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65.周回者の覚悟と決意

富士谷000 000 200=2

都大二000 000 00=0

【富】堂上―駒崎

【都】田島、相沢―岩田

 9回裏、一死一塁という場面で、U-15日本代表の大浦の打席を迎えた。

 正史では前橋英徳で活躍する選手。群馬の至宝とまで呼ばれた男が、杉並区の選手として左打席でバットを構える。


「(絶対に相沢さんに繋げる。そんでもって三高も俺達が倒す。じゃないと東京に……それも二高に来た意味がねぇ)」


 大浦はストレートが得意な選手。正史でも宇治原を攻略している。

 二打席目ではストレートを弾き返したし、変化球主体の攻めが求められるだろう。


 堂上の持ち球はナックルカーブ、シュート、スプリット、チェンジアップ。

 高速域の球に強いと考えたら、唯一の緩急であるチェンジアップを軸にしたい。

 後は中速のナックルカーブを有効に使えるか、勝負の分かれ目はココである。


 一球目、堂上が放った球は――バックドアのナックルカーブ。

 大浦はバットを出すと、鋭い打球はレフトのファールゾーンに飛んでいった。 


「ファール!」


 当然ながら判定はファール。

 三打席目も変化球攻めをしているので、ある程度は変化球が読まれている。

 ボールのストレートも使いたいな。問題は駒崎に要求する勇気があるかだが。


「(シュートはどうっすかね。カウント有利なんでボールでいいっすよ)」


 二球目の要求はボールに逃げていくシュート。

 完全なストレートではなく、保険を掛けた逃げ腰の一球だ。

 それでも振ってくれたら儲け物。しかし――。


「ボール!」


 構えた所よりも外に逸れると、大浦は悠々と見逃した。

 もう少し際どい所に投げれば面白かったが……この辺は堂上なので仕方がない。

 というか高校生の制球はこんなもの。改めて、堂前(三高)の異常さを痛感する。


「ボール!」

「ファール」

「ボール!」

「ファール!」

「ファール」

「ファール」

「ファール」


 その後も、堂上は次々と変化球を投じて、大浦は際どい球をカットしていった。

 外れるのが先か、根負けするのが先かといった展開。外野から見ている身としては非常にハラハラする。

 そして迎えた10球目、堂上は得意球のチェンジアップを放ると――。


「ファール!!」

「おおおお~!」

「よく当てた!」


 これも大浦はカットして、フルカウントのまま11球目に突入した。

 折坂に続いて10球超。球に目が慣れているのもあるが、二高の選手達の意地が勝っている感じがする。


 尚、堂上はトータルでも120球を超えている。

 それでも疲れている素振りはない。彼のスタミナも中々のものである。

 後は投げ分けで躱せるか、という部分だが……果たしてどうなるか。


「(ここまで変化を見せた後なら振り遅れるでしょう。腹括ってストレートで行きますよ)」


 11球目、駒崎は内角のストレートを要求した。

 チェンジアップの後なら速く見せれるという判断。ここまで全て変化球なので、後は対応が遅れる事を願うばかりである。


「(ふむ……承知した。狙われているとは思うが、駒崎にも何か考えがあるのだろう)」

「(わざわざプロも甲子園も遠回りになる(二高)を選んだんだ。意味を見出す為にも絶対に打つ……!)」

「(頼むよ大浦。出たら絶対に返すから)」


 セットポジションに入る堂上、バットを握り締める大浦、そしてネクストで祈るように見守る相沢。

 やがて堂上は左足を上げると、躍動感のあるフォームから右腕を振り下ろしていった。


「(……ストレート!!)」


 渾身のストレートは構えた所、大浦の懐に吸い込まれていく。

 その瞬間――大浦はバットを振り切ると、球場全体に激しい音が鳴り響いた。


 バットを振り切ったまま固まる大浦、ミットを突き出して閉じている駒崎。

 果たして、白球の行方は――。


「ットライーク、バッターアウト!!」

「わあああああああああああ!!」

「9回で151キロ! すげえええええええええええええ!!」


 151キロ、自己最速タイのストレートはミットに収まり空振り三振。

 堂上は相変わらず無表情だったが、大浦はガックリと項垂れ、駒崎は渾身のガッツポーズを見せた。


「……すいません」

「いいよいいよ、後は俺が何とかするから。ナイススイング」


 顔を上げられない大浦に、相沢は肩を叩いて言葉を掛ける。

 やがて大浦がベンチに退くと、相沢は眩しそうにバックスクリーンを見上げた。


「(この景色も何回見たか分からないなぁ。けど、負けたら今日が最後……何だか寂しいね)」


 何十周も転生した男は、少しだけ感傷に浸っている。

 彼にとっては何度も訪れた高校3年の夏。ただ、今回は最後の周回であり、夏に懸ける思いは他の球児と変わらない。

 これが最後になるかもしれないので、流石に思う部分があるのだろう。


「(ふぅ……。やっぱ負けられないね。俺は明後日の為に何回も死んで、何十回もの人生を捧げてきた。柏原くんや恵ちゃんには悪いけど、三高にトドメを刺す役目は譲れないよ)」


 相沢は深呼吸してから、覚悟を決めて左打席に入る。

 そして――一瞬だけ俺と視線を交わすと、真剣な表情でバットを構えた。


「(今日まで本当に長かった。誰よりも長い高校生活を過ごしてきた。だからこそ――ここで夏を終わらせない……!)」

富士谷000 000 200=2

都大二000 000 00=0

【富】堂上―駒崎

【都】田島、相沢―岩田

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― 新着の感想 ―
[一言] すみません。忘れてしまったのですが、相沢は何故今回が最後の周回なのですか?
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