17.選ばれし8校の強者
駒川大高との試合終了後、俺達はグラウンド整備を手伝ってから、一塁側ベンチを後にした。
入れ替わりで比野高校の選手が入っていく。同校は試合をした仲だったので、見知った顔も見受けられた。
「うわ……気まずっ」
「しゃーないっしょ~」
球場の表に出ると、京田と鈴木はポロっと言葉を溢す。
視線の先――三塁側ベンチの入り口付近では、駒川大高の選手達が涙を流していた。
駒川大高としては、竹下と中井の二枚看板を擁して上位進出を狙っていた世代。
竹下こそ怪我で打者に専念していたが、八玉学園や比野台を倒して実力は示せている。
しかし、勝ち上がりとしては5回戦敗退。ベスト16止まりとなってしまった。
「背番号3って誰だっけ。蹲ってんじゃん」
「竹下だろ。5番でファーストだったやつ」
「去年の春はエースだったよね。最後は一回も登板できなかったし、これは悔いが残るだろうなぁ」
蹲る竹下を眺めながら、選手達と言葉を交わしていく。
彼は1年秋から3年春まで、ずっとエースナンバーを託されていた。
誰よりも悔しいに違いない。正史では俺も同じ立場だったので、その気持ちは痛い程に分かる。
「木田……ありがとうな。ここまで来れたのはお前のお陰だよ」
「ほんと助かったぜ……!」
一方、木田哲也は、君島と中井から涙ながらに励まされていた。
「(天才の僕がまるで通用しなかった。これが遊び半分でやってた僕と、本気でやっていた柏原さん達の差か……。悔しいね)」
彼は帽子を深く被って俯いている。
やがて左手の甲で顔を拭うと、真剣な表情で顔を上げた。
そして――。
「……いえ、勝てなかったのは僕の落ち度です。この借りは責任を持って必ず返します」
言葉までは聞き取れなかったが、少しだけ笑みを浮かべたように見えた。
「ば、ばっか! お前にはサッカーがあるだろ!」
「勿論、サッカーは辞めませんよ。僕が辞めたら世界の損失になってしまいますから。ま、見ててください。世界で二番目の天才の生き様ってやつをね」
キチガイの弟・木田哲也。
最初は兄と同様の奇人だと思っていたが、思っていたよりは高校生らしい子なのかもしれない。
と、そんな事を思いながら、俺達は一塁側のスタンドへ向かっていった。
※
俺達は一塁側のスタンドで腰を下ろすと、さっそく東京高野連のHPを開いた。
目的は他でもない。準々決勝の相手、明神大仲野八玉と真央大杉並の試合結果を確認する為である。
尚、進捗は下記の通りだった。
【府中市民球場】
真大杉並401 001=6
明大仲八332 31=12
投手【真】吉岡、池上、中迫【明】福丸、黒島
捕手【真】岡本 【明】舞岡
本塁打【真】 【明】舞岡、奥村
三塁打【真】林 【明】後田、黒島、奥村
二塁打【真】吉岡、染野【明】舞岡、築地
シードの明八がリードしているが、随分と荒れた展開になっている
明八の試合は何時もこうだ。どういう訳か、お互いにミスが連鎖してバカ試合になる事が多い。
「今日も荒れてるなぁ」
「真大杉並って中堅校だろ? ここに苦戦してるなら普通に勝てそうじゃね?」
「けど今年の明八はタレント揃ってるって噂だよ」
「ホントかよー」
選手達はそんな言葉を並べながら、都立比野のシートノックを眺めていた。
八王子市民球場の第二試合は比野と創唖。尤も、この勝者とは決勝まで当たらないので、落ち着いたら撤収する予定になっている。
大会期間の時間は有限だ。準々決勝までは日程が空くけど、流石に対岸の試合で時間は潰せない。
という事で、俺達は3回が終了した所で球場を後にした。
この時点でのスコアは2対2の同点。明八も6回コールドで試合を決めて、続々とベスト8進出校が決まっていく。
やがて俺達は富士谷グラウンドに戻ると、調整がてら軽く汗を流した。
「恵ー、アイフォン見せてくれ!」
「はいはい~。ちゃんと手洗ってよ~」
練習の合間、選手達は一塁側のベンチ裏に集結する。
時刻は既に15時過ぎ。第二試合が終わっていても可笑しくない時間帯だ。
京田はアイフォンを受け取ると、全員で画面を覗き込んだ。
【八王子市民球場】
創唖002 010 000 0=3
比野110 000 001 1x=4
投手【創】畑森【比】佐瀬、足立、佐瀬
捕手【創】竹中【比】高尾
本塁打【創】宮原【比】
三塁打【創】 【比】工藤
二塁打【創】菊川【比】川島、玉井
【府中市民球場】
帝皇八玉000 00=0
都大亀丘600 13x=10
投手【帝】中本、大池【都】松田
捕手【帝】村瀬 【都】金井
本塁打【帝】 【都】勝吉
三塁打【帝】 【都】木村
二塁打【帝】 【都】勝吉、金井、木村、清野
土壇場で追い付いた比野は勢いそのままに逆転サヨナラ勝ち。
一方、都大亀ヶ丘は、名前だけは強そうな中堅校に余裕のコールド勝ちを決めていた。
これでベスト8は全てシード校。
序盤こそ波乱の連続だったが、上位進出は順当な結果になった。
都立が2校も残ったという意味では、西東京らしくない結果とも言えるけども。
さて……明神大仲野八玉との準々決勝は7月24日、10時開始の第一試合で予定されている。
ただ、正史通りなら前日の試合が雨天で流れる為、実際は玉突きで第三試合に変更される予定だ。
どちらにせよ、中5日と十分に休めるので、万全の状態で神宮に臨みたい。




