47.その伝令の真意とは
都大三000 200 1=3
富士谷400 000 =4
(三)宇治原、吉田―山城
(富)金城、柏原―近藤
7回表の守備を終えると、三塁側のベンチに駆けていった。
「かっしー! もっとゆっくり攻めよー!」
ふと、スタンドの恵がそう叫んできた。
そうは言っても、簡単に出来たら苦労はしない。
俺は適当に手を振ると、ベンチに戻っていった。
7回裏の攻撃は5番の堂上から。
初球、ストレートを捉えるも特大のセンターフライ。
言ってる傍から早打ちしやがった。恵が頭を抱えている姿が容易に想像できる。
続く6番、鈴木も初球を打ち上げた。
彼らにチームプレイという言葉はないのだろうか。
そう頭を抱えていたが、鈴木の放った打球はグングンと伸びていくと、先程より浅いセンターの頭を越えていった。
「おぉ!!」
「優太ぁー! 走れー!」
打球はフェンスまで到達すると、鈴木は二塁も蹴っていった。
いい送球が返ってきたが、流れるようなスライディングがセーフとなり三塁打。
一死三塁、待望のチャンスを迎えた。
「7番 キャッチャー 近藤くん 背番号 2」
ブラスバンドが奏でる夏祭りと共に、女房役のゴリラが打席に入った。
下位打線の平均打率は1割台。その先頭を担う近藤は、不器用でミートセンスも壊滅的だが、飛ばす力だけならそこそこある。
犠牲フライに賭けるしかない。スクイズはやるだけ無駄だろう。
近藤は初球から振りにいった。
空振りしたが、この打者はそれでいい。
当たらない事のほうが多いので、スイングの試行回数を増やすしかない。
二球目、三球目、四球目は、何れも速い球をファール。
意外と当たっているな。最悪ゴロ、或は内野後方のフライでもいい。
前進守備だしグラウンド状態は最悪、前に飛ばせば何かが起きるかもしれない。
続く五球目、吉田さんは腕を振り下ろすと――。
「ットライーク! バッターアウトッ!」
落ちる球に全く合わず、空振り三振に終わった。
まあ近藤だし仕方がない。彼に打撃を期待するのは酷だろう。
8番は2年生の阿藤さん。
下位打線では唯一、打率が2割を越えている打者だったが、呆気なくセカンドフライで終わってしまった。
だめだ、下位打線じゃ太刀打ちできそうにない。
8回表、都大三高の攻撃は、5番の安田さんから。
右打者という事で、スライダー中心の組み立てで攻めると、最後は空振り三振に切って取った。
続く打者は元エースの主将・崎山さん。
今日はヒットを放っている。一打席目は11球も粘っていたし、センスの高い打者なのは間違いない。
初球、バックドアのスライダーは、見送られてストライク。
続く二球目のストレートは――鋭いスイングに弾き返された。
捉えた当たりはセンターの頭を越えていった。
打球はワンバウンドしてフェンスに当たると、クッション処理が乱れる間に、崎山さんは三塁まで到達した。
この回もピンチかよ。くそ、強力打線を相手にするのは疲れるな。
「タァイム!」
と、ここでタイムが取られると、内野陣が集まると共に、唯一控えの島井さんがマウンドに駆け付けた。
「……そういや、今日初めてっすね」
「そうだなー。ピンチなんて何度もあったけど……ま、結果的にまだリードしてるしいいんじゃね」
島井さんは気楽そうにそう言った。
守備のタイムは9回までに3度、延長では1回につき1度まで使える。
配分はチームによって様々だが、富士谷では3回共に瀬川監督に委ねられていた。
「で……監督は何て言ってました?」
「塁も空いてるし、あんまり投げ急ぐなって言ってたぜ~」
びっくりするくらい無難な内容だな。
確かに、もう一人出したら逆転の走者になるが、打線はここから下位に入る。
瀬川監督の言う通り、もう一人は出しても問題はない、という考えは一理ある。
ただ、それは9番までに切れるならの話だ。
万が一、2人出して1番まで回してしまうと、9回は確実に木田まで回る事になる。
そう考えたら、ここは最短で切るのがベストだ。もう奴とは対決したくない。
島井さんは、その後も無難な言葉を並べていくと、円陣を組んでからベンチに引いていった。
一死三塁、迎える打者は7番の山城さん。
174cm76kgと厚みのある右打者だが、スクイズの可能性も考えられる。
2点差で6番にやらせた中で、1点差で7番にやらせないとは考え辛い。
ただ、前回は失敗してる上に、残す攻撃は後2回。打ってくる可能性も十分にある。
初球、あえて高めのストレート。
見逃されてストライク。手を出してこないあたり、待てのサインが出ていたのだろうか。
二球目、外に逃げるスライダー。
スクイズの構えだけ。見逃されてボール。
仕掛けるとしたら次か、或は次の次だろう。
バッテリーとしては、ボール球を続けたくない。
三球目、狙いは外角高め、ストライク優先。
サイドから放たれるストレートは、打者から見ると浮き上がるように見える。
そう簡単にスクイズできる物ではない――が、同じ手が通じるとは思っていない。
ストライクを取りに行きつつ、いざとなれば緊急ウエストでスクイズを避ける。
それが外角高めの狙いだ。
俺は左足を上げるが、崎山さんはスタートを切らない。
予定通り、外角高めに速球を放る。山城さんは合わせたスイングで弾き返した。
打球はセカンドに転がっていく――不味い!
「わあああああああああああああ!!」
その瞬間、球場が響動めいた。
崎山さんがホームを狙う中で、阿藤さんは何とか捕球するも、慌ててボールを握り直した。
終わった――と思ったその時、崎山さんは足を取られて、三本間でスリップした。
「ホーム!!」
咄嗟に叫ぶと、阿藤さんは本塁に投げた。近藤がタッチしてランナーアウト。
ほっと安堵の息が漏れる。ようやく、天――というか地が味方してくれた。
二死一塁となり、続く吉田さんは三振に切って取った。
あと1回ゼロに抑えれば、対都立で無敵を誇る、都大三高の神話が崩れる。
都大三000 200 10=3
富士谷400 000 0=4
(三)宇治原、吉田―山城
(富)金城、柏原―近藤