表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/699

42.名門校の適応力

都大三0=0

富士谷4=4

(都)宇治原、吉田―山城

(富)金城―近藤

 1回裏、尚も無死無塁。

 続く堂上は初球を捉えるも、フェンス手前のレフトフライに倒れた。

 鈴木は粘った末に四球。一死一塁で近藤を迎えたが、珍しく捉えた当たりはショートへのゴロ併殺となってしまった。


 雨空の中、選手達は速やかに攻守交代を行って、俺はライトの守備位置に付いた。

 都大三高相手に4点リード、二度とないチャンスだ。ノーゲームで再試合なんて洒落にもならない。


 高校野球で雨天コールドが成立するのは7回。

 尤も、正史では9回まで完走しているので、その心配は不要の筈なのだが、どうしても不安は拭えなかった。


 2回表、都大三高の攻撃。

 先頭打者は背番号19の木田哲人。1年生ながら名門の4番を任された左のスラッガーだ。

 現時点で180cm74kg。まだ細いが、この選手は「キチガイ」の一言で片付けられるくらい、実力も性格もイカれている。


 正史において、彼が起こした珍事は数知れない。

 ある日は規格外の打球で多摩一本杉球場の照明を破壊し、またある日はワンバンの変化球を二塁打にし、挙げ句には満塁で敬遠されて、その敬遠球をタイムリーヒットにした。

 それくらい、この打者はイカれている。転生者よりも遥かに反則的な存在だ。

 そんなキチガイに対しての初球――木田は唐突にバットを寝かせてきた。


「ッボォ!」


 孝太さんは慌てて前に出たが、バットを引いてボール。

 4番の癖にやる事がセコイな。何か狙いがあるのか?

 続く二球目、再びセーフティバントの構えだけ。バットを引いてストライク。

 三球目はセーフティの構えから高速バスター。後ろに飛んでファールとなった。


 追い込まれると、木田はバットを短く握った。

 所謂「当てただけ」のスイングで粘っていく。簡単にカットできるあたりは、流石の才能と言っていいだろう。

 計8球を投じさせると、カウントはツースリーとなった。


 滅茶苦茶セコいし鬱陶しい。

 球数が増えたら本末転倒だ。近藤も同じ事を思っているだろう。


 九球目、孝太さんが放った速い球は、鋭く落ちていった。

 木田はバットを止めて、一塁に歩き出したが――。


「……ットライク! バッターアウッ!」


 審判の右腕が上がって見逃し三振。

 セルフジャッジに失敗した木田は、不敵な笑みを溢してベンチに消えていった。


 孝太さんの本当の決め球「高速シンカー」だ。

 本人はツーシームの一種だと言い張っているこの球は、普段のツーシームよりも更に深く沈む。


 ただ、この球は肘の古傷に響くらしく、今の孝太さんは多投する事ができない。

 基本は負荷が少ないストレート、チェンジアップ、ツーシームを軸に、左打者にはプラスしてスライダー。

 そして――この天才打者との対決に限り「決め球」を解禁するしかない。


 続く5番打者は右打者の安田さん。

 177cm80kgと体格も良いのだが――初球、またもバットを寝かせてきた。

 これも外れてボール。孝太さんは小さく息を吐くと、雨水混じりの汗を拭った。


 木田と同様に、安田さんも小細工で揺さぶると、やがてバットを短く持った。

 そして迎えた七球目のチェンジアップ。合わせたスイングで打ち損じた打球は、レフト前へのポテンヒットとなった。


「(耐球かよ。名門の癖にやる事が小せぇな)」


 怒濤の小細工を前に、俺は苦虫を噛み締める。

 孝太さんは故障持ち。それに加え、今日は約2年振りの登板となった。

 マウンドに慣れていないのは、知っている人から見れば明らかだろう。


 後続の二人は三振で切って取るも、6番の崎山さんには12球、7番の山城さんには7球を使ってしまった。

 俺の出番は、思ってた以上に早く来るのかもしれない。

都大三00=0

富士谷4=4

(都)宇治原、吉田―山城

(富)金城―近藤

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ