45.前夜
準決勝の前夜、俺は相沢と通話していた。
『ようやく公式戦でやりあえるね』
「よく言うわ。そっちが順当に勝ってりゃ何回かは当たれたからな??」
『あはは、確かに』
俺が指摘すると、電話越しにヘラヘラした笑い声が漏れてくる。
二高との公式戦は2年振り。その間、何度かチャンスはあったが、何れも二高が先に負けてチャンスを逃した。
「正直なところどうよ。目論見としては、別々のヤマに入って三高に総攻撃を仕掛ける予定だったんだろ」
『それね~。けど負けても柏原くん達がいるし、柏原くん達に勝てば自信になると思えば、それはそれでいいかなって』
「ポジティブだな。ま、お陰様でこっちは良い経験ができたけど」
俺と相沢はそんな言葉を交わしていく。
元々、都大二高との協定は「打倒・都大三高」という共通目標の元、当て馬の育成を兼ねて切磋琢磨する内容だった。
それが結局、お互いに敵に塩を売る形になるなんて。つくづく運が無いと実感する。
『柏原くん的には?』
「正直に申し上げると当たりたくなかったし、当たるにしても序盤が良かったな」
『中1日で決勝だもんね~。談合してお互いエース禁止とかも考えたよ』
「俺は別に構わないぜ?? てか、その口ぶりだと明日は田島なんだな」
『うん。こっちは温存する余裕もないしね』
どうやら明日の先発は田島のようだ。
すんなり認めた辺り怪しいな。もしかしたら、奇襲を仕掛けてくるかもしれない。
「本当か? 信じるぞ?」
『柏原くん……。あとは試合を迎えるだけなんだし、今さら嘘ついても仕方ないじゃない』
「まぁ確かにな。けどホラ、お前には前科があるから」
『信用ないなぁ。初めての合同練習の時も言ったでしょ。俺は絶対に嘘は吐かないって』
そういえば、そんな事も言ってたっけか。
懐かしいな。彼との協定も長かったので、思い返せば色んな事があった……ような気がする。
中盤は総括おじさんと化していたので、すっかり敵としての印象は薄れてしまったが。
『逆にその感じだと、富士谷の先発は堂上くん?』
「どうだろうな。それを決めるのは畦上さんだから」
『またまたぁ。さっきの言い方だと、もう主導権は移ってるんでしょ? 瀬川さんと違って隠す必要ないし』
「っち、そこまでお見通しかよ。明日は堂上だよ、その為に練習試合でも隠してきたからな」
少し出し惜しんでみたが、あっさりと見抜かれてしまった。
まぁ今さら隠しても仕方ない。お互いに先発は予告したし、後は本人達の調子次第である。
その後も、俺と相沢は2年半を振り返りながら、浅い思い出に浸っていった。
最初は何となく「人生やり直したい」程度に考えていた転生ライフ。
その中で、転生に関する情報や使命を与えてくれたのは紛れもなく相沢だった。
彼と出会わなければ今の俺はいないし、恵を救える手立ても無かったかもしれない。
そう思うと、少しだけ感謝は無くもない……かもしれないな。
『時間も時間だし、そろそろ寝るよ』
「んだな。じゃ、また明日」
『またね。明日は事実上の決勝戦と言われるような、最高のゲームをしよう』
「ああ」
俺達は最後にそんな言葉を交わした。
あとは試合を迎えるだけ。泣いても笑っても、三高への挑戦権を得るのは勝者のみだ。
相沢にも周回した数だけ背負う想いがあると思う。それでも、明日は絶対に俺達が勝つ……!