75.後は任せろ
「ットライーク! バッターアウト!!」
「わああああああああああああああああ!!」
11回裏、二死一二塁。続く湯元を見逃し三振に打ち取り、長かった準決勝にも遂に終止符が打たれた。
延長11回、約3時間にも及ぶ大熱戦。富士谷の選手はやり切った表情で、二高の選手達は悔しさを滲ませながら、ホームベースを挟んで整列していく。
「延長11回、3対2で富士谷高校の勝利とする。ゲーム!」
「ありがとうざいました!!」
主審から試合終了が告げられると、両校の選手達は深々と頭を下げた。
大したイニングは投げてないけど……どっと疲れた気がする。準々決勝ほどではないが、物凄く試合が長く感じた。
「ナイスゲーム!!」
「三高にも絶対勝てよー!」
選手達を労うように、スタンドからは割れんばかりの拍手が巻き起こっている。
富士谷の試合は死闘続きだ。全試合5回コールドの三高と比べると、ここまで積み上げてきた好感度とドラマ性が違う。
少なくとも応援ではアドバンテージを取れた。あとは俺達が大衆の期待に応えられるか……と言った所である。
「はよ片付けて撤収するぞ。急げ急げー」
「うい~」
「柏原も記者の質問は適当に流せよ。とにかく今日はすぐ帰れ」
「うっす」
畦上監督に急かされながら、選手達はベンチから撤収していく。
時刻は既に16時半。予定通りなら決勝戦は明後日の13時なので、俺達に残された時間は1日半くらいしかない。
尤も、正史通りなら1日だけ順延するけど、昼に上がった三高と比べると不利なのは確かだった。
その後、俺達は軽くミーティングをしてから、本日は早急に解散する事となった。
選手達は次々と神宮を後にしていく。そんな中、俺は三塁側のスタンド入り口まで足を運んだ。
「よぉ。珍しく凹んでんな」
俺がそう言葉を投げ掛けた先では、相沢が壁に凭れ掛かりながら、帽子を深く被っていた。
相沢との決着は一つの区切りだ。最後……にはならないと思うけど、一応挨拶だけしておこう。
「柏原くん……夏に負けて悔しがらない高校球児は居ないって」
「お前は普通じゃねーからな」
「手厳しいなぁ」
相沢は帽子を深く被ったまま言葉を返していく。
よほど悔しかったのだろうか。彼にしては珍しく、ずっと表情を隠している。
「周回してても悔しいもんなのか」
「そりゃね。確かに、俺は何度も"3年間の集大成"を経験してきたけど……今回は俺にとっても集大成だったから。何十年もの戦いが終わったと思うと……やっぱ悔しいよ」
そこまで言葉を交わすと、相沢は右手で顔を拭った。
たった3年間、人生で1度きりの高校野球。それを転生者はリトライできる訳だが……負けた時の悔しさは変わらない。
むしろ相沢の場合、積み上げてきた年月が長い分、喪失感も非常に大きいのだろう。
「……俺に勝ったんだから、三高には絶対勝ってよ」
「ああ、任せとけ。絶対に倒す」
俺達は最後に拳をぶつけあった。
相沢の目標は都大三高の春夏連覇を阻止する事。これが叶えば、彼も少しは報われる。
恵の為にも、相沢の為にも、そして――俺自身の為にも、都大三高にリベンジを果たす。
そう心に誓いながら、俺も夕暮れの神宮球場を後にした。
富士谷000 000 200 01=3
都大二000 000 002 00=2
【富】堂上、柏原―駒崎、近藤
【都】田島、相沢―岩田