表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
444/699

6.近い未来と遠い未来

ワクチンの副反応で寝てました。

今日からペース上げられるよう頑張ります……!

 久保の夏が終わった翌日。

 ヤグラ右上ブロックの2回戦も全て終わり、待ちに待たされた初戦の相手が青瀬に決まった。

 尚、富士谷ブロックの結果は下記の通りである。



A青瀬8―1赤梅総合(7回コールド)


B都大桜庭3―6田梨

C桜美大町田1―7江狛


D西府西10―4拝嶋

E明学大西村山3―0百歳丘


F国秀院久山4―5x比野台

G八玉学園4―6駒川大高



 田梨、江狛と都立勢が古豪に勝利。

 百歳丘こそ中堅私立に負けたが、珍しく都立校の比率が上がってきた。

 財原を擁する比野台、元同期のいる西府西の頑張り次第では、ベスト32は都立一色になるかもしれない。


 ちなみに余談だが、開幕ゲームで劇的な勝利を飾った福生は、2回戦で谷田世学園にコールド負けを喫してしまった。

 やはり強襲打が不味かったのだろうか。中里は野手としてすら出場できず、控え投手陣が滅多打ちにされて最後の夏を終えたらしい。


 彼は本来なら、富士谷でベスト16まで勝ち上がる選手だ。

 それが俺達のせいで2回戦敗退。こうなってくると、少なからず罪悪感を感じてしまう。


 ただ、中里は去年ベスト16に残った他、正史では勝てなかった佼呈学園にも勝利している。

 そう考えたら、彼は正史よりも少しだけ報われたのかもしれない。

 と、自分に言い聞かせながら、本来のエースの最期を締め括った。





「おまえらさー、進路希望どうした?」


 その日の練習前、唐突に問い掛けてきたのは京田だった。

 3年生にとっては欠かせない進路の話。そういえば、皆の進路というものを存じ上げないな。


「僕は大学進学。明神や蒼山あたりを受けてみるよ」

「俺は都大とか専秀とか、その編の偏差値の所だな」

「なにぃ! おまえらコッソリ勉強しやがって! 俺なんて国修舘でも厳しいって言われたぞ!」


 野本、近藤、京田は大学進学するようだ。

 非常に無難というべきか。驚くほどツッコミ所がないな。


「学費免除なら大学いきて〜けど、無理なら就職だな〜」

「俺も俺も。これ以上は姉ちゃんに迷惑かけられないし」


 鈴木と渡辺は就職寄り。鈴木は口振りからして野球で就活するつもりだ。

 渡辺も打力のあるショートなので、甲子園での活躍次第では野球で就職できるかしれない。


「で、プロ注の君らはどうなん」

「ふむ……非常に悩ましい選択だが、俺は高卒でプロを目指す。学も大事だが、それ以上に早く自立したい」

「俺は上位指名なら高卒プロだな。確信が得られなきゃセレクションで大学進学するわ」


 堂上は高卒プロ狙い。彼は頭も良いので少し勿体無い気がする。

 そして俺も上位指名が決定的なら高卒プロ。これに関しては、甲子園での活躍を判断材料にするつもりだ。


 なにせ甲子園のスターは評価が無駄にインフレする。

 もし都大三高を倒して、甲子園でも上位進出すれば、3位以内での指名は堅くなってくるだろう。


「マネ供は?」

「私は大学だな。どこ行くかは決めてないけど、真中先生には駒川を勧められてる」


 続けてマネージャー陣。成績の良い夏美は大学進学のようだ。

 残りの2人はどうだろう。偏見だけど恵はアパレルとか美容系が似合いそうだが……。


「私も大学行くよ~」


 恵はそう言い放つと、3年生達は一斉に吹き出した。

 常に赤点ギリギリの恵が何処へ行くんだ。このままだと定員割れの大学しか入れないぞ。


「はぁー!? 俺よりバカな恵は無理だろ!」

「浪人してでも絶対行くし!」

「恵ちゃん遊びたいだけっしょ~」

「ち~が~い~ま~すぅ~。これでも将来の夢とかあるんですぅ~」

「絶対無い……」


 当然ながら選手達からも弄られている。

 さて、残るはタダ乗りの達人こと琴穂。しれっと会話に入らないフリをしていたが、段々と注目が集まっていく。


「ほ~ら~。隠す事じゃないでしょ~、教えなよ~」


 やがて恵に催促されると、琴穂は恥ずかしそうに俺の服を掴んできた。

 そして――。


「……私はプロ野球選手のお嫁さんっ」


 なんて言うものだから、京田がかつてない程キレてそうな表情でガン飛ばしてきた。

 うん、俺の彼女は今日も最高に可愛いな。ただ、担任の谷繁先生は過去最高に困ったに違いない。


「ふむ……しかしだな琴穂。柏原と結婚すると決まった訳でもなければ、柏原がプロ野球選手として成功する保証もない。そうなってくると、琴穂自身の稼ぎも必要になる訳だが……」

「するもんっ!」

「しなかったらの話だ。職歴の無い高卒が働ける場所は限られている。それとも、柏原がダメだったら他のプロ野球選手に乗り換えるつもりか?」


 唐突に突っ掛かってきたのは堂上である。

 何をそんなキレてるんだよ、と言ってやろうと思ったが、意外にも琴穂は動揺していなかった。

 それはまるで、想定内の批判だと言わんばかりに。


「ううん、そんなことしないよっ。プロ野球選手じゃなくても、お金なんて無くても、かっしーと一緒なら私は幸せだもん」

「琴穂……」


 琴穂はそう言って笑顔を見せると、俺は思わず感動してしまった。

 なんて良い子なんだろう。こんな天使みたいな子が俺の恋人で良いのだろうか。


 と、感動的な雰囲気になったのも束の間、堂上は琴穂に迫ってきた。

 そして両手で琴穂の頭を掴むと――。


「真面目に考えないと破滅の道に進むぞ。就職する気がないのであれば、専門でもいいから必ず進学しろ。いいな?」


 無表情のまま、そう言い放ってきた。

 いくらなんでも人の恋人に入れ込みすぎだろ。何が彼を駆り立てているのだろうか……。


「ひゃ、ひゃい……」


 琴穂は目を丸めながら震えている。

 よほど怖かったのだろうか。こんなに怯えた琴穂を見たのは、一緒にホラー映画を見たとき以来だった。

 

 結局、この一件が切っ掛けで、琴穂は看護師の専門学校に行くと言い出した。

 彼女の学力で行けるかは不明だが、堂上は満足したようで、無事に和解したらしい。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 高校を卒業したら実家から追放される事が確定している堂上くんにいい話が来てほしいな。 ◯◯丸さんみたいにプロ初参加のキャンプで怪我して、 引退した選手もいっぱいいますものね。
[良い点] 堂上しっかり琴穂のこと考えてくれてる。無表情だけど良い奴だなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ