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44.エースで4番で主将で監督

「えっと……ちょっと3人でお話いいですか?」

 

 扉の鍵を閉めると、2人に密談を持ちかけた。

 どうしても頼みたい事がある。これは勝敗にも関わる為、俺は真剣な表情で2人に訴えかけていた。


「聞こうじゃないか」

「怪我したとかは勘弁してくれよな!」


 腕を組む与田先生、少し茶化してくる畦上監督。

 2人が聞く姿勢に入った所で、俺はストレートに用件を伝える事にした。

 

「単刀直入に言います。次戦以降、自分に采配を振るわせてください」 

 

 用件とは他でもない。

 俺が未来を知る人間だと打ち明けて、采配の主導権を握る為である。

 今後の相手が常識で測れない以上、リスクを負ってでも頼む必要があった。


 決して、2人の采配が特別に悪いとは思わない。

 ただ未来を知る人間との差は明白だ。特に、都大二高は相沢が実権を握っているので、2人に任せると大きく後れを取ってしまう。

 目上の人間に失礼なのは承知の上だし、俺の負荷が増えるのも分かっている。けど、勝つにはこうするしかなかった。


「柏原……それは無理な頼みだな。確かに、お前は誰よりも野球が上手いから自信あるだろうし、実際に任せて上手く行った事もあったが……采配は指導者の仕事だ。それに経験だってモノを言う。俺自身、瀬川監督の凄さを日々実感してるくらいだからな」


 畦上監督は諭すように否定してきた。

 勿論、ここまでは想定内。むしろ「はい、どうぞ」と言ってくるようなら指導者失格だ。

 説得していこう。幸い、畦上監督には布石も打ってある。


「違うんです。信じて貰えないと思うんですけど、実は俺……未来から来てるんですよ。だから先の事がある程度分かるし、采配も優位に進められると思うんです」


 俺はそう言うと、2人はポカーンとした表情を浮かべてきた。

 うん、これも想定内。これで信じるようなら変な宗教に引っ掛かるに違いない。

 一歩ずつ、詰将棋のように攻めていく。


「柏原……41四死球のショックでおかしくなったか?」

「いや聞いてください。畦上先生なら心当たりあると思うんですけど」

「なに?」

「昔、宝くじ当てたら金預かってくださいって言ったことあったじゃないですか」

「ああ、あったな」

「で、本当に当てて預けたじゃないですか」

「そうだったな」

「あれは未来が分かるから出来た事なんですよ」


 そこまで語ると、畦上監督は少し疑惑的な表情を浮かべてきた。

 布石とは他でもない。2年前の秋、畦上監督に予告してから宝くじを当てた事である。

 まさか伏線になるとは思わなかった。あの時、瞳さんに預けなかった自分に感謝だな。


「実は明八との試合でゾーンが激狭になるのも分かってました。まぁ、これは後出しジャンケンになるので信用できないと思いますけど」

「あ、ああ! だいたい宝くじも偶然だろ!? いくら何でも、そんな映画みたいな設定あるわけ……」


 畦上監督は半信半疑になっているのか、少し動揺しているように見える。

 与田先生は相変わらず困惑気味だが……チャンスは今しかないな。一気に畳みかけよう。


「だから今から証明しますよ」

「証明……?」

「です。で、方法ですけど……今日行われる地方大会の中で、指定された試合の結果を当てます。東東京以外ですけど。もし百発百中なら俺を信じて欲しいっす」


 俺は得意気に言い放つと、2人は顔を見合わせた。

 証明には未来予知が手っ取り早い。野球人らしく野球の結果で証明しよう。


「東東京以外……?」

「東京は東西共に歴史が変わってて結果が読めないんですよ。なので東東京以外っすね」

「胡散臭いな……。東東京は4強の実力が拮抗してるから、外すのが怖いだけなんじゃないか?」


 畦上監督は再び疑惑の視線を向けてくる。

 無理もない。この時期になると、殆どの地域は準決勝以降になっていて、中にはド本命の名門vs満身創痍のダークホースみたいなカードも多い。

 その中で、四隅のシードが順当に勝ち上がった東東京を省くという行為は、疑われても仕方がない「逃げ」だった。


「じゃ、青森の決勝あてますよ。これで絶対に信じてくれると思います」

「青森ぃ? 亘星学院と二沢商って……こんなん100パー亘星が勝つじゃねーか」


 俺は青森の決勝を持ち出すと、畦上監督は鼻で笑ってきた。

 亘星学院はプロ注目選手を擁する選抜ベスト8の名門校。

 一方、二沢商はノーシードどころかノーマークであり、注目選手すら不在の無名校だった。


 地力の差は語るまでもなく明白。

 まさに100人が居たら100人が亘星学院が勝つと予想する試合である。

 しかし――。


「いいえ、この試合は二沢が勝ちます。最終スコアは3対2。最後は一死一三塁からのライナーゲッツーっす」 


 俺はドヤ顔で言い放つと、畦上監督は目を丸めた。

 転生者の俺は知っている。この試合、亘星学院は攻守で空回りして、二沢商が奇跡的に勝利すると。


「……おいおい、本気で言ってるのか?」

「最初から大真面目っすよ……。他にも指定あれば当てます。まあ東東京以外全部でもいいっすけど」

「じゃ、午後からの試合全部な。当てたら信じるわ(流石に無理だろ……)」


 そんな感じで、俺は午後から始まる全ての試合(東東京以外)を予想する事になった。

 幸い、選抜や選手権で接触した高校は全て午前開始。万が一のバタフライエフェクトを心配する必要もない。

 もう一つ、実は「とある理由」で愛知県の結果が変わっているのだが、此方も該当する高校の試合は午前中だった。


 やがて練習に合流すると、俺達は軽めに汗を流して切り上げた。

 前日の疲労もあるので調整程度。色々と考え方はあるけど、個人的には試合前日に追い込むべきではないと思っている。

 そして練習が終わり、再び指導者2人と合流すると――。


「う、嘘だろ……」

「信じられん……」


 予想を全て的中させた俺を前に、2人は口をパクパクさせていた。

 そりゃ無気味だし怖いよな。自分から結論に辿り着いた夏美が可笑しいまである。


「……で、なんで恵まで居るんだ?」

「コイツも未来知ってるんですよ。事情を説明するにあたって食い違いがないようにと」

「そ~なんですよ~。あ、これ絶対お父さんに言わないでね~」


 一応、恵も連れてきた。

 教師2人に関しては何も隠す必要ないし、喋りは彼女の方が上手いので解説役としても便利だ。

 もう一つ「勝たなきゃ恵が死ぬ」という危機感は、共有しておいて損はない。


 という事で、俺達は転生者である事、それに関する事情、他言は厳禁である旨を2人に伝えた。

 畦上監督は半信半疑といった様子。与田先生も同様で、釈然としない表情を浮かべている。

 無理もない。いくら試合結果を当てたからといって、こんな非現実的な存在は信じられないだろう。


「……よし、わかった」


 そんな中、畦上監督は覚悟を決めたかのように言葉を発した。

 ようやく信じる気になったのだろうか。その瞳には迷いがないように見える。


「信じてくれます?」

「ああ、一旦は信じよう。ただ、2つだけ条件がある」


 畦上監督は承諾すると、人差し指と中指を立てて突き付けてきた。

 流石、焼肉おじさんとでも言うべきか。宝くじの時と同様に呑み込みが早いな。

 とりあえず此方の要件は通った。向こうの条件も聞いていこう。


「分かりました。で、条件って何ですか?」

「采配はあくまで3人で考えよう。スタメンや方針は事前に打ち合わせて、試合中の采配も最終判断は俺がする。それでいいなら口出ししてもいい」

「了解です、十分です」


 一つ目の条件に、俺は淡々と頷いていく。

 やはり全ては任せてくれないな。介入できるだけでも十分だと思うべきか。

 

 さて、条件はもう一つ。

 果たして、転生者の存在を信じた彼は、どのような条件を突き付けてくるのだろうか――。


「……教えてくれ」

「え?」

「これから上がる株とか教えてくれ……。大会が終わったらでいい……!」

 

 その瞬間、俺は思わず顔を歪めてしまった。

 本当に人間としては終わってんな。というかアンタ、投資に回せる貯金ないだろ。

 と、喉まで出掛かった言葉は、言ったら機嫌を損ねそうなので何とか飲み込んだ。


「うわ~、げっすぅ~。そんなんだから結婚できないんだよ~」

「うるせぇ! 地獄の沙汰も金次第なんだよ! 儲けたら高い焼肉奢ってやるから何も言うな!!」

「そういう事なら私にもだな……」

「あ、ぜったい肩幅削る気でしょ! 与田先生はそのままの方がいいよ~」


 そんな感じで、金に汚い大人達は恵に弄られていた。

 畦上監督がダメ人間で助かったな。そのお陰で再び采配に介入できる。

 

 これで相沢との差は完全に埋まった。

 むしろピッチャーが出来る分、俺が優勢と言っても過言ではない。

 2年前は好き放題やられた転生者対決。今度こそ、相沢の転生生活に終止符を打つ……!


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― 新着の感想 ―
[一言] 愛知県の高校の結果が変わった「とある理由」がめっちゃ気になります
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