43.迫る重圧
都大三000=0
富士谷400=4
(三)宇治原、吉田―山城
(富)金城―近藤
2、3回はお互いにゼロが並んだ。
立ち直った吉田さんに対して、富士谷打線は手も足も出ない。
一方で、孝太さんは3回で7奪三振を記録するも、球数は既に67球に到達していた。
4回の表、都大三高の攻撃は、3番の吉沢さんから。
雨脚が強まる中、孝太さんは速球を投げ込むと、吉沢さんはフルスイングで空振った。
この打者は小細工なしか。正直、そのほうが助かるな。
二球目もストレート。捉えた当たりはセカンド正面に転がるも、阿藤さんは後ろに逸らしてしまった。
全然助からなかった。しっかりしてくれ2年生。
無死一塁、続く打者は頭のおかしい4番打者・木田哲人。
彼は左打席の前に立つと、孝太さんを見て笑った。
「今日はいい天気だね。え、雨降ってる? 天才は天気に左右されないから、いつでもいい天気なんだよね。アハハハハハハハ!」
木田が何か喋ると、客席から苦笑いが溢れる。
普通の高校生は打席で喋ったりはしない。これは木田特有のルーティン――というか、ただの奇行である。
木田は左打席に入ると、右手に握ったバットをゆっくり回して、両手に持ち変えた。
先程はこの打者から小細工が始まったが、果たしてどう攻めてくるか。
注目の初球――孝太さんの放ったストレートに、木田は渾身のフルスイングで答えた。
「ライトバックー!!」
けたたましい音と共に、そんな叫びが何処からか聞こえた。
弾道の高い山なりの打球は、右中間に向かって大きく上がる。俺は目線を切って走り出した。
横目で打球を見る。
まだ伸びる、もっと後ろだ。
もう一度、打球を見上げる。
まだだ、そろそろフェンスが近い。
右手がクッションに付いた。
灰色の空を見上げる。その瞬間――自然と息が漏れた。
「まじか……」
打球は遥か上を飛んでいくと、悠々とフェンスを越えていった。
二塁審が腕をクルクル回している。ツーランホームランだった。
ストレートしか打つ気がない、と言わんばかりのスイングだった。
これだけストレートを多投していたら無理もない。今までは力で捩じ伏せていたが、球威や制球も落ちてきてたのだろう。
後続は三振、ライト前、投ゴロ併殺で追加点は阻止するも、4回裏は呆気なく三者凡退で終わってしまった。
まだリードしている筈なのに、全く優勢な気がしない。これが名門の重圧という物なのだろうか。
「かっしー! 守備に集中しよう!」
守りにつく前、恵の声がしたので、スタンドを見上げてみた。
恵はまだ元気そうだったけど、琴穂は不安げな表情で、恵の手を握っていた。
大丈夫、今日のプランは先行逃げ切り。
孝太さんが5回を2失点で抑えて、残りを俺が完封すれば正史通りの展開だ。
と、言うわけにはいかなかったので、俺は控え目に手を振ってから、淡々とライトの守備位置に向かった。
都大三000 2=2
富士谷400 0=4
(三)宇治原、吉田―山城
(富)金城―近藤