63.そして最終回へ……
富士谷000 000 2=2
都大二000 000 =0
【富】堂上―駒崎
【都】田島、相沢―岩田
7回裏、2点の援護を貰った堂上は、快調なピッチングを披露していた。
先頭の折坂はストレートで空振り三振。続く大浦も見逃し三振に打ち取り、未だ球威に衰えは見えない。
相沢は渡辺のエラーで出塁を許すも、5番の湯元はセンターフライと、危なげないピッチングを披露した。
一方、乗ってきた相沢も堂上に負けじと好投中。
野本を空振り三振、渡辺を見逃し三振、そして津上をショートフライで打ち取り、8回表を三者凡退で終わらせる。
その間、ストレートは143キロを記録し、自己最速記録を更に2キロ更新した。
最速151キロのプロ注目右腕と、突如現れた最速143キロの下投げ右腕。
二人の好投手が隙を与えず、次々とアウトを奪って攻撃を終わらせていく。
試合はあっと言う間に8回裏へ。ただ、ここで意地を見せたのは、都大二高の正捕手・岩田だった。
「わあああああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
「ナイバッチ!!」
8回裏、先頭打者の岩田は、追い込まれてからのチェンジアップを綺麗に捉えた。
引っ張った当たりは左中間を真っ二つ。岩田は迷わず一塁を蹴ると、二塁を悠々とオーバーランした。
これで無死二塁。
進塁打のみで失点するピンチだが、2点差なので走者を返しても致命傷にはならない。
一つずつ、確実にアウトを取る事が求められる場面だ。
「(最低でも進塁打。一二塁間を抜くイメージで打とう)」
このピンチで迎える打者は先発投手の田島。
彼は俊足強打で身体能力が高い。流せば内野安打が狙えるし、引っ張れば長打や進塁打を狙える。
非常に厄介な打者だが――ここでも、本日絶好調の堂上が立ちはだかった。
「ットライーク」
「ファール!」
一球目、外角低めのストレートはストライク。
二球目も同じ球。これは何とか当てられてファールになった。
そして――。
「ットライーク、バッターアウト!」
「(くそっ! そこは打てない!)」
三球目、内角150キロのストレートは、バットを出すもファウルチップになった。
駒崎が掴んで空振り三振。チェンジアップの意識もあるが故に、内角のストレートは振り遅れてしまうのだろう。
「ああー……送ってれば……」
「もったいねー」
続く打者の室井は大きなレフトフライ。
彼は軟式の至宝とも呼ばれた逸材だが、ここもプロ注目右腕の堂上に軍配が上がった。
鈍足の岩田は二塁から動けず。三塁からなら帰れたと思うので、田島を三振で抑えたのは非常に大きいと言える。
二死二塁となり迎える打者は188cm84kgの戸谷。
とても9番とは思えない体格をしているが、9番に置かれるだけの理由はある。
堂上は内角をグイグイ攻めると、腕の長い戸谷は、窮屈そうにカットするのが精一杯だった。
そして――。
「ットライーク! バッターアウト!」
最後はチェンジアップを振らせて空振り三振。
未だ堂上の球威に衰えはない。この分なら、最終回も任せて問題なさそうだ。
攻守が入れ替わって9回表、富士谷の攻撃は4番の俺からだった。
聞き慣れた「さくらんぼ」の音色が響く中、右打席でバットを構える。
「(三高に挑戦するなら俺くらい打って欲しいかな。逆に打てないようなら譲れないよ)」
マウンドには本格アンダーの相沢。
ここまで無安打と、連続四死球の後は好投を続けている。
いきなり打てるとは思えない。初球は球筋を見てみよう。
一球目、相沢はアンダースローから球を繰り出していく。
放たれた球は――体に向かってくる遅い球。白球は弧を描いて真ん中に吸い込まれていった。
「ットライーク!」
「(よし、狙い通り。やっぱ柏原は初球待つよな)」
「(岩田は慎重だなぁ。柏原くんに次回るの下手したら12回なのに)」
フロントドアのカーブが決まってストライク。
ストレートの軌道を見たかったが……見事に逆を突いてきたな。
こうなってくると、追い込まれる前に振りたくなる。
しかし――。
「ットライーク、ツー!」
二球目、高めのストレートに手を出すも、掠りもせずに空振りしてしまった。
球速表示は142キロ。駒川大高の多崎と比べても、二回りくらい速さと伸びを感じる。
思ってたより高く速い。次はそのイメージで振ってみよう。
「(いいリズムで9回裏に行きたいしね、三球で決めるよ)」
三球目、相沢はアンダースローから球を繰り出していく。
放たれた球は――再び高めのストレート。俺はバットを振り抜くも、白球はすり抜けるようにバットの上を通っていった。
「ットライーク、バッターアウト!!」
結果は無様にも空振り三振。
くそ、もっと伸びてくるイメージだったな。
もう打席は回らないと思うが、せっかくなので相沢も攻略したかった。
「……アウト!」
「ないすショート!」
「さー逆転しよーぜい!」
結局、堂上は空振り三振、鈴木はショートフライで打ち取られ、9回表も三者凡退で終了。
富士谷は2点リードのまま、最後の守備を迎える事となった。
9回裏は1番から。
途中交代で入った海野、本来なら4番でエースの折坂、U-15日本代表の大浦という並びだ。
一人でも出れば4番の相沢に回る。もし2人も出たら、一発で逆転される可能性もあるだろう。
万が一、逆転されたら夏が終わる9回裏。
ずっと後攻だった富士谷にとって、初めての窮地を迎えようとしていた。
富士谷000 000 200=2
都大二000 000 00=0
【富】堂上―駒崎
【都】田島、相沢―岩田