表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
424/699

18.女神さまの置き土産(表)

 2012年6月4日。

 柏原達が交際を始めて最初の月曜日、私は恵の誘いで喫茶店を訪れていた。

 別になんてことはない。本日はオフなので、シンプルに寄り道するに至った。


「あーあ、2人になっちゃったね~」


 恵は涼しい顔をしながら、パフェとカツサンドを食している。

 彼女は決して大食いではない。恐らく、失恋のショックで過食になっているのだ。

 なんというか……覚悟していたことだけど、少しばかり心配だな。

 

「……大丈夫か?」

「なにが~?」

「いや、失恋しただろ」

「そりゃショックだけど、こうなるのは覚悟してたし、私が振られたのは随分と前だしね~」 

「はぁ!? 告白してたのかよ! 続報ないから踏み留まったのかと思ったわ!」

「えぇ……。マジで知らなかったの? あんなに噂になってたのに……」

「そういうの疎いんだよ私は!」

「知ってるぅ~」


 一応、恵は気にしていないと言い張っていた。

 本人が平気だと言うなら放っておくか。というか告白したの知らなかった。

 全く、相談にも乗ったんだから報告しろよな。


「そういや、絶対に一矢報いるって言ってたけど、アレなんだったんだ?」


 ということで、私は気になっていた部分に踏み込んでみた。

 以前、彼女は「絶対に一矢報いる」と意気込んでいたけど、結局なにをどうしたのだろうか。


「ん~、秘密」

「教えろよ、相談にも乗っただろ」

「嫌ですぅ~。ま、そのうち分かるかもね~?」

「はぁ? いいから教えろって」

「だーめっ。これは私だけの秘密だから!」


 私は食い下がってみたけど、恵は頑として教えようとしない。

 すると次の瞬間……彼女は唐突にお腹を擦りだした。


「おまえ、まさか……」

「冗談冗談。流石にゴムの方のゴリくん付けてたよ」

「そこまではやったの!? 嘘だろ!?!?」

「あ、通じたんだ。なっちゃんも大人になったね~」

「流石に分かるわ来月18歳だぞ!」

「(いや今までの純粋っぷりは中々ヤバかったよ……)」


 そこまで言葉を交わすと、恵は呆れた表情で睨んできた。

 流石の私も何が起きたか分かる。恐らく、蔵で堂上にされた事の続きだ。

 恵は文字通り体を張って、柏原との思い出を体に刻んだと。


「あ、けどコレだけで一矢報いたとは思ってないよ」

「そうなのか。いや十分に報いたと思うけど……」

「まー楽しみにしてて! そのうち分かると思うから」

「はぁ」


 しかし、随分ともったいぶってくるな。

 彼女は何をしたのだろうか。そういえば、琴穂と2人になりたいとは言っていたけれど……。


「ねねっ、ところでさ。なっちゃんはショックじゃないの?」


 私は一人で考えていると、恵は唐突に話題を切り替えてきた。

 こっちは全くと言っていいほど気にしていない。見当違いもよいところである。


「別に。私は柏原と付き合いたいとか思ったことねーし」

「え~。クリスマスデートまでしたのにぃ~?」

「ただの買い物だよ。楽しかったけどさ」


 懐かしいな。 

 柏原とは、カラオケを抜け出してクレーンゲームをしたり、クリスマスに夜の新宿で遊んだこともあった。

 今では随分と昔のことのように思える。そして――この日常は二度と戻ってこない……と。


「まぁ、ちょっとは寂しく思うけどよ」

「ふふっ、でしょ~。私も文化祭とか一緒に回ったけどさ、もう二人きりじゃ遊べないって思うと……寂しいよね」

「恵……」


 恵は寂しそうな表情を浮かべている。

 やはり傷は浅くない。みんなの前では平気なフリをしているけど、本当は物凄く辛いのだ。


「なっちゃん」

「なんだよ」

「ふふっ、次は逃げちゃダメだよ」


 ふと、恵は笑みを溢しながら挑発してきた。

 別に今回は逃げた訳では無い。元から柏原の恋人なんて狙っていなかっただけ。

 ただ、彼女が言いたいことは分かる。みなまでは言わないけど、これは失恋を経験した恵なりの警告なのだ。


「べ、別に。次とかねーし……」

「じゃ、私がとっちゃおうかな~」

「……! 節操なさすぎだろ! いいから喪に服してろ!」


 そんな感じで、私達はいつも通り喫茶店でお喋りを続けた。

 いや、厳密に言えば足りないか。1人欠けた私達は、いつもより寂しい放課後を過ごしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ