル狙いだったけど、スプリット意識したぶん高く上げちまったな)」


 もう一つ、木更津にも助けられたな。

 木田の前だと一塁でも二塁でも変わらないので、打ち上げてくれたのは嬉しい誤算だった。

 その意図までは読めないが……打ち取ったので結果オーライとしよう。


 二巡目の木更津を抑えてツーアウト。

 木田にホームランを打たれない限り、後続を押さえればイーブンのまま5回を迎えられる。


 4回裏、二死無塁。

 試合はまだ動かない。

富士谷000 0=0

都大三000=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ