73.西東京の夏は終わらない
富士谷000 000 200 0=2
都大二000 000 002 0=2
【富】堂上、柏原―駒崎、近藤
【都】田島、相沢―岩田
「わああああああああああああああああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺はバットを振り抜くと、スタンドから大歓声が沸き上がった。
電光掲示板には「145km/h」の文字。そして――高めを上から叩いた打球は、サードの頭上を越えてレフト線に飛んでいる。
「(頼む、切れてくれ……!)」
「(一本で帰る……!)」
「(んんっ!?)」
打球を追うレフトの戸谷、三塁を蹴る渡辺、少し屈む三塁審の西田さん。
果たして、打球の行方は――。
「フェア! フェア!」
「わあああああああああああああああああああああああ!!」
「勝ち越しだあああああああああああああああああああ!!」
ラインの内側に落ちると、スタンドからは今日一番の歓声が沸き上がった。
渡辺は既に三塁を蹴っている。ツーアウト、かつ打球がライン寄りという事もあり、渡辺は滑り込まずにホームを踏んだ。
「よし!」
「っしゃー!!」
「さす柏! さすイケ!」
渡辺はホームを踏むと、一塁側ベンチからも歓喜の声が沸き上がった。
一方、俺は二塁に滑り込む。際どいタイミングになったが、ギリギリ足が入りセーフとなった。
当り千金のタイムリーツーベースで遂に勝ち越し。
相沢登板から5イニング目、ようやく出た初ヒットで、ほんの一歩だけ前に出た。
「……ボールは良かったぞ。柏原が上手かった」
「そうだね、さすが柏原くんだよ。あのコースの145キロなら言い訳できないかな」
捕手の岩田が駆け寄ると、相沢は呆れ気味に苦笑いを溢す。
アンダーからの145キロ、それもボール気味の高めを打たれたのだから、敗北を認めざるを得ないのだろう。
尚も二死二塁、できれば追加点が欲しい場面。
相沢の敬遠する際、逆転ないし同点の走者にしない為にも、3点以上のリードで気持ちよく守りたい所だ。
しかし――。
「ボール、フォア!!」
「……アウト!!」
堂上はフォアボール、鈴木はセカンドゴロでスリーアウト。
僅か1点、けど大きな1点を背負い、11回裏のマウンドに上がる事になった。
※
11回裏、都大二高の攻撃は、途中交代の海野からだった。
応援曲は海のトリトン。高校野球ではよく聞く曲だけど、実のところ原作は存じ上げない。
先ずは先頭打者を抑えられるか、両チームにとって重要な打席だった。
何せ三者凡退なら相沢には回らない。俺にとって、これほど理想的な展開はないだろう。
出して送ってのテンプレを避ける為にも、海野は絶対に切りたい打者だった。
「ットライーク!」
「ファール!!」
一球目、フロントドアの高速スライダーは見逃してストライク。
二球目、外角低めのストレートはバットに当ててファール。
たった2球で追い込んだ。あとは釣り球を振らせるか、或はスプリットで決めるだけだが――。
「おおおおおおおおお!!」
「(手が出たけど……いい所に飛んだぞ!)」
海野は釣り球に手を出すと、ふらっと上がった打球はライト線に飛んでいった。
落ちるか落ちないか際どい当たり。鈴木、渡辺、堂上は一斉に打球を追っていく。
これは――と思った時には、白球は無情にも間に落ちていった。
「わあああああああああああああ!!」
「まだ縺れるぞ!!」
ライトへのポテンヒットで無死一塁。
完全に打ち取った当たりだったが……野球の神様が「相沢と戦え」と言っているのだろうか。
続く折坂は送って一死二塁。一打同点となり大浦の打席を迎える。
相沢ほどではないが彼も厄介な強打者。全くと言っていいほど油断できない。
「(理想は同点打、最低でも一塁は埋める。追い込まれるまではストレート狙いでいくぜ)」
大浦は左打席でバットを構える。
ヒット一本で同点、そして逆転サヨナラの走者となってしまう場面。
最悪、進塁打までは構わない。初球から出し惜しみせず、この選手には速攻で退場して頂こう。
一球目、俺は初球から外角のスプリットを放っていく。
カウントも取れる枠内の球。大浦は思わず手を出すも――。
「(くそ、スプリットかよ……!)」
芯で合わせただけの打球は、サードの真正面に飛んでいった。
彼は高速域に強いが故に、高速変化には思わずバットが出てしまう。
二塁走者の海野も動けない。あとは戸田が処理するだけだが――。
「あっ……!」
「わあああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああ!!!!」
その瞬間――戸田のグラブは白球を弾くと、悲鳴と歓声が巻き起こった。
富士谷000 000 200 01=3
都大二000 000 002 0=2
【富】堂上、柏原―駒崎、近藤
【都】田島、相沢―岩田