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81.決勝前夜②堂上は何を思う

 2012年7月28日。午後21時。

 新宿区内の某公園では、堂上と木更津(留)が落ち合っていた。

 留美奈は左右共に握り拳を作って、手の中に何かを隠している。

 一方、堂上は顎に手を当てながら、彼女の両手を交互に眺めていた。


「ふむ……分かった。右だな」

「おー正解! 流石どのーえくんだね〜!」


 堂上は無表情で答えると、留美奈は右手を開いて差し出す。

 掌には10円玉が握られていて、堂上は「10円玉が入っている方」を見事に的中させた。


「ちなみにさ、何で分かったの?」

「右手の方が僅かに大きい気がした。もう一つ、右手を見ている時の方が、留美奈の鼓動が激しかった……ように聞こえた気がしたな」


 彼らが会っている理由は他でもない。

 読心術を伝授する為、昨秋から定期的に会っているのだ。

 本日はその最終日。1年足らずでどこまで会得したか、二人で確認している所だった。


「すごーい、さすが富士谷イチの地獄耳! もうマスターしたも当然だね!」

「その過剰なヨイショは不要だと言っているだろう。実際の所、木更津や留美奈と比べるとどうだ?」

「うーん、あたし達と比べちゃうと全然かな。こっちは小さい頃からやってるし、あと遺伝もあると思うから」

「ふむ……その程度か。あまり過信しない方が良さそうだな」

「そうだね〜。けど、ここまで出来るようになったどのーえくんはめちゃ凄いと思うよ!」


 彼らはそんな言葉を交わしていく。

 やはりというべきか、堂上は読心術をマスターするには至らなかったようだ。

 この技は木更津の冴えた五感があってこそ。一般人には到底マネできる事ではない。


「おっと……すまない。少し失礼する」


 ふと、堂上は携帯電話を取り出した。

 メールを確認すると、素早く文字を打って返信していく。


「ねねっ、誰とメールしてるの〜?」

「別に誰でも良いだろう。貴様には関係ない話だ」

「え〜、そう言われると余計に気になっちゃうなぁ〜」


 そんな言葉を交わしながら、留美奈は画面を覗こうとする……が、堂上は咄嗟に携帯を閉じた。


「うわー、隠すって事は絶対女子じゃん!」

「ただのチームメイトだ。敵軍の回し者に知られると困る内容でな」


 堂上は淡々と言葉を並べていく。

 ちなみに留美奈の予想は大当たり。メールの相手は卯月夏美であり、本文も他愛のない内容だった。


「またまた~。そんなに急ぐって事は特別な人なんじゃないの~?」

「待たせる時間が無駄になる。誰にだって返信は早い方が良いだろう」

「はいダウト~。普段は滅多に携帯出さないし、私への返信はめちゃ遅いじゃん?」

「ふむ……よく見ているな」


 堂上は無表情のまま顎に手を当てる。

 実際の所、蔵暮らしが発覚して以降、夏美からのメールや電話が増えたので、堂上も合わせるように返信ペースを上げている。

 元々、気軽に連絡をとり合う仲ではあったけど、最近は拍車が掛かっていた。


「じゃ、その子の為にも明日は頑張らないとね!」

「ベストを尽くすのは当然だ。あと誰かの為でもない。強いて言うなら仲間全員の為だ」

「おおー、意外と仲間想いなんだね~」

「ふむ……そう捉えるか。それともう一つ――」


 堂上はそこまで語ると、少しばかり険しい表情を見せる。

 そして――。


「個人的にも全国に行かなくてはいけない理由が出来た。こんな所で躓く訳にはいかん」


 そう言い切ると、瑠美奈はギョッとした表情を見せた。


「目の前に絶対王者がいるのに、もう全国見てるんだ。そんなに対戦したい選手が全国にいるの?」

「……少し喋り過ぎたな。もう帰るぞ」

「ええー!? 最後にこれだけ教えてよー!」

「そのうち分かる。それか調べれば見目は付く筈だ」

「絶対わからないって! あたし千葉と東京以外の高校野球まったく知らないし!」


 瑠美奈は詮索しようとする……が、堂上は無視して帰路に着いてしまった。

 既に全国を見据えている堂上剛士。果たして、その瞳には誰が映っているのか――。

 真相は堂上と夏美だけが知っている。

すいません、風邪引きました。

コロナじゃないので直ぐに復帰できると思いますが、今週は何時もより投稿ペースが遅れるかもしれません。

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