表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
525/699

88.決勝開幕

西東京大会決勝

7月29日(日) 明治神宮野球場

都立富士谷高校―都東大学第三高校

スターティングメンバー


先攻 都立富士谷高校

中 ⑧野本(3年/右左/180/75/日野)

二 ④渡辺(3年/右右/176/72/武蔵野)

遊 ⑥津上(2年/右右/181/80/八王子)

右 ⑨堂上(3年/右右/182/83/新宿)

投 ①柏原(3年/右右/180/79/府中)

一 ③鈴木(3年/右右/180/77/武蔵野)

左 ⑦中橋(2年/左左/170/63/八王子)

捕 ②近藤(3年/右右/171/76/府中)

三 ⑤京田(3年/右右/168/63/八王子)


後攻 都大三高

中 ⑧篠原(3年/左左/184/80/杉並)

二 ④町田(3年/右右/175/73/菊川)

捕 ②木更津(3年/右両/178/74/南房総)

三 ⑤木田(3年/右左/182/80/飛騨)

左 ⑦宇治原(3年/右右/186/84/大津)

一 ③大島(3年/右右/182/96/前橋)

右 ⑨雨宮(3年/右左/180/79/郡上)

遊 ⑥荻野(3年/右左/168/68/船橋)

投 ①堂前(3年/右右/178/78/町田)

 全体アップ開始から先は、あっと言う間に時間が過ぎていった。

 ランニング、キャッチボール、そしてトスバッティング。いつもの流れを普段通りにこなしていく。

 選手達は少し緊張していたが、空回りしている様子は見受けられない。


 シートノックは都大三高から。

 言うまでもないけど半端なく上手い。守備範囲は尋常じゃなし、スローイングの早さも化け物じみている。

 ただ、やはり篠原の肩は穴。センターに飛んだら積極的に進塁したい。


 続けて富士谷のシートノック。

 吹奏楽部が奏でる「シロクマ」の音色が響く中、三高に負けじと無失策で切り抜けた。

 ミスできないと発破をかけた甲斐がある。この調子でノーエラーと行きたい所だ。


『……本日は大変混みあっております。座席には荷物を置かず、詰めてお座りください。また過度な座席の確保はご遠慮ください』


 スタメン発表が終わった頃、そんなアナウンスが聞こえてきた。

 既に内野席は満席。外野席も目視では埋まっていて、満員御礼も秒読みだと感じられる。

 つまり現地だけでも約3万人。更に東京MXとNHKの視聴者達が、俺達の試合に注目していた。


「集合!」

「っしゃい!」


 13時ちょうど、球審より整列が告げられた。

 ホームベースを挟んで三高の選手達と向かい合う。

 史上最強の威圧感は凄まじい……が、此方も食トレには力を入れてきたので、体格では決して負けていない気がした。


「これより、都東大学第三高校と、都立富士谷高校の決勝戦を始める。礼!」

「おっしゃあす!!」


 球審の合図で一礼すると、スタンドからは大きな拍手が巻き起った。

 俺達は三塁側のベンチへ、三高の選手達は守備へと散っていく。

 遂に戦いの火蓋が切られた。西東京No.1を決める戦いが。


「(……堂前の調子は上々。コントロールもバケモンだけど、この安定感が良いんだよな)」


 マウンドには堂前俊太。

 捕手の木更津に向かって、淡々と白球を投げ込んでいく。

 やがて7球を投げ終えると、木更津は矢のような二塁送球を放った。


「お願いします」


 野本は一礼してから左打席に入る。

 それと同時に、三塁側スタンドからは「スマイリー」の音色が聞こえてきた。


『1回表 都立富士谷高校の攻撃は 1番 センター 野本くん。背番号8』

「……プレイ!」


 演奏が始まり、アナウンスが流れ、プレイボールが宣告される。

 果たして、一冬越えた富士谷打線は、堂前に何処まで抵抗できるだろうか――。


「(できれば球数を稼ぎたいけど……打つなら読み合いにならない初球だよね。僕は引っ張りが多いし、木更津くんは定石を好むから、アウトローに張ってみようかな)」

「(眼鏡は結構ボール球振るからな。初球は外角にボール半個分だけ外すぞ)」

「(そこ微妙にボールだけどいいのかな。ま、先生には従うけど)」


 注目の初球、堂前は外角低めにストレートを放ってきた。

 野本は迷わずバットを出していく。しかし、思っていたより遠かったのか、当てただけの打球は後ろに飛んでしまった。


「ファール!!」


 打球は当然ながらファール。球速表示は147キロと表示されている。

 この球速で精密機械は反則だな。初球を運で打つ以外に攻略法が思い付かない。


「(あちゃー、外狙いバレちゃったかな。こうなったら少しでも球数稼ぐかぁ)」

「(……外角低めに逃げるツーシームだな。眼鏡ならワンチャン振ってくれる)」

「(へいへい。早くチェンジアップ投げたいなぁ)」


 二球目、堂前は再び外へ速い球を放ってきた。

 野本は悠々と見送っていく。白球は僅かに逃げると、木更津はビタッとミットで捕えた。


「…………ボール!」


 際どかったが判定はボール。

 野本にしては球が見れているな。この調子で堂前を消耗させたい所だ。


「(見逃し方へったくそだなぁ。打ち気ないのバレバレ。てことで次はインで入れるぞ)」

「(自信もって外見逃した後だけど大丈夫……?)」


 三球目、木更津の構えは内角低め。

 堂前はスリークォーターから白球を繰り出すと、鋭いカットボールは膝元に吸い込まれていった。


「ットライーク、ツー!」

「(やっぱ追い込むの早いなぁ。次は打たないと……!)」


 これはギリギリ入った判定でストライク。

 本当に高さもコースもギリギリだ。球速も141キロ出ているし、とても高校生が打てる球だとは思えない。


「(……とりあえず一球だけ見せとくか。ただ、今日は序盤はケチるからな)」

「(そうそう。やっぱ得意球は安心して投げられる)」 


 そして迎えた四球目、堂前はテンポよく投球モーションに入った。

 鋭い腕の振りからブレーキの掛かった球が放たれる。野本は思わずバットを出すも――。


「(それは……打てない!!)」

「ットライーク! バッターアウト!」


 決め球のチェンジアップに掠りもせず、盛大に空振りして三振を奪われた。

 相変わらず球種も多彩だな。チェンジアップに関しては単体でも売りにできるレベル。

 そこに抜群の制球力と148キロの直球が加わるのだから、アマチュアレベルの選手ではヒットを見込めないだろう。


「ットライーク!! バッターアウト!!」

「(そこはストライクね。球は見れたしヨシとするかな)」


 続く渡辺は148キロのストレートで見逃し三振。

 外角低めの際どい球だったが、木更津のキャッチング技術に軍配が上がった。

 そして――。


「アウト!!」

「(っち、捉えたと思ったんだけどなー。これは上手く打たされたわ)」


 津上はツーシームを詰まらせて、平凡なセンターフライとなった。

 分かってはいたけど初回は手も足も出ない。この分だと、終盤まで得点が見込めない可能性すらあるな。


『本日は満員通知が出されております。誠に申し訳ございませんが……』


 攻守交替の間、そんなアナウンスが聞こえてきた。

 決勝といえど、高校野球で神宮が埋まるのは稀。それだけ、本日は好ゲームを期待されているに違いない。


 1回表は三者凡退で終わった西東京大会決勝戦。

 観客の期待を裏切らない為にも、俺も三者凡退で抑えて投手戦に持ち込む……!

富士谷0=0

都大三=0

【富】柏原―近藤

【都】堂前―木更津

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このスタメン表柏原じゃなくて堂上が投手になってます
[一言] ついに始まった!期待しておりまする!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ