55.ライトの名手
富士谷000 0=0
都大二000 =0
【富】堂上―駒崎
【都】田島―岩田
準決勝の第二試合は、お互いに出塁を許さない投手戦が展開された。
最速148キロ左腕の田島と、最速151キロ右腕の堂上。両投手が一歩も譲らないピッチングを披露している。
そんな中、初めて一塁を踏んだのは、都大二高の折坂だった。
「ボール、フォア!!」
「(よしよし。宇治原対策しただけあって、堂上のストレートはカットできるな)」
4回裏、折坂は計11球を粘った末に四球を選んだ。
彼は正史通りなら4番でエースの選手。今回は補強の玉突きで2番ライトになったが、4番級の打撃センスは健在と言える。
この選手を2番に置ける辺りが羨ましい。尤も、補強っぷりで言えば富士谷も大概だが。
「(俺にバントは……やっぱ無いよな。クズ男の方に飛ばさんようにしとこ)」
一死一塁となり、続く打者はU-15日本代表の大浦。
キューティーハニーの音色が流れる中、二高らしからぬ逸材が左打席に入った。
彼は正史では前橋英徳に入学する選手。
その際、春季関東大会で宇治原からスリーランを放ち、夏の甲子園で再戦した時もマルチ安打を放っている。
前者では投打が嚙み合って見事に大金星。甲子園でこそ盛大にボコられたが、正史の最強世代に土を付けた数少ない選手だった。
つまるところ、大浦はそれくらい高速域の球には強いのだ。
もう一つ、カウントが有利でも枠内は積極的に振ってくる。
できれば緩い変化球を多めに使いたい。ただ、相沢から逆を突く指示があるかもしれないが……。
「(ストレートと速い変化に強いんでしたっけ。速い球はボールにして、枠内のチェンジで勝負したいっすね)」
「(ふむ……リードはよく分からん。任せるぞ)」
一球目、堂上は一つ目のサインに頷いた。
セットポジションから腕を振り下ろしていく。白球は真ん中に投じられると、中速の球は弧を描いてワンバウンドした。
「ボール!」
ナックルカーブは見送られてボール。
駒崎は前で止めると、素早く拾って一塁ランナーを睨んだ。
「ボール、ツー!」
二球目、ストレートは僅かに外れてボール。
これもボール前提の球だ。恐らく次はチェンジアップで入れに行く。
後は堂上が入れられるか、という部分だが――。
「ボール、スリー!」
大浦はバットを止めると、チェンジアップは低めに外れてしまった。
駒崎はスイング判定を求めるも覆らず。これでノースリー、圧倒的に打者有利なカウントになった。
こうなってくると、次は自信のあるストレートでカウントを取りに行くしかない。
ただ、大浦はノースリーからでも振ってくる打者。甘く入って一発浴びるよりは、四球覚悟で変化球でも良いかもしれない。
しかし――。
「(ストレートでいきましょう。真ん中に入らなきゃ簡単には打てませんって)」
駒崎は外角低めにストレートを要求した。
セオリー通りだけど作戦としては頂けない。
俺は最悪の事態に備えて、少しだけ後ろに下がった。
「(打てそうなら打つぜ。右中間に引っ張りたいな)」
大浦はテイクバックを取ると、堂上はセットポジションから腕を振り下ろす。
放たれた球は――外角低めのストレート。大浦は踏み込んで振り抜くと、捉えた打球は右中間に飛んできた。
「わああああああああああああああああ!!」
「(っち。外を強引に引っ張ったぶん伸びがねぇ……!)」
右中間の前に落ちそうな当たり。
やがて打球はワンバウンドすると、俺は野本を制して白球を捕えた。
「みっつ!!」
「(柏原強肩だけど、これは流石にいけるだろ……!)」
一塁走者の折坂は二塁も蹴っている。
外野が少し下がっていたからか、彼は足を止めずに三塁に突っ込んでいった。
折坂は足も速い選手。そしてライトの俺も少し下がっていた。
普通なら悠々と一三塁になる当たり。ただ、最速152キロの地肩がある俺なら――。
「(……刺せる!)」
俺は取った勢いそのままに投げると、矢のような送球はサードに突き刺さっていった。
その瞬間、客席から騒めく声が沸き上がる。渾身のレーザービームを前に、球場はより一層と盛り上がりを見せていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「スライ!!」
「(え……そんなギリギリなん!?)」
白球はダイレクトで京田の腰の高さへ。
彼は流れるような動きでタッチすると、折坂は同時に足から滑り込んだ。
果たして、三塁審の判定は――。
「アウト!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「すげー送球!!」
レーザービームが決まって三塁はタッチアウト。
大きなファインプレーに、スタンドからは再び大歓声が沸き上がった。
「二つ!」
「セーフ!!」
その間に大浦は二塁を落としていた。
ソツの無い走塁は流石というべきか。本当によく鍛えられている。
これで二死二塁。一打勝ち越しのピンチで迎える打者は――。
「4番 サード 相沢くん。背番号 5」
周回おじさんこと相沢が、左打席でバットを構えた。
富士谷000 0=0
都大二000 =0
【富】堂上―駒崎
【都】田島―岩田