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23.注目の審判は……

都大二003=3

国修館00=0

【都】折坂―岩田

【国】草薙、石井―清水

 3回裏、国修館の攻撃は1番の林から。

 東京ラプソディの音色が響く中、左打席でバットを構えた。


「(うーん、狙いが絞れない。セーフティでも狙ってみるか?)」

「(ふぅ、3点リードしてだいぶ楽になれたな)」


 マウンドには左腕の折坂。

 直球は常時135キロ弱だが、多彩な球種とコーナーを突くピッチングに定評がある。

 狙いを絞り易かった草薙と比べると、此方は攻略に苦労するかもしれない。


「……デッドボォ!」

「(お、ラッキー)」


 その初球、すっぽ抜けた緩い球は、林の背中に直撃した。

 先頭打者が出塁して反撃のチャンス。点差を考えたら連打が欲しい所だが、2番の横井はバントの構えを見せてきた。


 国修館はこういう展開に弱い。

 走って送って1点を取りに行く野球だと、どうしても打撃のチームに遅れをとってしまう。

 本日は相手捕手が岩田だから尚更だ。盗塁やエンドランも迂闊に使えず、手堅く送る野球を強いられていた。


 結局、横井は手堅く送って一死二塁。

 続く清水はフルカウントまで粘ったが、最後はセカンドゴロで打ち取られた。


「(っかー、二高と比べると打てねぇなぁ)」


 二死三塁となり、元同期の宮城が左打席に入る。

 応援曲はテンポを早くしたVICTORY。そういえば、東京では一瞬だけ採用されたっけか。

 特に流行る事もなく、GOGOサマーと共に廃れたけれども。


「(流石にセーフティはないよな?)」

「(最近の宮城は打ってくる。足の速さは健在だからフライ打たせるぞ)」


 二高の内野陣は揃って定位置。

 中軸としての自覚が芽生えた宮城なら、打ってくるという読みなのだろうか。

 ただ、二死三塁は1点取れれば上出来の状況。仕掛けてくる可能性は十分にある。


「ボール!」

「ットライーク!」

「ットライク、ツー!」


 折坂はピンチにも動じず、丁寧にコーナーを突いていった。

 簡単に追い込まれて2ストライク1ボール。こうなってくると、宮城は4番らしく打つしかない。

 幸い、彼なら流せば内野安打も狙える。とにかく左方向にゴロを転がしたい場面だった。


「(一塁空いてるしな、フォアでもいいから丁寧に……)」


 4球目、折坂はセットポジションから腕を振り下ろす。

 そして次の瞬間――宮城は唐突にバットを寝かすと、三塁側スタンドから歓声が沸き上がった。


「おおおおおおおおおお!!」

「(4番がスリーバント……!? 嘘だろ……!)」


 二死三塁、2ストライクからの大博打。

 流石にハイリスクローリターン過ぎると思ったが……宮城は難なく三塁線に転がしている。

 未警戒だった相沢は当然ながら追い付けない。折坂は白球を拾うも、何処にも投げられず内野安打が成立した。


「(けっけっけ、別に足を捨てた訳じゃねーんだよなぁ。長打でも内野安打でも1点ならこういう事もするぜ)」


 宮城は一塁上でガッツポーズを掲げている。

 二死三塁なら内野安打でもツーベースでも1点止まり。

 彼らしさを出すには丁度よい場面だった。尤も、4番が毎回コレでは流れも掴めないけれど。


「セーフ!!」

「足はえー!」


 場面は変わって二死一塁、宮城は初球から盗塁を決めて得点圏に進塁した。

 これで二死二塁。結果的にはツーベースと同じ状況を演出し、4番の責務は十分に果たした形となる。

 しかし、5番の水谷は空振り三振に倒れてしまい、国修館の反撃は1点で止まってしまった。


 やはりと言うべきか、連打で塁上を騒がせる二高と比べると、走者を大事に進める国修館はジリ貧に感じてしまう。

 二高はまだまだ点を取りそうなので尚更だ。ただ、折坂も打てない投手ではないので、宮城の前に走者を貯めて一掃したい所である。


 しかし……そんな思いも虚しく、都大二高は更に2点を追加した。

 一方、国修館は足を絡めて1点を返すのがやっと。5回を終了した時点で5対2となってしまう。

 ここで次の試合の主将が呼ばれ、俺は一足先に客席を後にした。





「じゃんけん」

「ぽんっ」

「じゃあ後攻で」


 舞台は変わって大会本部。

 俺と舞岡(明八の主将)はメンバー表を交換すると、続けて攻撃順を決めるジャンケンを行った。

 俺はチョキ、舞岡はパーで見事に勝利。勿論、有利とされている後攻を選ぶ。


「柏原、どうした?」

「いえ……なんでもないっす」


 俺はメンバー表を眺めていると、畦上監督は不思議そうに問い掛ける。

 相手のオーダーは予想と全く一緒。普通であれば特に引っ掛かる要素はない。

 ただ、俺が気になっていたのはスタメンではなく、本日の審判だった。



(球)滝山

(一)一ノ瀬

(二)二宮

(三)三田村



 懸念していた通り、審判は正史通りの布陣。

 つまり本日のゾーンは非常に狭く、想像を絶する乱打戦……というよりは選び合いが予想される。

 俺は制球には自信ある方だけど、一体どこまで狭いのか――未知のゾーンに不安が拭えなかった。


「お互い見知った仲でやり辛いですけど、本日はよろしくお願いします」

「ええ、お願いします。同じ八王子同士、良い試合をしましょう」


 その場を締め括るかのように、畦上監督と椙浦さん(明八の監督)が握手を交わす。

 すると傍にいた舞岡は、唐突に俺を見ながら親指を立ててきた。


「柏原、あとで我が四天王を紹介しに行くから楽しみに待ってろよ!」

「来ないで」


 もうご存じだし、頼むから試合前からペースを崩しに来ないで欲しい。

 と、言っても聞かないと思うので、俺は最寄りの防空壕を検索しながら持ち場に戻っていった。

都大二003 20=5

国修館001 01=2

【都】折坂―岩田

【国】草薙、石井―清水

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