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62.本格アンダーの真価

富士谷000 000 2=2

都大二000 000 =0

【富】堂上―駒崎

【都】田島、相沢―岩田



 炎天下に包まれた明治神宮野球では、満席に近い内野スタンドの声援が、相沢のピッチングを後押ししていた。

 7回表、2点を先制して尚も一死満塁という場面。打者は小技の上手い中橋であり、スクイズや粘った末の四球も期待できる。

 ただ、サードランナーは投手の堂上。もう一つ、相沢の制球も荒れているので、スクイズを仕掛けるのは怖い状況でもあった。


「(……待てのサインか。取り敢えず揺さぶってみます)」


 中橋はサインを確認すると、左打席でバットを構える。

 畦上監督のサインは待て。連続四死球の後なので、取り敢えず様子を見るのだろう。


「(140出たし満足か? これ以上は点やれねーぞ)」

「(スクイズできても外さなくていいよね。下からの140キロはそう簡単に転がせないだろうし)」 


 一球目、相沢はセットポジションから投球モーションに入る。

 その瞬間――中橋はバットを寝かせたが、相沢は気にせず球を繰り出していった。


「ットライーク!」


 139キロのストレートが決まってストライク。

 バントの構えにも全く動じない。中橋でも転がせないと読んでいるのだろうか。


「(……自由に打っていいんですね。了解です)」


 二球目、畦上監督からのサインは強攻。

 中橋はバットを構えると、相沢は内角高めに速球を放っていった。


「ットライーク、ツー!」

「(うわっ、手が出ない。けど左打者の俺がなんとかしないと……!)」


 これは見逃してストライク。あっという間に追い込まれてしまった。

 相沢は完全に肩が出来たな。こうなってくると押し出しは期待できない。

 後は中橋を信じるか、あるいは――断腸の思いでスクイズのカードを切るかである。


「(このカウントでは流石に出せねぇ。中橋、信じるぞ)」

「(……前に飛ばそう。二高に守備いいイメージないし、ゴロか外野フライなら何か起きる筈)」


 畦上監督からは再び強硬の指示。後は中橋が何とかするしかない。

 内野ゴロだとゲッツーが怖いので、外野フライかヒット性の当たりが欲しい所だ。


「(ボールでいい。けん制の意味でも変化でいくぞ)」

「(ストレートで押してもいいと思うけど……岩田は慎重だなぁ)」


 三球目、相沢はサブマリン投法から球を繰り出した。

 白球は真ん中に吸い込まれていくと、中橋はシャープなスイングでバットを出しに行く。

 しかし――。


「(これは……シンカー!)」


 その瞬間、白球は逃げるように沈んでいった。

 放たれた球は左打者から逃げるシンカー。中橋は咄嗟に合わせると、打球は三塁線に転がっていく。


「ファール!!」

「(あぶねぇ……流す意識があったからギリギリで対応できた)」


 判定は余裕のファール。何とかカットして首の皮が繋がった。

 ただ、こうなってくると圧倒的に投手が優位。逃げるシンカーの残像が残る中、アンダーからの速球に対応しなくてはならない。


「(スクイズのサインは……やっぱりなし。くそー、打つしかないか)」

「(ストレートで。とにかく真ん中以外に投げろよ)」

「(柏原くんならインにズバッと決めるんだろうけど……そこまでの投げ分けできないなぁ)」


 バットを構える中橋、テキパキとサインを出す岩田、相変わらず笑みを浮かべている相沢。

 やがて相沢はセットポジションに入ると、アンダースローから球を繰り出していった。


「(これは入る、打たないと……!)」


 速い球は内角高め、打者の胸元辺りに吸い込まれていく。

 中橋は強引にバットを振るも、詰まった打球は内野ファールフライになってしまった。


「……アウト!!」


 キャッチャーの岩田が捕ってツーアウト。

 あのインハイは凶悪だな。いくら右アンダーの出所が見易い左打者でも、浮き上がってくる140キロは窮屈に感じるだろう。


「代打中道です」 


 これで二死満塁、迎える打者は京田……だったが、予めネクストに入っていた中道が打席に向かった。

 控え選手では一番勝負強い打者。ただ、守備に関してはファースト専なので、この後は守備固めも必要になる。

 

 それだけ……このチャンスは大事だというのが俺の結論だ。

 2人消費してでも絶対に点が欲しい。だからこそ、畦上監督に進言するに至った。


「(明八戦はサードに入れる戸田だったからなー。代打でしか出番ない分、ここで魅せるぜ)」


 狙い打ちの音色が響く中、中道は右打席でバットを構える。

 岩田の捕球能力だと後逸は期待できない。得点するなら打つか選ぶか、その二つだけだ。


「(同じ組み立てでいいだろ。とにかく当てるなよ)」

「(ストレートね。気持ち外意識するよ)」


 一球目、相沢は一つ目のサインに頷くと、やがてセットから球を繰り出してきた。

 放たれた球は――外角高めのストレート。白球はリリースより高い位置に吸い込まれていく。

 そして次の瞬間――。


「(バットを振れるのは3回だけ。初球から積極的にいくぜ!)」


 中道はバットを振り抜くと、打球を捕えた音が響き渡った。


「わああああああああああああああああああ!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「え、まじ!?!?」


 大歓声に包まれながら、打球はセンター方向、やや右寄りに飛んでいった。

 まさかの初球打ちにベンチの選手達も困惑気味。慌てて柵に乗り出して、打球の行方を見守っている。


「(これ以上は1点もやれない。自分の失点は自分でカバーしないと……!)」


 一方、センターの田島は回り込まず、最短で打球に突っ込んでいた。

 抜ければ走者一掃で3点という状況。にも関わらず――田島はギャンブルに出ようとしている。

 追い付くか、前に落ちるか、それとも抜けるか。白球は際どい所に落ちようとしていた。


「おおおおおおおおおお!?」

「捕ったか!?!?」


 グラブを出して滑り込む田島、沸き上がる大歓声、その様子を見守る選手達。

 果たして、打球の行方は――。

 

「アウト、アウト!!」

「わああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ナイスプレー!!」


 白球は田島のグラブに収まりスリーアウトとなった。

 富士谷としては痛恨のファインプレー。抜ければ勝ち確だったが、これは相手を褒めるしかない。


「(危なかった……今のは田島に助けられちゃったね)」


 相沢も声こそ出さなかったが、小さくガッツポーズを掲げている。

 一死満塁のチャンスで押し出しの1点止まり。二高としては、大ピンチを最少失点で切り抜けた訳だ。


 残る守備は後3回。この2点を守り切れるかどうか。

 全ては空前絶後の負けず嫌い、堂上剛士のピッチングに懸っている。


富士谷000 000 2=2

都大二000 000 =0

【富】堂上―駒崎

【都】田島、相沢―岩田

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